対話はできず
AIと戦え?
すまねえ、アメリカ語はさっぱりなんだ。
で
予定通り会談は始まったのだが
話し合いは微塵も行われなかった
『これで全員ですかな?』
『ええ、これが首脳陣です、欠員ありません』
『よろしい』
以上である
シオンが持ってきたノートパソコンで会議室の様子は確認でき、押しかけてきた北連の代表は5人、それに護衛の兵士が2人だけついている。対するバンカーは10人、うち1人が総隊長で、武器を携行するのも事態を瞬時に察せるのも彼のみだった。総隊長の右手がハンドガンを掴んだのとほぼ同時に相手方の一番偉そうな奴が手のひらを上げて下ろし、サブマシンガンが連射を開始。
「クソが!!」
あまりに急すぎて全員揃っていない、メルとアトラはシェルター奥にこもったまま、ヒナはそれを呼びに行っている。銃声が鳴り始めたかどうかのタイミングでシオンはC4を起爆、コンクリ壁を吹き飛ばした。モニター含めて視界は粉塵に覆い尽くされ、衝撃波が体を揺さぶる。
「何だこの小娘…! がっ……!」
最初に突入したのはティオだった、視界ゼロを意にも介さず破口へ飛び込み、左右のエモノを抜刀、勢いよく水を撒き散らしたような音を出す。続いてフェルトが視界回復後に追従、数発を撃ち込んで、その後に鈴蘭も続く。
「隊長! リーダー!」
最後の1人の首が撥ねられるところだった、ティオの右刀が振るわれ頭部が飛翔、残りはどちゃりと床に倒れる。こちらに背を向けた彼女は両刀を血払い、鞘に収め、総隊長に駆け寄るシオンへ視線を移す。仰向けに倒れる総隊長は胸に被弾しており、空気の漏れるような呼吸からして肺をやられたらしい。直ちにナイフで衣服を裂き、傷口を確認、ファーストエイドパックからチェストシールを選択して貼り付ける。しかし肺に穴が開いたならこれでは不十分だ、漏れた空気が体内で溜まって気圧を上げ、無事な肺や心臓を圧迫してしまう。さりとて傷口を塞がないと失血死、この場ではどうしようもない。
「ぐ……俺の他には…?」
「あー……全員死んでる」
「畜生…混戦になるぞ……早く行け、俺の事はいい、なんとかなる……」
「そういう訳にもいかねーんですよ。先に行ってください、ティーを見つけて防御体勢構築をしないと」
防御、というよりは掃討か、会議室から廊下に出ると地上からの銃声が聞こえてきた。全域で戦闘が起きているらしい、無線通信に耳を傾ければ主に中央広場と北門が攻撃対象になったようで、ちらほらとティーの声も聞こえる、あと壁の外に布陣してるレアの悲鳴も。
「目的は何なんです!?」
「装備だろうねぇ。普通なら協力すればいいだけなんだけど、違う体制を持った集団の存在を認めちゃうと崩壊が始まる人達だし」
実態は別として、共産主義とはすべての人間を平等とし、すべてのものを共有財産とする考え方である。これを実現するためには世界中に同じ思想を敷かなければならない、他の考えを認めてはならない。人間の欲求を全面否定する思想なので、個人資産の存在を少しでも認めてしまえば俺も私もと欲が爆発する。彼ら、北連はバンカーの装備と技術を欲しているのだが、今の体制を維持したままそれを達成するにはバンカーを屈服させるしかない訳だ。それを知っているから微塵も話し合いをしなかった、奇襲のタイミングだけを図っていたのである。
『よぉーし! 緊急事態につき鈴蘭! あなたも戦力として数えます!』
「はい!」
『フェルト、ティオ、鈴蘭がアルファチーム! ヒナ、メル、アトラがブラボーチーム! まず内部の安全を確保します! 外でも戦闘が始まってるみてーですがひとまず後回し!』
階段を駆け上がり本部施設の1階へ、そこでまたティオが先行して外に飛び出し、直後に撃ち込まれた弾丸を難なく回避。左腰の刀を右手で抜いて、まず1人の胸を、次に左手で右腰の刀を垂直に振り下ろし、もう1人の頭を縦割りした。北連の兵士、バンカーのフリースジャケットよりずっと厚くて暖かそうなコート姿の人間は他にもいたが、重たそうな木製銃床のサブマシンガンがティオに向けられるよりずっと早くフェルトが発砲、3人を倒す。それの反対側から別の兵士が現れたので咄嗟にライフルを持ち上げ、近距離スコープ越しに照準、トリガーを引く。
極端に軽い設定だったそれは標準に戻され、代わりにフルオートの発射レートを落とされている。1発ごとの発射音がしっかり認識できる程度の連射で弾丸が発射され、1人に命中、腹部から血を噴いて倒れた。他の兵士は建物の陰まで退がっていったが、外れた数発が赤光を纏って急速反転し追跡、複数の倒れる音を立てる。
「ぁ……」
咄嗟に撃った、人を殺した。我に返って呆然としてしまい、フェルトに肩を掴まれなければまだ突っ立っていたろうが、半ば無理矢理回転させられ、いつも通りのふんわりした笑顔が視界に収まる。
「今あなたは私達と自分を守っただけ、いいね?」
「は…はい……」
かけられた言葉はそれだけ、しかし押し寄せかけていた感情はかなり和らいだ。
落ち着いて辺りを観察するとそこかしこに死体と血だまり、銃声と悲鳴がそこかしこで響く。ぼけっとした分だけ無用な死体は増え続けるだろう、落ち込むのは後だ、両手で頬を強く叩く。
『ヘリポートに攻撃が集中し始めたとのことです、ティーもそこにいます』
「すぐに向かうよぉ!」
シオンからの情報に従って足を広場の反対側へ。
敵味方入り乱れた大混戦に飛び込んでいく。




