星からの便り
「鈴蘭、解析が終わったから返すって。複製不可能って解析結果だけど」
爆破すべき壁の特定と爆薬の設置までは速やかに終了、シオンとヒナは機材を運び入れるといって上へ、メルはついでに雑事を済ませるといってアトラを連れ下に行ってしまい、突入ポイントに残ったフェルト、ティオとぽつぽつ雑談していた鈴蘭だったが、1人で戻ってきたヒナにイヤホンとスロートマイクを渡された。ここで目覚めた時に使った通信セットで、使い方がわからず預けていたものだ。周波数の合わせ方は判明(周りの電波を自動認識)したらしいのだが、何がどうなってそうなるのかはまったくわからず、結局これはワンオフ、鈴蘭専用装備となった。装備といえば借りていたマークスマンライフル、なんだかんだあって正式に譲渡となった。初心者向けとはとても言えないライフルスコープとダットサイトは取り払ってしまい、1.5〜4倍可変の大口径スコープに変えてある。
「アンタはこっち側でいいの? ついてきただけっぽいけど」
「姉様が好きなものは私も好き」
「あ、そ」
「姉様が好きなものは……」
「ちょっと手握んないでよ!!」
などとヒナティオがやっているのを尻目にヘッドギアを外し、とりあえずイヤホンを付けてみる。やはりこちらの方が圧倒的に軽い、周波数は戦闘隊の共通周波数に合わせてあるらしいので、切り替えてしまっていいだろう。スロートマイクも首に装着、フェルトとの間で「聞こえますか?」「聞こえるよぉー」と交わし、ヘッドギアを床に置く。
『鈴蘭』
そうしたらすぐ、しばらく聞いていなかった声が聞こえてきて。
「アステル?」
「へ…?」
「あ……ちょっと待っててください」
今の声、フェルトには聞こえなかったらしい、後の2人はなんか取っ組み合うのに夢中なのでわからないが、おそらく鈴蘭しか聞こえていない。フェルトに言いつつ部屋を出、廊下でスロートマイクを押さえる。
「今までどうしてたんです?」
『色々あって……私の事はいいから、少し説明させて。今あなた達が対峙してる集団、考えてる以上に酷い』
目覚めてからの最初の味方、地上に出てから音信不通だったが、久しぶりに現れた。いや現れたといっても姿を見た事は無いけれども。
「どういう事…?」
『まずその拠点、通称バンカーの存在を知った後、彼らはトンネルを見つけて制圧した。そこには50人前後が住んでいたけど、従属を約束した2人を除いて殺されてる』
「え……」
『さらに道中、消耗品の補給のために集落を襲ってる。備蓄してあったものをすべて持ち去って、死者100人以上。共産主義ではこの世すべての財産は共同所有されるものだから、任務遂行のために物資を徴収した、なんていうのが言い分』
「あの、それ、助かった人は」
『大丈夫、なんとかした。とにかく私が言いたいのは、理想を失った社会主義、共産主義、もしくはマルクス主義っていうのは本来の機能をまったく発揮しない、自己中心的思考の塊みたいなものだっていう事』
嘘、ではないだろう、わざわざそんな事をする理由が無いし、ヒナやフェルトから聞かされた話とも一致する。
アステルの言う通り、皆が思っている以上にまずいものを入れてしまったのかもしれない。何はともあれ人間なのだから、AI兵器と戦うという目的で一致できると信じていたのだが、『彼らはそれを第一目的としてない、この環境を受け入れて、その中で繁栄を目指してる』と付け足されれば言葉を失ってしまう。
人間、という条件だけで信用してしまっていた。
『ごめんね、意地悪してる訳じゃないんだけど』
「いえ……」
『それで、ここから先の事は指揮官の人にもメールで伝えた話で、彼らの装備はすごく古い。装弾数5発のボルトアクションライフルを主力に、一部がサブマシンガンやショットガンを装備してて、車両の半分にマシンガンを据え付けてる。対装甲装備は迫撃砲とロケットランチャー、こちらはバンカーの外に待機してる部隊だけが持ってる。額面上のステータスならお話にならない戦力差だけど、既に壁の外側に入れてしまっている以上、それはあまり重要じゃない』
左腕の時計を見る、会談の開始まで1分を切っていた。アステルの話を信じるならまずい事態が起きそうだ、ライフルのチャージングハンドルを引いて初弾を装填、確認のため一度構えてみる。
『気をつけて、また連絡する』
ちょうど、通信機材を抱えるシオンもやってきた、部屋に戻って備えよう。
勘違い、で済めばいいのだが。




