終末会議1
「来てやったぞ、まったく都合が悪くなった途端に手のひら返しよって」
どこかしらで手に入れてきたらしい黒のレインポンチョで上半身と頭部を覆った真っ黒女性が最初に、何も隠していない短髪少女が次に入室してきた。途端にティーの右手がコンバットソードの柄に触れるも、ヒナと黒女性が同時に制止をジェスチャー。
「落ち着きたまえ(CV諏訪部)、今ここで我々が争っても仕方あるまい(CV諏訪部)」
「いきなりイケボ出すんじゃないの」
「なんかハマってきた」
と、脈絡なく声が男になったり女になったりしてるのがアトラ、AI制御のアンドロイドである。人類側から付けられたコードネームはナイトメアで、幅1kmの谷挟んでヒナと殴り合い(原文ママ)した相手だとか。フードを取ると現れたのは黒の長髪、浮かべる笑顔は印象がよろしくない。今のところは人間そのものだ、機械とはとてもじゃないが気付けない。
次いで彼女の左腕に引っ付く妹がティオ、ジャック・ザ・リッパーの渾名を持つ。両腰に直刀を備えており、「姉様……」と時折呟く。ちゃんと話してみたい鈴蘭だったが、迂闊に近付くなとの事前情報があって、アトラからもその場で「関わるとロクな目に合わんぞ」と言われる。当人が頬を膨らませる中、2人はさっきメルが用意した充電設備へ近寄ってごそごそやり出した。
状況を確認しよう、ここはバンカーの外で、廃都市の郊外、旧陸軍施設"B1"という場所だ。施設のほぼすべてが地下にある、荒野の工場と同じ構造なのだが、大部分は崩落しており、使えるのは最も浅い場所にある司令室とその周辺の数部屋、後は非常用発電室のみ。発電機は補修と起動を終えて司令室に電力を供給中、室内は明るい。そしてそれを使って姉妹は充電を始めたようだ。
この場にいるのは姉妹とサーティエイトの他にはティー、それとフェイがいる、話に興味があるようで、ヘリをそこらに隠してついてきた。
情報交換をするため、である。姉妹を壁の内側に入れられないのもあるが、今のバンカーにひそひそ話ができる場所はほとんど無い。部外者まみれだ、しかも我が物顔で歩き回る。
「じゃあ話を始めます、我々が(一応)初めて接触した(事になってる)AIへの対抗手段を持つ組織、自称"人類北部連合"、便宜上ここでは"そびえ立つクソ"と呼びますが」
「北連、北連ね。あと小声でなんか言ってなかった?」
「言ってない言ってない」
人が揃ったのでシオンが喋り出した、ツッコミ所まみれだったのですぐティーに割り込まれる。
実のところ初めてではない、らしい。フェルトの故郷もかなり強力だったし、今回の件も予兆はあった。前者は論理的に、というかこの世にいちゃいけない奴だったので抹殺した上で無報告。後者も、こんなに早く山越えを果たすとは思っていなかった。
「奴らが信用できない人、挙手」
全員が手を挙げる。
同盟を結びたい、と言って寄ってきたものの、まったく友好的ではない。中に入る許可を得るなり態度を硬化させ、何を聞いても「話がまとまるまで教えられない」の一点張り。だというのに向こうはあっちこっちとバンカー内部を調べ回り、しかも武装解除もしていない。何をしてるかと言えばつい先日サーティエイトがやったばかりだ、効率的な制圧手順を構築しているのである。
「偉いさんには伝えたの?」
「伝えたけどね、ようやく見つかった外部の仲間に浮かれちゃっててさ」
「多少の不利は認めるつもりっぽ、そういう内容のメールがちらほら飛んでる」
ヒナの質問にはティーとメルが回答する、「なんでメールの内容知ってんの?」という新たな疑問も生まれたが彼女は無視。
「……2個小隊分の人員が協力を約束してくれた、これで万一に備える。つっても向こうがふっかけてくるまで何もできんけど」
「じゃ、何をしときます?」
「6時間後、双方の代表者が司令部で会談する、地下の会議室だ。調べたところあの部屋は壁1枚爆破すれば地下シェルターと繋がるらしい、キミたちはその場所を割り出してC4を仕掛けておいておくれ」
「弾は?」
「実弾」
何かあったら殺せ、と中隊長はおっしゃった。新開発の訓練弾の鎮圧能力は知っている筈だが、意識を奪うほどではない、熟練なら反撃してくるだろう。それを聞いて鈴蘭はやや声を漏らすも、「向こうが撃ってこないならこっちも撃たんさ」と先に言われてしまう。
「この2人を中に入れても?」
「うぬ……」
「私は信用してもいい」
と、現状心許ない即応戦力を補強するためか、いきなり話題に出されたアトラとティオがばっと振り返った、頭にコードがくっついていた。ティーは渋ったものの、フェイがぽつりと言えば了承、充電終わりのヘリ搭乗を指示される。
「ここはセーフハウスに使えそうだね、万が一の場合はここを再集結地点にしよう」
「オーケー、時間が無い、戻りますよ。フェルト、そのソファはもう諦めろ、布敷いたくらいじゃどうにもならん」




