会議する
病院のミーティングルームに入ると金髪の男がガリレオとかガーリーとか呼ばれていた。
「ガリレオ?」
「ああ、なんか本名を口にすると呪いが降りかかるらしくて」
プロジェクター投影のため壁に白いシートを貼り付ける白衣の男である、フェルトの声に気付くと手を止めて振り返る。余計な事は言うなよ、みたいな睨み顔だ、それを見てふへっと笑い、真横のシオンへ目を戻す。
「違うよぉ、あの人両親がヒッピーで」
「おいやめろ」
「ものすごい名前つけられて」
「やめろと言っとろうが!」
とかなんとか騒いでいる間に参加者が揃う、サーティエイトの他には病院の重役、バンカーの総隊長とその部下数名、数名の中にはティーも含まれる。最後に遅れて現れたレアはアームホルダーで片腕を吊っていた、どこか骨折したらしい。
「どぉしたの?」
「クレイモアみたいなの受けちゃって…全治2週間……」
「丁度いいから部隊指揮について猛特訓中」
聞けば返答はそれ、さらにティーが付け足した。現場からは外れているようで、普段常備するハンドガンを持っていない。
じゃあ受け持ちの小隊は誰が指揮しているのか、と、質問を続ける。
皆が一斉にシオンを指差す。
「……何すか?」
いやここ笑うとこじゃない、笑うとこじゃないのだが、微妙な笑顔のシオンがぽつりと言うとその後しばらく、フェルトとヒナは部屋の隅でうずくまって震える事しかできなくなった。その間に会議開始、照明が落とされプロジェクターが起動、とある少女の写真を投影する。
「では始めるとしよう。知っての通りつい先日、核シェルターの扉が開きこの女、自称鈴蘭が現れた」
「「えっ」」
直後、ガーリーが周知の事実みたくさらりと言うので、2人慌てて部屋中央のテーブルまで駆け戻ってしがみつく。映っているのはあの太陽だ、画面いっぱい使って(>ヮ<)みたいな顔でダブルピースしている。今の発言を解釈すると2人の留守中に?バンカー中央に鎮座するもうどうやっても開かなかったあの扉が開いて?中から太陽が?出てきたと?
「はい! はいはい!」
「なんだ?」
「1人だけってこたないでしょ!?」
「それが1人なのだ、他は残らず自ら作ったウイルス兵器に感染して硫酸に溶かされた」
「わけわかんないんですけどぉ!?」
「俺にもよくわからん、後で中を見てこい。防護服着ろよ、バイオハザードだけは起こすな」
そこからおさらいする時間は無い、後で誰かに聞け、とのことで、納得には程遠いものの口を閉じる。投影される写真はいくつかスライドされていき、そのすべてで鈴蘭は笑顔だった、ライフル担いでサングラスかけてたり砲弾抱えてドヤ顔していたり、武器が一緒に映っているのも多い。
「同日行われた防衛戦闘の記録によると、この女が撃ったすべての銃弾は誘導化され、1キロ先の砲弾を遠隔起爆してこれも誘導。さらに敵弾の進路をずらし、刃渡り25センチのナイフでコレを両断した」
鈴蘭以外の最初の写真はライオンっぽいAI兵器の骸だった、中型トラックくらいのサイズで、前後に分断され、それ以外の部分もめちゃくちゃに破壊されている。超小型の爆弾をありとあらゆる関節部で爆発させたような傷だった、装甲の継ぎ目に集中して焦げがある。残念ながら映像は無いらしい、その後に射撃訓練を受けさせたり何やらしてもそんな楽しい事は起こらなかったとか。
「まぁこれに関しては規模を考えなければ説明はできる、状況に応じて魔力充填できるよう、バンカーで生産されたすべての弾頭には共鳴素子というものが使われている。これは通常の金属よりも魔力の吸収性を高める素材だ、魔力放射を当てさえすれば発射後でも誘導は可能だろうよ、理論上はな。敵弾には共鳴素子が入っていなかったから、咄嗟の対処では弾道を捻じ曲げるのがやっと、というところか」
「迫撃砲弾の件は? それで説明できるんすか?」
「そう、この話で最も信じられんのはそこだ。貴様らの証言が正しければその時砲弾はこの女から1100メートル離れた位置にあった、奴の魔力放射はそこまで届いた事になる。参考までに…えー……そこの中隊長、魔力放射ができた筈だな、どれほど近ければ対象に遠隔充填できる?」
「ゼロ、皮膚との間に空気がある時点でもう無理さね」
どうやらとんでもない事があったようだ、ガーリーとシオン、ティーとの間でそんな会話がされる。1.1km先の砲弾を爆発させられるというのはつまり深読みして言い換えればこのバンカーを1人で制圧できるという事であり、故に、上層部にはかなりぼかして報告してあるらしい。偉いさんが真実を知ったらあまりの恐怖にかられて即時処刑か、もしくは実験所送りのどちらかなのは間違いない。総隊長もグルである、いつものサーティエイトのちょろまかしとは訳が違う。
と、まぁ、ここまでならまだ"すげぇ"の範囲内。
「次に…そこの赤ツインテ」
「赤……」
「骨折で全治2週間と言ったが、これは異常に短い期間だと知っているか? 骨折と名がついたら普通は最低3ヶ月だ、それを貴様は最新の接骨、ナノマシンによる再生補助により2週に留めている。それが現在の最新であり限界でもある、これ以上は如何ともしがたい」
おもむろに写真が1枚取り出された、何かと思ったが映っている側を壁に向けて見せようとしない。
「フェルト、左腹部に70ミリロケット弾が直撃して腸の半分と胃が吹き飛んだら人間はどうなる?」
「死にます」
「間違いない」
心臓が止まるまで30秒といったところか、無論食い止める術は無い。なぜそんな当たり前の事をわざわざ聞くのか、訝しげにしていると写真がテーブルの上に置かれた、裏向きで。そのまま引き寄せ、ヒナと一緒にそーっと見てみる。
「うわ……」
腹をごっそり失った死体だった、詳しく見るのははばかられる、真っ赤とだけ表現しよう。肌は濁った白色、瞳は瞳孔が完全に開いている。これで生きている訳がない、もし生還したならそれは人間ではない。
だが生きていた、この黄色い髪の少女は。
「奴はこれを12時間で"修復"した」
「嘘ぉ……」
「これが奴の塩基配列、見せられてもわからんと思うが、改竄されていない場所がほぼ見当たらん、これでどうして人間の形をしていられるのかまったく謎だ」
「ぇ……」
「……ちなみにこの件、本人は?」
「普通なら死んでいなければならない、というくらいは勘付いているだろうよ」
また聞き捨てならない事を。
投影されたのはアルファベットの羅列だ、これが鈴蘭の遺伝子らしい。理解できる者は1人もいない、すぐに画面はダブルピースに戻った。
「とにかく、遺伝子はこの有様だがそれだけではこの再生力は説明できん、というか生物としておかしい。重要なのはおそらく遺伝子ではないのだろう、俺にはお手上げだ、後は譲る」
「ありがとう。ではこれから先、彼女の処遇をどうするかだが……」
プロジェクターのリモコンを総隊長に渡したガーリー、部屋の隅へ移動したのでヒナの隣から離れてそちらへ。壁にもたれかかる彼の横にさりげなく立ち、総隊長の話は無視して小さく話しかける。
「寿命は?」
「まだ何とも言えん。だが……アレを造った連中は将来的にアレを新たな人類とする計画を持っていた可能性が高い。だとするならまぁ、お前より短いという事はまず無かろうよ」
何よりだ、ひとまずそれがわかればいい。
「最後まで聞かんのか?」
「家の掃除のが重要かなぁ」
後の話に興味は無い、それより暗くなる前にどれだけ散らかされたか確認したい、状況によっては買い出しもしたい。
「ああ、あの2人な」
邪魔をしないよう静かに部屋を出ようとして
「どうやら肉を焼くくらいしか人の食えるものを作る術を知らないらしい」
ぽつりとそんなのを言われた。




