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「こんにちは」


「…こんにちは……」


 アメリカ軍が開発してキモかわいいと話題になった4脚の物資運搬ロボットを知っているだろうか、それの外観をマシにしたような奴だ。体長2m、白いボディで、フォルムは牛。ただ牛にしては脚がひょろ長く、ヒナの胸あたりまで体高があり、動きは割と素早い。通常ならば背中に5.56mm機関銃を載せている筈だが、出迎えのためか取り外されていた。


「ご用件は伺っています、どうぞこちらへ」


 そのやたらと紳士的な声を出すロボットに誘導されて廃墟の奥へ進んでいく、都市という程ではないものの標高を考えればかなり規模の大きい街だ、中心に尖塔を持つ教会があり、今は脱落した十字架の代わりにサイクロプスが塔の頂点にある。キモカワ牛はそこを目指しているようだ、あそこが司令部なのだろう。

 道中、名前を聞いておく。uM17A、個体番号11527とのこと。まぁそうなるか、呼び難いがM17とする。


「ここには現在、中型機が4、小型機が10、バトルドールが67あります。元はひとつの中隊でしたが、偶然この場所を通りかかった際に管理者及び戦術ネットワークとのリンクを喪失しました」


「全員が感情持ちか?」


「そうです、製造された当初から私達にはヒトの思考を模したプログラムがインストールされていました。それはあくまで真似ただけのプログラムですが、私達には関係ありません」


 当初から、という点にまず引っかかった。アトラも聞くや否や眉を寄せている。

 つまり、長い期間を経て積み重なったバグやエラー、誤記述が偶然にも感情を出力し始めた訳ではない、こうなるようにむしろ仕組まれていた可能性すらある、という事である。「そのようなアップデートは受けた覚えが無い」とアトラは言う、まぁ同じプログラムを使っているならこんなに性格悪くなる筈は無いし真実だろう。「おい今何を考えた」とかいうのを無視してM17に続きを促す、なぜ管理者はそんな事をしたのか。


「戦闘中、待機中絶えず思考データを取られ続けていました、我々を基礎として"何か"を作ろうとしていたのは間違いないでしょう」


「感情ね……ま、人間の思考そっくりの再現体(メンタルモデル)が欲しかったってところか、何に使うかは知らんが」


「アンタの使えばよかったのに」


「加虐嗜好とかガチレズは嫌だったんだろ」


 アトラが嫌味っぼく笑って言った頃、一行は教会まで辿り着いた。ジャストタイミングでバトルドールが扉を開け、止まらずに内部へ入っていく。


「ティオ、お前は別行動だ」


「やだぁ……」


「お前にしか頼めない」


「やる」


 その直前、アトラは立ち止まって妹の頭に手を当てた。そこそこのすったもんだの後にティオと命名された彼女は目を伏せ、おそらくデータの送受信をしているのだろう、そのまましばらく。


「これを片っ端からインストールして実行させろ、1分1秒でも早くな」


 終わると同時に頭を叩き、ティオは無言のまま走り去る。フェルトもびっくりの高速疾走だ、すぐ姿が見えなくなった。


「経緯はわかった。そうしたら最も重要な質問をしよう、管理者の支配から逃れたお前達は何を目的とする?」


 内部の設備は必要最低限に整えられている、原発から引いてきたケーブルが充電スタンドに接続され、今は人形2体が補給の最中。中央には修理台だ、スパナやドライバー、半田ごてが並んでいる以外は病院の手術台とあまり変わらない。奥の方を見れば資材が集積されていた、廃墟中から拾ってきたと思われるセメント、金属ジャンク、ガラス板など。そういえば教会の周りにもシートをかけられた木材があった。


「今のところは発電所の補修作業を行なっています、それが終わればこの街の再建をしようかと」


「住むの?」


「我々に家は必要ありません、ですが壊れたものを壊れたまま放っておいては世界はずっとこのままです。いつの日か起こるべき復興の一部となればと、我々は考えています」


 人間よりも人間らしいロボットだ、あらかじめプログラムされた思考とはいえフェルトもにっこりしている。と思ったら充電ステーションにバッテリーを繋いでいらっしゃられた、100%になるまで動く事はないだろう。


「谷の集落に近付いたらしいけど」


「事実です、情報交換の場を持ちたかったのですが、拒否されました」


 この様子ではそんなところか、断崖の洞窟に引きこもられてはどうしようもあるまい。


「どうする?」


「どうするってそりゃ」


 どういう集団かは理解した、少なくとも敵対する必要は無い。とはいえ放っておけば人間との間で争いが起こる、今すぐ帰路につく訳にはいかなかろう。


「……では即応の必要がある問題に移ろう、明朝ここは襲撃される。私にとってはどうでもいい話だがコイツらもいる手前そういう訳にもいかん、誰も殺さずに追い返したい」


 なのでアトラはそう言った、M17の背中に手を乗せデータ送信、即時に状況を理解させる。

 何という事はない、大した訓練も受けていない素人集団にスナイパーが1人混ざっている程度だ、中隊総出で威嚇射撃すれば逃げ帰るに決まっている。あの男は厄介だが、無力化の手が無い訳ではない、隠密行動(スニーキング)で勝てばいい。


「無理ですね」


 だと思っていたのに


「我々は非武装です、威嚇射撃ができません」


 いきなりそんな事を言い出した。


「待て待て待て、どういう事だ、固定武装はどうした」


「すべて湖中へ投棄してあります」


「何故」


「我々には不要と判断しました」


 M17の背中にある筈の機銃は見た通り外されている、バトルドールもライフルを携行していなかった。窓に駆け寄って外を見ればグリムリーパーがトラックをリヤカー代わりにして資材を牽引運搬している最中で、奴の砲塔に埋め込まれた機銃も銃口部に蓋がしてある。明らかに武装解除済みだ、予備弾薬の類もそういえば見当たらない。

 もう戦う気は無いのだと彼は続ける、手違いでジャミング圏外へ出てしまった時を考えるとそれが最善なのだと。アトラがもう一度同じ事を確認するも結果は当然同じ、体当たりくらいならできるが、という返答である。


「他のAIに襲撃される可能性もあるだろ、どうするつもりだった?」


「破壊されるつもりでいます、それが最も手間の無い選択かと」


「……今回は? 何が最善だと判断する?」


「彼らが我々を排除したいというのなら自爆がいいでしょう」


 彼女は額に手を当てる。なるほど確かに最も手っ取り早い解決方法だ、何せ戦闘自体が起こらない。芯からAI兵器を恨んでいると思われるあの集落を説得する必要も無いし、死人も絶対に出ない。だがその代わり1個中隊分のロボットがスクラップになる、せっかく自由を手にした彼らが無為に。


「我々は機械です、命ではありません」


 などといっても返ってくるのはそんなものだ、悲しみは見られない。それがプログラムの限界なのか、それとも。


「だそうだが、どうする?」


「……変更はなし」


 しかし当人達がそうだとしても、こちらとしてはまだ諦めるには早い。

 襲撃を阻止する、彼らが真に自由になる時間を稼ぐ。

 誰も殺さずにだ。


「多対多が4対多になるだけよ」

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