少女も撃った
まずグリップがあった、これは右手で握る、誰でもわかる。
当然、トリガーには右手人差し指がかかった。
グリップの前にあるのが弾倉だ、握りやすそうなのでここに左手。
そしたらグリップ後方に付いている部分が腋の下にちょうど入った、なるほどそういう事かと挟んで固定する。
その構え方では銃本体は右腰付近、銃口は目線の遥か下方にある。だいたいこのへんかとマンティコアへ向け、トリガーを引いた。
引いてしまった。
「きゃーーーーっ!!」
「「ギャーーーーーーッ!!!!」」
結果起きたのは弾を撒き散らすだけの乱射である、1発飛び出す度に銃口は跳ね上がり、鈴蘭の体を回す。マンティコアへ向かう弾は1発もなく、まったくあさっての方向へ飛んでいき、咄嗟に伏せたシオンらの頭上を抜けていったものさえある。
「作家のみなさーん!! "どこにでもいる普通の高校生"がいきなりライフルを武器にするとこうなりまーーす!!」
「正規軍や民間トレーニングセンターもしくは謎のスナイパーなどによる訓練を必ず受けさせましょうーー!!」
10発撃ったところで乱射は止んだ、幸い何にも命中はなく、ただ弾と皆の精神力を減らしただけ、
ではない。
「ぬおっ!?」
発射した10発すべてが赤い閃光に覆われる、急激に軌道を変える。あるものは直進し、あるものは蛇行しながらマンティコアへと突進、10発同時に着弾した。
「どっは!!」
6.8×48mm SPC弾、弾頭重量は7gしかない。それが爆発したとて爆竹に毛が生えた程度、全身金属のAI兵器に損傷を与えるには武装や関節の弱点部にピンポイントで命中させる必要がある。しかし魔力誘導弾なら容易に可能だ、500m先のドーナツの輪だって通せるのだから。
マンティコア右側面に集中して命中した弾頭はさも当たり前のように爆発、レールガン基部を破壊した。轟音を立てて砲身が脱落、大きくよろめく。
「何!? 何が起きたんです!?」
「知るか!!」
「まずキミがいま腋に挟んでるのは銃床! 終端部が肩当てになる! こいつで反動を受け止める! 肩だぞ肩!」
「ここっ…こうですね!?」
「そうそうそうそれで伝説の名台詞"そのキレイな顔をフッ飛ばしてやる"違う!! 当てるんだ! 乗せるんじゃない!」
撤退と言っていたが、状況が急に変わったらしい、サーティエイトはその場に残留、榴弾砲にCPUユニットが戻され、必要最低限の人員が取り付き直す。残りは車でその場を離れるもできるだけ高い場所目指して走っていく、増援のための陣地確保だろう。
そんでティーが早口でライフルの撃ち方を説明し始めた。
「そこ! そう! 突き出してる部分が長すぎると思ってるかもしんないけどライフルとはそういうものだから! んでもって弾倉より前の銃身を覆ってるパーツがハンドガード! ここを左手で掴む! そして初心者がやりがちなのが腕だけで重さを支える事だ! しっかり肩に押し付けるとだいぶ楽になるでしょ!? 右手はもうトリガーを引くだけに使うくらいのつもりで」
「わーーーーっ!!」
「まだ引くなァァァァァァァァァァッ!!!!」
指導の甲斐あって今度はすべて前に飛んだ、命中にはほど遠いが。今度もやはり発射後誘導が開始され、航空機の曲芸飛行よろしく一斉に散開、マンティコアを襲撃する。
残らず命中したものの、今度は直前で身をよじられた、爆発こそすれ急所を外している。それでも反撃の封殺には十分だった、マンティコアは一時後退していく。
「ストックのこの部分が頰当て! ここにほっぺ付けてみ!? ちょうど右目の前にスコープの接眼レンズが来るでしょ!? そしたらこれがフォーカスで……だあもう捨てちゃえこんなもん!」
なんて感じで、ライフルスコープを取っ払われた上部に残されたのがアイアンサイトだ、眼前にある輪っかが照門、ハンドガード先端の突起が照星になる。輪っかの中心に突起を捉え、そのまま撃ちたいものに向ければいい、そうしてようやく当たる条件が整う。
「よーしそのまましゃがんで! 右足は膝立ち! も少し横向きに! 目標左脚部!」
「はい!」
「撃て!」
改めてトリガーを引く、肩にガツンと衝撃が来る。尻を見せて去ろうとするマンティコアへとまっすぐ撃ち出された弾丸は急激な誘導が必要無かったためか最小限の軌道変化に留まり、その分素早く目標へ到達した。稜線の向こうへ消えていく直前に左脚膝関節で爆発を起こす、すぐに視界外へ入ってしまったので効果不明ながら、走行音のピッチが遅くなったように聞こえる。
「撃てなくなりました!」
「よし……トリガーから人差し指を離して上に、それがマガジンリリースボタン、弾倉が落ちる。別のと入れ替えて、今度は左側のボルトリリースボタンだ、リロードはそれで終わり。後を追うぞ、完全に追い払うか撃破しないと」
「仕留めないとまた地獄が始まりますぜ」
「わかってる。砲の状態戻せ! 私は支援要請する! サーティエイトはアイツを足止めしろ!」




