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奴らは掃除した

「クソ本部連中め! 一度閉め出しやがったのに硫酸まみれってわかったらこれかよ!」


「仕方なかろう、放っておいた分だけ溶ける。ああ死骸には触っていないな? もし触っていたら俺の半径10メートル以内に近付くな」


 赤い防護服で全身を守ったシオンが部屋に入ってくる、中和剤の入った袋を抱え、ここは安全と見るやヘルメットを脱いだ。

 入室した時、メルの目にはサーバールームに見えた、タブレットを繋げようとしたが端子の形状が合わず、キーボードを引き出して操作を試みるもOSの構造を理解するのに現在までを消費してしまっている。そして構造を理解したと言っても"普通に操作できるようになった"というだけでハッキング開始には程遠い。アトラの帰還を待った方が早いだろう、メルはモニターの前から離れた。


「白い粉がちょっと余った」


「炭酸水素ナトリウムか? 丁度良いガメておけ」


「何に使うんすか……」


「おい待て貴様、炭酸水素ナトリウムとは即ち重曹だぞ、それがどれだけ万能の粉か知らぬと言うつもりか」


 部屋中央の鉄棺を調べるのは金髪の男性だ、シオンに向かって重曹の有用性を説いている。このフェルトが連れて帰り、今はなんか"触手のぶつ切りから生臭さを消し去る研究"をしているという男、未だ名前を知らないのだが、「ま、ガリレオさんとでも呼ぶがいい」とのことなので、とりまガリレオさんという事になった。

 一応言っておくとガリレオとは天文学の父とされるイタリア人である。


「ああもう、中和にも掃除にも料理にも使えるのはわかったんで、ソレの説明をください」


「これか? 培養器だ、正しい比率の液体で満たせば子宮内と同じ環境になる」


 袋をどさりと置いてシオンが指差した棺を彼はそう説明する、聞いた途端、シオンの眉が寄った。


「コールドスリープカプセルじゃなくて?」


「それでは50点だな。確かにこれは長い間あの女を冷凍する為に使われていたようだ、だが……冷凍機能を後付けした痕跡がある、それを除外すればどう見ても培養器の構造をしている」


 まぁ、なんだ、つまり。

 鈴蘭(すずらん)と名乗るあの少女、記憶喪失と言っていたが、真実ではない。


「断言してもいい、あの女はついさっき生まれたばかりのデザインベビーだ。記憶を失っているのではなく、そもそも過去が無いのだろうよ」


「詳しいね」


「まぁな。ここから先は血液が要る、あの女がどういう目的で生み出されどんな能力を持っているかは遺伝子配列を見なければわからん。興味があるなら手に入れてこい」


 言いながら彼は立ち上がる、脱ぎ捨ててあった防護服を着込んで機材を抱え、棺から離れた。「ガーリーどこ行くの?」「おいその渾名はやめろ、略すならレオにしろ」とかやりながらも歩を止めず、サンプルの入った容器、の入ったアタッシュケースを持ち上げて見せた。そこら中に散らばる死体から採取した血やら何やらだ、ステレオタイプのゾンビになるウイルスという、鈴蘭からの情報が正しいのなら彼女の正体なんかよりも遥かに優先すべき事案である、少なくとも解析が終わるまで死体の片付けすら出来ない。


「本人にはまだ言うな、宣告の仕方については同類(フェルト)の意見を待った方がいい」


「棘のある言い方だ」


「信頼していると言え」


 シオンの横を通り抜けて(その際ちゃっかり重曹を持っていき)ガリレオは部屋から出ていった、後に残されたメルとシオン、共に息を吐き、棺を見つめる。


「地底人とかいなかったね」


「いたでしょうよ、もういないってだけで」


 破滅の日から数世紀、いつか返り咲く時を夢見て暗く冷たい地下で耐え続け、その結果がこの最期、納得はできたのだろうか。

 できる訳がない、地上に棲む現生人類でさえ悲劇まみれなのだから。


「いや待て、それより前、フェルトが何だって?」


 今食いつくのか、知っているような素振りでスルーしたから既知なのかと思ったのだが。


「そこを掘り下げる事に意味はある?」


「ない」


「じゃあいいでしょ」


「うむ」


 一応、そういう感じでいいだろう、気になるところはあるにはあるが、必要な情報ではない。少なくとも、隠せなくなるまでは。


「それよりさ、なんか忘れてない?」


「む?……ぁー…………敵襲!!」

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