奴らは錬金した
まず火を起こしてトライポッドを立て、鍋でお湯を沸かした。そこまではいい、誰でもわかる。
問題はその後だ、この場に今、フェルトはいない。
「……」
「…………」
いかんせん"その後"をメルとシオンは見ていなかった、家には少しばかりの野菜、主にタマネギとニンジン、ゴボウ、ジャガイモが残されていたので、付け加えて急遽買い叩いてきた複数種の肉の切れ端をすべてそれっぽくカットし沸き立つ熱湯に投入してみた、のだが。
なんか、尋常じゃない泡が出る。
野菜は皮を剥いた方がよかったかもしれない。
肉は炒めた方がよかったかもしれない。
調味料は何をどれくらい入れればいいのか。
そもこの泡は何なのか、取った方がいいのか。
かくして出来上がったものはスープと呼ぶ事すらはばかられる濁った何かである、不揃いな具材が沈殿し、剥がれた野菜の皮が浮いている。黒いローブと三角帽子を纏った老婆が笑いながらかき混ぜていても違和感が無い外観だ、器に取り分けたまま2人はしばらく沈黙した。
「せーので行きますよ」
「やむなし」
しかしいつまでも黙ってはいられない、作った以上食べなければ。焚き火を挟んで座った2人は同時にスプーンを器へ突き入れ、一口分の具をスープと共に持ち上げる。それはあまり見ないようにし、メルとシオンで目を合わせ、せーの、で同時にスプーンを口へと入れた。
「えっと……シオン……メル……」
「は……」
体感的には一瞬の出来事だったが、どうやら気を失っていたようだ、シオンは木箱に座ったまま銀髪を垂らして真っ白に燃え尽き、メルは気付けば後ろ向きに転倒していた、黒のビッグTがめくれて短パンを露出、それぞれの器が地面に中身を撒き散らしている。いつの間にかこの場に現れていたティーを見るに数秒ではないだろう、数十秒か、数分か。
「ど…したんすか……そのカッコ……」
ティーは全身黒い、喪服だった、顔には泣き腫らした痕がある。工場の件で誰か帰らなかったのだろう、あれだけの戦闘だ、1人2人では済んでいない。
が、どこかの葬式に行く途中とか、戻る途中ではないようで、
「あの……今回は誠にご愁傷様でございます……」
などど、語尾を濁しながら2人に言ってくるのである。
「待て、誰のだ? 誰の葬式だ?」
「だって…ヒナの名前が戦死リストに……」
「…………ははーんさてはドッキリだな? カメラはどこだ?」
「看板はここかな?」
まったく予期しなかった事態にやや混乱、まずイタズラを疑う。全隊通信で鼻歌を批判された総隊長の腹いせだろうか、あれ以来聞かなくなったからな。しかし最寄りの監視カメラはあさってを向いていたし、ティーのポーチにはドッキリ成功と書かれた看板もハンカチも入っていなかった。
うーんどうやらマジらしい、後で取り下げを申請しなければヒナが闇の特殊部隊ルートに突入してしまう。
「死んでない…?」
「死んでない」
「生きてる…?」
「生きてる生きてる」
「……じゃあなんでいないの?」
「(๑╹ω╹๑ )」
「フェルトの姿もないけど」
「(☝︎ ՞ਊ ՞)☝︎」
「言えないことだな? 言えないことをしてるんだな!? キミたちはいつもそうだ! 何度昇格に推薦しても"素行が悪い"の一言で突っぱねられる!」
「いやそれはその……ありがとうございます…すいません…」
で
「反乱起こしたAI兵器ねぇ……まぁ、原子力発電所の周りは電波干渉が激しいから命令を受け付けなくなっても不思議はないけど……」
まず第一にスープを全部捨てた、わけのわからない味付けをされたそれを救う事は不可能である、仕方ない。次に具材を煮込み直す、「ほぼ生、サイズ揃えて、ジャガは芽取りんさい」とか言われてる間に指示通り昆布の出汁を作っておいて、醤油、酒、みりんと一緒に投入、落し蓋をしてしばらく放置。
一度帰宅しいつも通りのネイティブ柄ファッションに戻った彼女の処置は以上である、謎の汁は肉じゃがになった。恐る恐る味見してみれば具に若干の苦みが残るもののまったく普通の肉じゃがだった、ひとまず安心、食材を無駄にしたとかつってフェルトに冷めた目される心配も無い。
「じゃあサーティエイトはしばらく2人か、ほぼ離脱と見た方がいいな」
「偵察くらいならできますが」
「偵察しかできない部隊なんて信用ならんよ」
1日3食でも3日は保ちそうな量の肉じゃがをパックに移すティーは割と辛辣なお言葉である、このあたりレアとは格が違う。
「……ん?」
えへへへへ、とか2人で笑い、しばらくジャンク拾いで食いつなぐかと言ってたあたりで背後が騒がしくなり出した。警報は鳴っていないがこれはたぶんいつものやつだ、一切の会話無くシオンが武器を取りに家へ戻る。
「中隊長!」
「どっちだ?」
「西側です、外縁部集落から30キロ、確認したのはグリムリーパー1機ですが斥候の動きをしているとのこと」
つまりはぐれた単機が迷い込んできた訳ではないという事である、少なくとも役割分担ができる規模の部隊が控えている筈だ。メルも急いで保管庫まで駆け寄り重アサルトライフルを持ち出して、ファンクラブ一桁のにーちゃんと話し込むティーのもとへ。
「差し迫ってる?」
「いや全然、森に戻ってって今はロストしてるらしい。防備を固めて向こうの動き待ちかね、とりあえず2人は私に……ぃ…!?」
と、いうところで、
大きく地面が揺れた。




