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0805

 工場地下施設表層部

 308部隊"サーティエイト"

 シオン




『おい何だこの女二重人格か!? シオン! シオーーン!!』


「終われば戻る! とにかく逆らうな!」


 ガン!ガン!ガン!ガン!という衝撃音から逃れるべくシオンはフェルトを伴って通路をひた走る。資材運搬用レールを敷いて緩やかに下へ降りていく、縦横10mはいかない通路だ、人間が行き来するにはかなり広いが、大型AI兵器には明らかに狭い。

 だからそろそろ諦めるんだサイクロプスよ、そんだけボロボロになってお前も辛かろう。


「今!」


「はい!」


 号令一言、安全ピンを抜いてフェルトがずっと握っていた手榴弾がぽいと投げ捨てられた。直後に両者揃って通路の窪みへ退避、爆発を聞き届ける。

 再び飛び出せば全身傷だらけ、右ミサイルランチャーとレーダーを失ってなお戦闘続行するサイクロプスが眼前で停止していた。アサルトライフルとサブマシンガンからフルオートトリガー引きっぱなしで魔力貫通弾をぶちまければセンサーポッド直近でアーク放電を伴う小爆発が起き、サイクロプスはさらに行動停止を継続する。その隙に左右の脚をくぐって反対側へ抜け、ついでに機体右の破口からさらに手榴弾を放り込む。効果を確認せずとにかく全力で来た道を戻っていけばその先でメルが手を振っており、床と壁には大量のC4爆薬、直撃させれば撃破は間違いない。


「クロは?」


「追ってこない……あの野郎図体デカすぎて反転できねーんだ!」


 あらおバカさん、とか呟くメルをよそにもう一度奥へ、すれ違った場所が見える位置まで行ってみる。サイクロプスの姿は消えていたが走行音は響いており、耳をすませば真横、左の壁から聞こえてくる。咄嗟に身構えるも音はシオンを通り越し、トラップの前に立つメルへ、自力で危機を察した彼女も施設奥へ向かう疾走を開始。


「どっは!!」


 数拍遅れて壁を破ったサイクロプスが登場、機関銃を10発ほど撃って、その後爆薬一斉爆発による瓦礫に飲まれていった。


『やったの!?』


「閉じ込められた!」


『バカ!!』


 一時的に沈黙するも、瓦礫の崩れる音に続きまたガンガン鳴り出したのでレアに簡単な報告をしつつ奥へ奥へと走っていく。先導はメルだ、さっきの内に構造図を手に入れていたらしい、タブレット片手に迷いは無い。

 目指しているのは武器生産区画のようだ、人間の出入りを想定していない運搬通路に飛び込んでベルトコンベアの上を駆け回り、やがて製造ライン終端部で目当てのものを見つけ掴んだ。


「目には目を! バトルドール向け88ミリハンドレールガぐふっ…!」


 掴んだが、持ち上げられなかった。サイクロプスのレールガンを小さくしてグリップをはっ付けたような真っ黒ボディのそれは明らかにメルの身長より大きく、力を入れた瞬間に腰を押さえへたり込んでしまう。「どこがハンドだバカ…っ!」などと言う彼女の背後にカートのようなストレッチャーのような車輪付きの台があったので急いで掴み、レールガンの乗るベルトコンベアと高さを合わせ引きずり移した。形状から察するに中央部を腋に抱えて下部のグリップを、もう片方の手で前部のバーを掴むのが正しい構え方のようだが、そもそも持ち上げられないので絶対にこれは使わない。撃ち出す弾は隣のラインに並んでおり、そのまた隣にはバッテリーが生産されている。見たところ弾倉を持たない単発式、バッテリーも1発分の容量しかなさそうだ。

 照準器は無い、バトルドールとデータリンクするための可視光カメラのみがある。


「どうやって狙うんだこれ!?」


「どうにだってなるでしょ! 射的の空気銃だってサイトないじゃん!」


「全然違げえ!」


「アレ毎回思うんだけど当てさせる気まったくないよねぇ!」


「話に乗るな!」


 重量に付け加え無線通信機能を持たない人間に扱える代物ではなかったが、幸いタブレットとリンクさせる事に成功した、発射が可能と判断するやいくらかの弾頭とバッテリーをカートに乗せ、その後集中治療室に押し込まれる患者よろしく3人でカートを移動させていく。

 メルが停止を指示した場所にはこのレールガンを生産するためのロボットアームがあった、付け根部分でしゃがみ込んでごそごそやればすぐ動作を開始、重たいレールガンを掴んでひょいと持ち上げる。


「射撃準備完了! 後はクロの到着を待つだけ」


「もう来た!」


 直後に背後で壁の崩壊音だ、シオン、フェルトと共にハンドレールガンがそちらを向く。サイクロプスの56mmレールガンは発射直前にバチバチと放電するが、これは経年劣化によるエネルギー変換効率の低下が原因であり、新品ピカピカのこいつは何の兆候も見せないまま弾頭を発射した。

 レールを滑走する音と、音速を超える音しかしない静かな発射だ、だが直撃を受けたサイクロプスの被害は想像を絶する。左側下部の装甲に突き刺さってレールガン基部へと突進、貫通した時には砲身を脱落せしめていた。当然、レールガンに付属させる形を取っていた重機関銃も同時に失っている。


「よしこれで……諦めろって!!」


 明らかな致命傷に一時、サイクロプスは脚を投げ出して沈黙しかけたのだが、唸るようなモーター駆動音を上げ再起動、潤滑油を撒き散らして飛びかかってきた。一斉に散開、スパイクアームに潰されるレールガンから離れる。


「次!」


「踏みとどまって!」


 未だ交戦を継続するも既に戦闘能力の9割を喪失している、フェルトが立ち塞がって格闘戦を始めた。スパイクアームはひらりとかわし、突進されればヘッドダイブで進路から外れる。シオンも意味があるのか不明ながら絶え間なく発砲を続け、その間にメルは壁のLANポートを探し出し接続、よくわからないが部屋中の機械が起動した。


「合図したらなんかの陰に隠れて! 電波を防ぐようなやつ!」


「何すんだ!?」


「5! 4! 3! 2!」


「早い!!」


 いきなりカウントを始めるメルに叫んでシオンは壁際、ベルトコンベアの傍に飛び込み伏せる。フェルトはもっとギリギリのタイミングでテーブルの下へ潜り込み、蹴り上げて倒す。


「1! EMP!!」


 要するに"レンジでチン"である、あらゆる機械が一斉に爆発、電磁波を放出した。恐怖によるものか本当にあったまっちゃったのか胸の奥が違和感を訴え、しかし体を丸めるくらいしかできないのでそのまま耐える。

 やがてがしゃりと金属の散らかる音がして、以後静かになる。そろりと顔を出してみると今度こそサイクロプスは沈黙し、半壊した機体を晒していた。


「……レールガン持って帰る?」


「なんで……」


「前言ってたから」


 そういやそんな事言った気もする。


「ふむ……とにかくまぁ大喜びする気にはならんな、敬礼でもしとくか」

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