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0738

 工場西4000m 地表高度15m

 YAH-10 "コンストリクター" 攻撃ヘリコプター

 フェイ




「左ウエポンベイ応答回復! でもガンポッドは完全に途絶してる!」


「どういう状態!?」


「ちょっと待って……駄目だ千切れて落ちてら!」


 速度150km/h、地表ギリギリをフェイの乗るヘリコプターは右へ横滑り移動していく。後部座席には今回のパートナー、メカニックねーちゃんコンビの片割れが乗っている。クーラ・マルダー、通称"クー"、コールサインではなく単なるあだ名。茶髪セミロングで、今はフェイと同じ、パイロット向けの黒いツナギで身を包む。まぁ普段も彼女はオレンジの作業着なのだが。

 いきなりコクピット内が大騒ぎな理由は簡単だ、すべての対空兵器が沈黙したというから颯爽と工場上空に飛び込んだらレールガンをぶち込まれたのである。運良く旋回運動の最中だったため直撃を免れ、しかし左スタブウイングに懸下してあった20mmガトリングガンのポッドを失った。残り武装は右側のもうひとつと、機首の25mm、左右に内蔵された兵器庫にはミサイルが計16発入っている。レールガンは発射から着弾まで体感的にはほぼノータイム、とにかく急降下して山の背面に機体を隠し、速度を維持しつつ彼女のシステム修復を待つ。


「何今の!?」


『レールガンによる対空射撃』


「それはわかってる!」


『口径56ミリ、推定初速マッハ10弱、発射元はサイクロプス、建物に前脚を乗せて上を撃った。直撃を受ければ墜落は確実、ロックされればその機体の機動力で回避は不可能に近い。ただし対戦車兵器のため、低空を最大速度で飛び続ければ捕捉を免れる可能性はある。具体的にはサイクロプスの旋回速度を上回る速度と距離を保ち、常に周囲を円運動しながら』


「もっと簡単にまとめぇぇッ!!」


「ふへぇぇなんかフェイ氏怖いぃ……」


 ヘッドギアから聞こえるアリソンの淡々とした声に向かって叫びつつレーダー画面を確認、地上レーダーとリンクしたそれは山影に隠れてなおサイクロプスを捉え続けており、このコンストリクターを狙って静止状態にあるのが見て取れる。今出てはいけない、姿を晒した瞬間にまた撃たれてしまう。


『下手に隠れ続けるより近付いた方がいい』


「フェイからティー中隊へ! 誘導レーザーの照射を要請! 目標はサイクロプス!」


『もうやってるよーー』


「ヘルファイア!」


発射(ロンチ)!」


 メインローターの風圧が砂塵を巻き上げるほどの低空を這ったまま、フェイはスロットル開度をやや上げつつ操縦桿を手前へ、機首が持ち上がって天を向く。後部座席のクーへミサイルの名前だけ言えばすぐに機体右側のウエポンベイが蓋を開け、彼女は対戦車ミサイル1発を射出した。山の頂上を越えるまでは慣性誘導でまっすぐ進み、そこでミサイルのシーカーは誘導レーザーの反射波を検知、進路を変えサイクロプスへ突撃していく。


『サイクロプス、回避行動へ移る』


 操縦桿を一転、押し倒して、さらにスロットルも全開にする。右横滑りしていたコンストリクターは前進と上昇を始め、弧を描いて山の稜線向こう側へ、工場を再び視界に捉えた。


『ヘルファイア、ハズレ』


 たった今真上を通り抜けたティーはミサイルが命中しなかった事を伝えてくる、たかが80km/h程度の目標を逃すミサイルではないのだが、それはあくまでキャタピラ駆動の戦車の話、奴は80km/hをまったく落とさないまま旋回運動を行えるのだ、対戦車ミサイルに命中率100%を求めるのは酷であろう。


「ぬっ!? どっ!?」


 いつ撃たれてもおかしくない、山を越えるや機体をほぼ倒立状態まで持っていって、最大加速を行うと共に重力まで使って前へ押し出す。速度計は300を超え、そこからさらに左横転。

 つい数秒前までコンストリクターがいた場所をソニックブームが駆け抜けていった。弾頭は見えない、見える訳がない。


「落ぢるぅぅぅぅぅぅ!!」


「落ちない!!」


「ヒナメルコンビと銭湯で鉢合いたいだけの人生だっだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


「6時半頃行けば大体会える!!」


 クーが騒いでいるのはレールガンで撃たれたからではない、フェイの回避機動に原因がある。普通、ヘリコプターが横1回転しようとしたら墜落する、動力源が頭上にあるので固定翼機のようにはいかないのだ。しかしそれが可能なヘリコプターも僅かながらある、コンストリクターもそのひとつだ。

 いや、新型どころか制式化前の先行量産型なので、実際可能かどうかは今確かめたのだが。


「20ミリ25ミリ同時射撃準備!」


「ラジャァァァァぅぅぅぅぅぅぅぅ…!」


 本来後ろに乗るべきアリソンが通信機の向こうで澄ました顔してる理由はここにある、「まだ無表情なキャラクターでいたい」とのことだ。逆にクーは普段のノリで快諾してしまったのが運の尽き、交戦開始1分でさっそくポッキリいってしまった。それでも仕事は放棄しない、指示した半秒後には機首25mmと右側20mmが発砲可能になる。


『中隊本部より工場内全部隊へ、これより近接航空支援が始まる、ビーコンを確かめるんだ、消えてたら撃たれるぞいいなーー?…………あれ妙に静かだなサーティエイトどこいったーー?』


 それぞれ自動照準、工場上空に留まるだけで勝手に砲塔が回り弾は出ていく。射界に捉えた人型物体のうち識別信号を発していないものを片端から撃っていくが、機体速度は落とさない、サイクロプスは健在である。


『とにかく今のうちだサイクロプスに攻撃を集中しろ、あいつさえやっちまえばもう勝ったも同然だ。ツーフォー、まだロケットあるな? その場で身を隠せ、ボール小隊、貧乏クジを贈呈しよう、挑発して連れてこ……おっと待った』


 と、

 超高速で飛び回りながら隙あらばミサイルを撃ち込む姿勢を取るコンストリクターからも運良く見えた。


工場中央から少女が5人ばかし飛び出してくる。

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