0656
工場北西 CIWSから300m
308部隊"サーティエイト"
メル
『だから別に自分で買った訳じゃなくて、あくまで搭乗を要請されただけ、結構な報酬が前払いだったけど』
「それ大丈夫なんすか? 夜中に1人で部屋に来いとか言われてません?」
『航空隊を何だと思ってるの……』
最後発のつもりだったが、気付けば真っ先に射点へ辿り着いていた。現在フェルトが後方警戒、シオンはフェイと喋りつつ交戦開始と同時に撃ちまくる体勢、ランチャーを構えるメルの横ではヒナが予備弾を待機させている。
幸い、工場近辺には水源があり、そこを中心に草木が茂っていた、さながらオアシスのような場所である。遮蔽物は十分あるし、敵は中隊本部からの強力な妨害電波によりレーダーに、赤外線パルスによりサーマルに支障をきたしている。20mmガトリングガンさえ真っ先に潰してしまえば、後はジャミングが効いている間にレーザータレットをダウンできるかどうかでこれの勝敗は決まる。ジャミング部隊はそう長く戦ってはいられない、移動部隊と固定施設では電力供給量に差がありすぎるし、ただ電波を垂れ流してぼーっとしている訳ではない。ECM(電子攻撃)とECCM(電子防御)の応酬が今も延々と続いているし、強烈な電波を発している以上、展開部隊を隠匿する代わり中隊本部は常に捕捉されている。
「しかしフェイが攻撃ヘリとは」
「久しぶりにバーサーカーモードが見れるのかな?」
「バーサーカー?」
その肝心のレーザータレットであるが、今はひたすら沈黙中。砲弾すら捕捉する高精度レーダーもジャミングによるノイズまみれでは機能を発揮せず、照準の大部分を可視光に頼らなければならない。ヘリコプターはともかく、砲弾は撃っても大丈夫だろう。
「なに?」
「フェイちゃんはねぇー、戦いに出ると怒るんだぁー」
「怒るの……?」
「すっごく怒るんだぁー」
「すっごく怒るの……」
グレネードランチャーを構えるレアの疑問にはフェルトが答え、その頃には他部隊の準備終了を告げる通信が入る。改めてメルはロケットランチャーのスコープ越しに塔頂上のガトリングガンを見、細かな照準補正、トリガーに指を添えた。
『全部隊へ、こちら作戦司令部。0700より全周波数を塞ぐ無差別ジャミングを行うと同時にEMP砲弾を投射する、こちらの無線通信網もダウンが予想されるが、構わずプラン通りの行動をしてくれ。ジャミングは10分間のみだ、それまでに塀を越えて欲しい。越えたら合図を送れ、その時点でジャミングは終了する』
「サイクロプスの改装終了もそのくらいか」
『人類最後の砦として、皆の奮闘をこの一戦に期待する。ジャミング開始10秒前、9、8、7……』
「フェルト、こっちに。メル子、2発目は塀を」
「私は?」
「あんたは指示出す側だよ!」
『3、2、1、作戦開始!』
直後、通信機からはノイズが流れるのみとなった。間髪入れずメルはトリガープル、銃とは違った感触の反動が伏射姿勢の体を襲う。
まずキャニスター内のロケット弾が圧縮ガスにより前方へ射出され、同時にキャニスター後部からも後方へガスが噴き出し反動を相殺する。射出されたロケット弾は安定翼を展開しつつ空中でロケットモーターに点火、自ら火を噴いて寸分違わずガトリングガンへ突撃していく。通常、同じ場所で2発撃つ事は無い、反動を打ち消したバックブラストが盛大に土煙を上げ射手の位置を露呈するからである。しかしメルは立ち上がらず発射口を下へ、キャニスターを持ち上げヒナが交換しやすくした。ヒナは空のキャニスターを半回転させ引き抜き、予備弾を押し込み、また半回転させロック、メルの背中を叩く。
その頃には1発目は命中していた、爆発による音と炎と煙を出しガトリングガンを破壊、射撃不能へ追い込む。他の3基も同じだ、ほぼ同時にロケット弾が突き刺さった。
「あっ、わっ……前進!」
レアが慌てて指示したのは背後100mのもう1部隊だ、サーティエイトは既に前傾姿勢を取っている。工場を取り囲む塀の適当な位置へ向け2発目を発射、人が通れる穴を開ける。
「よし行け! 行け行け行け行けーー!!」




