荒野、荒野
「ど?」
『正常稼働だな、動きは無い。包囲されつつあるのはわかっていように、増援も来ないとは…いや、工場が稼働しているなら自分自身が増援となるか』
山頂からの見晴らしは最高だった、工場の全体を観察できるしレーダーとのリンクも良好である。その旨を報告したらティーがここに陣を張るというので待機中、暇だから対空ミサイルの射撃、捜索兼用レーダーを直して工場に向けてみた。敵戦力はそう多くない上、既に半分以上が交戦状態にある、明日の朝には突入だろう。
が、今見ているのは工場ではない、真逆の方向だ。
「メル?」
工場に背を向け、適当な岩に腰掛けて足をぷらぷらさせていたのだが、声をかけられて振り返る、ヒナがすぐ横に立っていた。日暮れに備えて赤外線カメラを設置しにきたらしい、右手に三脚、左手にコードリールを持ち、コード固定のため岩をぐるりと回りだす。
「どしたのそんな何もない方見て」
「何もないからだよ」
すぐ背後に三脚を立て、そういう質問をしてきたのでメルは返答する。既に目を離していたのでどういう顔をされたかはわからないが、彼女は作業を中断し横に立つ。
「ほんとに終わっちゃってるんだなって、この世界」
この見晴らしのいい高所から何も見えない、茶色と、僅かな緑しかない。かつて核が穿ったクレーターはほとんどそのままその場にあり、それがいくつも連なってこの場を荒野に仕立て上げていた。目に見えているだけではないのだろう、ここはまだ入口の筈。
「バンカーにいるとすごい賑やかだからさ、それが普通だと思っちゃうというか、実際こうして現実見せられるとどうしてもね」
呟くように、しかし笑顔のままメルは言う。ヒナが沈黙する中息を吐き、タブレットを抱えて岩から飛び降りた。三脚の上に付いているカメラを一瞥、コードリールを拾ってコードを引っ張り出し、カメラへ接続、起動しておく。後は配線先の人間の仕事だ、やる事はもう無い。
「終わってない」
「え?」
「終わるとかないから、まだ生きてるなら死ぬまで次がある」
「……そう?」
「そう」
そこまで、怒るでも悲しむでもなく淡々と言い終えたヒナは細めた目を工場へ向け、左眼を開いて僅かに観察、すぐ背を向けた。
「そっか」
「そうよ」
メルは元々笑顔だったが更に笑みを深め、あまり意味の無い、というかまったく意味の無い会話をワンセット。
「そっかー!」
ヒナの後をとたとたとついていく。




