荒野
『ここは核が落ちた場所だ』
レーダー設置を終えた後、サーティエイトは山を徒歩で登っていた。地面が抉れた事で生まれた歪な山だ、人工、といってもいい。
『それより前は都市があったとの記録がある、ひとつの国の中心だったらしい、地平線の端から端まで建物が建っていたとか』
乾いた地面が続くだけの茶色一色な場所である、視界を遮るものはそう多くはなく、左側にある稜線を越えれば眼下には工場が見えてくる。あの工場が本作戦の目標、あそこを奪う事で人類側は戦力を増強させようとしているのだ。
それを目前にして何をしているかというと、外堀埋め、山の頂上付近にある対空ミサイルを排除しようとしている。本作戦開始前に排除しなければ主力部隊がこの場に展開できない。
「それより、AI側が航空兵器を使わない点について」
『そりゃ簡単だ、必要が無いからさ。お前達が攻撃機や爆撃機をどこぞのお米軍隊ばりに取り揃えて空陸協働作戦を仕掛けてくるなら奴らも戦闘機を増産するだろうよ、だが現実はヘリを数機飛ばすのがせいぜい、その程度のために見た目以上の手間と資源がかかる航空兵器を大量配備するなど無駄でしかない。お前達の存在は本当に相当なイレギュラーだ、唯一とまでは言わんが、奴らにとって人間なぞもはや逃げ回るだけの虫でしかない』
「そんな事言ってていいのかねぇ、全力で叩き潰されてれば人類抹殺なんてとっくに達成されてるし、そしたらそもそも兵器自体がいらなくなるのに」
『奴らにそんな思考はできんな。AIなどといっても結局は無感情のプログラム、計算速度こそ人間の脳を凌駕するが、あらゆる場面において最も効率的な選択しかしない。適当な数を巡回させ続けるのが最も低燃費、というのが現状の考え』
ミサイルランチャーまでは直線距離1km、アサルトライフルの6.8mm弾の射程に捉えるにはあと500mほど、見つからずに距離を詰めたいところ。
「疲れた……」
「レアが魔力誘導弾を1発ぶっぱすれば即時下山できるけどー?」
「もう無いわよ! あの1発もお守り代わりだったのに!」
山登りしているのは9人、1部隊をレーダーの防衛に残してきたので少し減った。尾根近くを先行するサーティエイトには相変わらずレアが同行している。いや隊長は彼女なのでサーティエイトがレアに同行しているのだが、早々に疲れ果てて最後方を進んでいるのでそんな風にはどうも見えない。ここまで近付いてからの休憩は不可能だ、気力を振り絞って頂こう。
「……無感情って言ったよね、最上級AI、管理者とやらは感情を持っていない?」
『少なくとも私からはそうとしか見えなかった。詳細は知らん、一方的に命令してくるだけだったからな、管理者が感情を持っていたとしても、無感情を装うなど造作もなかろう』
「キミは? 自分に感情があると確信できる?」
『さあな、バグまみれのプログラムがそれっぽく見せてるだけかもしれんが、少なくとも非論理的な行動を選ぶくらいはできる』
他の3人の様子を伺ってみよう。シオンとフェルトは平然とした顔で先行、それぞれ左右を警戒している。メルの隣にいるヒナはずっと沈黙したままだ、機嫌は最悪、理由は悩む必要なく通信機から届く彼女の声である。
『エレナ』
「話しかけんな、本名で呼ぶな」
『冷たい事言うなよエレナーー』
「だから……!」
形式番号BD-3LR、正式名リベレーター、しかし彼女は「そっちのが馴染みやすいなら」と、"ナイトメア"と呼ばれる事を許容している。近いうちにまったく別の名前を付けねばなるまい、彼女に恨みがある者は山ほどいるのだ。
タブレットにそんなものを住まわせている事実は本部には報告していない、できる訳がない。
「まぁまぁ、変態科学者の研究を潰したのもティーを営倉から出したのも城で私達の背後守ったのもこの子なんだから仲良くしてあげてよエレナ」
「おい」
「私からもお願いするよぉエぇーレナ」
「コラ」
「親睦もいいですけど遠方警戒もお願いしますよエレナーー?」
「お前ら順番に眉間の風通し良くしてやるぞ!!」




