這いずる胃袋
こちらが血相を変えて1階に上がってきた時、ヒナとフェルトは階段を下りようとしていた。一瞬呆気に取られるも、尋常ならざる振動が迫ってくるや反転、エントランスへ向け走り出す。
「あいつの名前募集!」
「「「蠕虫!」」」
「満場一致!!」
石材とコンクリートを吹き飛ばし、轟音を立てて現れたのはシールドマシン、トンネル掘削に使われる円形のカッターを頭部に着けたヘビみたいな奴である。胴体直径約3m、機体すべてが露出していないので全長は不明ながら、シャフトが露出した接合部が各所にあって、おそらく、モジュールパーツを繋げれば全長はどこまでも伸びていく。
それが階段と地下室を崩壊に追い込み、今も廊下を削りつつ迫ってくる。ぎゃーぎゃー騒ぎながらエントランスまで後退、ヒナ、メル、レアが2階への階段を駆け上がっていき、部屋中央にフェルトが陣取る。シオンはその後方で援護態勢、さらに後ろではシズが外への大きな扉を開けようとしている。
「やれるか!?」
「無理!」
フェルトは食い気味の即答だった、エントランス中央に鎮座する階段の左横、今駆け出てきた通路から新発見の大型AI兵器、仮称ワームが再登場、赤い絨毯の上に横たわると彼女が2歩後退、合わせてシオンも退き、シズは扉を開け終えて庭へ脱出した。
主な移動方法はキャタピラ、しかし繋ぎ合わせたモジュールパーツを持ち上げれば見た目そのまま、尺取虫が如く動き回る事も可能のようだ。現在階段を塞ぐかの如く陣取り、カッターヘッドを持ち上げてフェルトを見下ろしている。
武器は何だ、穴が掘れるだけの土木機械でもあるまい。などと考えていたらいくつかのモジュールパーツが空気の漏れる音を出し、左右にハッチを開放した。中は空洞、円筒形のコンテナである。ただバトルドールが中に入っていた、ひとつのコンテナに平均10体、満員電車ばりにみっちり詰まっており、ハッチ開放と同時に起動、アサルトライフルを携えぞろぞろと外に出てくる。
「そういうタイプかよ畜生めんどくせえ!」
槍を構えていたフェルトが慌ててサブマシンガンを引き抜き片手での射撃を開始、シオンのライフルも後を追う。最初の数発はセミオート射撃だったが、すぐまだるっこくなりフルオート射撃に変更、1弾倉撃ち切るまで指切りバースト(2〜3発ごとに区切って撃つ)でバトルドールを片端から倒していく。だがすぐに耐えられなくなりまずフェルトが後退開始、庭に出て弾倉交換を行い、射撃再開してからシオンも本館から脱出した。
その間、レアが本館最上階のバルコニーに、ヒナとメルが空中回廊を通って副館屋上に展開していた、それだけでも庭全体が十字砲火の範囲内となっているが、さらにシオンとフェルトが副々館の影まで走っていけば3方向からの包囲になった。
「撃ちまくれ!」
当然、追って出てきた敵はあっという間に全滅する、特にほぼ真上からのグレネード弾が酷い、1発ごとに人形の花火が打ち上がり、2発、3発も撃てば1体残らずガラクタと化した。
ただし終わりではない、見えているだけでも30体以上が館内にあり、そしてワームがその気になればもっと増えるだろう、何せ奴の全長がどれだけあるのか誰も知らないのだ。噴水を挟んでの銃撃戦をしている間に打開策を考える、打開策というか、ワームのCPUを破壊する方法か。
バトルドールには2種類ある、AIを搭載し完全な自立行動ができるタイプと、外部のサーバーで一括管理されるただのラジコンである。今撃ち合っているのは明らかに後者だ、ワームのCPUが破壊されれば停止する。
「だぁぁぁ来た来た来た来た!」
穴掘ってバトルドールをばらまくだけでは飽き足らないらしい、キャタピラを使ってワームが外に出てきた。6.8mm弾など物ともせず、40mmグレネード弾も僅かな損傷を与えるのみ。そしてバカ長い胴体が庭をのたくるのに紛れてバトルドールがまた出てきた、胴体を盾にしながら。
「駄目だ撃ち負ける! 誰かプラン持ってないか!?」
『はい!!』
撃ちまくりつつ建物の影を出、すぐ副々舘のドアの中へ駆け込む。階段を駆け上がり、空中回廊を通って本館へ。
勢いよく返事したのはメル、こちらと同じく本館へ戻って仕切り直しを図っている。
『あれはシールドマシンを先頭にキャタピラモジュールとコンテナモジュールを交互に組み合わせたものだと推測します! つまり接続部分があり! でも移動方法の関係上モジュール同士を密着させられず! さらに接続部の中は土砂運搬のために空洞と考えられます! にも関わらずあんな大重量をシャフトだけで支えている! どう考えても衝撃に弱い!』
「つまりそこは壊しやすいって事だな!?」
『そこで提案なのですが!』
弱点狙えばいいじゃん、というのはわかった、だがどうやって。
モジュールとモジュールの間に隙間があるといってもそう広くはない、せいぜい20cm程度だ。かなり近付かなければならない、どういう手段を取るにしろ、大量のバトルドールをなぎ倒して奴の胴体に。
しかし近付かなくてもいい手がひとつ。
『レアの腰のベルトポーチに1発だけ入ってる赤い弾をシリンダーに突っ込んで頂きたい!』
『え゛っ…これお守り……あいや使うのはいい、いいけど、いいんだけど……これ1発いくらするか知ってる?』
『10発あれば家が建つよね!?』
『知ってる、あ、そう』
本館2階に戻って、メルとレアの会話を聞きつつ窓から様子を見てみる。カッターヘッドが本館の壁に噛み付くのが見えた、そのまま轟音を立てて穴を開け出す。
早急に倒さねば、この城が穴だらけになってしまう。
『ならいいわ、私はどうすればいい?』




