不在の館
「グリムリーパー1、ゴライアス1、人形8、北東からこちらに近付く」
「銃声聞きつけてきたな……先に片付けるか」
城内は明らかに手入れがされていた、門をくぐった先の庭は枯葉ひとつ落ちておらず、中央では噴水が水柱を出している。夜の暗闇を火の照明が控えめに照らし上げ、なんというか、落ち着いた雰囲気的にここで戦うのは避けなければならない気分になる。
なので、一度入城したものの、ヒナの敵発見に合わせてシオンは反転した。住人がいるのならどのみち城内での交戦は愚策だ、離れた場所で戦わなくてはならない。
「こんばんは」
と、思って正門の影から外を覗いていたら、いきなり声をかけられた。
「お気遣いは不要です、中へ引き込んでください。隠れ場所の多い方が戦いやすいでしょう?」
蝶ネクタイ付きのワイシャツとベスト、スラックスを着た紳士がいつの間にか背後に立っていた。髪を綺麗に切り揃え、外見年齢20前半、声を含むあらゆる動作に気品が滲む。左手にはランタン、右手は一斉に振り返った一行を誘導するべく城内奥を示している。
「イケメンだ」
「え?」
「イケメン出た」
「イケメンだわ」
「イケメン」
「イケメンにしか……」
「すごいイケメンだよこれ」
「あの……とにかくこちらへ」
グリムリーパーの4脚歩行音が近付く中、それそっちのけで男性に釘付けとなった全員、身を翻し歩いていく彼を追って庭を中心方向へ。
真北に正門、南に本館、東西に副舘と副々舘がある庭だ、北方向と東の一部以外は崖に囲まれていて、そちらから侵入できるのはサイクロプスくらいのもの。さらにその北方向さえ城壁が塞いでおり、少なくとも、グリムリーパーとゴライアスは正門を通るしかない。
「2人ほど噴水の影へ、他の方は屋内に潜んでください、鍵は開いています」
「名をお聞きしても?」
「私はシズ、この城の管理を任されています。あいにく城主は不在でして」
門を正面に見ながら右にメル、左にヒナとフェルトを配置、シオンはレアと共に噴水へ隠れた。シズと名乗った男性は庭の奥、本館付近で身を屈め、敵が入ってくるのを待つ。
間も無く4脚鏡餅、続いて下半身が現れる。グリムリーパーが砲塔を回しつつ前進を継続、ゴライアスは門をくぐったところで停止した。さっきの壊れかけとは比べ物にならない機敏さで8体のバトルドールも後を追ってきて、半分ずつが大型機の援護につく。
「レディ」
グリムリーパーとの距離30m、じりじり噴水に近付いてきて、ヒナの隠れる窓を越える。
「ファイア!」
シオンとレア、同時に噴水から躍り出た。ほぼ同時にグリムリーパーは反応するも、7.62mm機銃が火を噴く前に砲塔後部に8.6mm魔力貫通弾の青白い閃光が突き刺さって、鐘をついたような音を出しつつ本体下部まで貫通、カメラの光を失った。取り巻いていたバトルドールはシオンとフェルトから連射を浴びせられ倒れ伏し、それで前衛部隊は全滅した。その間に後衛部隊はバトルドールをメルが、ゴライアスをレアが撃破している。バトルドールは重アサルトライフルの横薙ぎ射撃で4体まとめて穴だらけになり、ゴライアスは胴体が爆発、装備を誘爆させた。
ッポン!みたいな情けない発射音だ、銃弾と比べると面積あたりの圧力が低く、非常に遅い、そのため放物線軌道を取る。代わりと言っては何だがとんでもない威力を持つ、着弾直後に炸薬が爆発、赤い火炎を噴き、そこからさらに魔力炸裂によって破片が衝撃波をぶちまけた。爆発音は花火に近く、効果範囲は通常弾よりふた回りは広い。絶対喰らいたくないわあのグレネード、と隣で見ていたシオンは思う。
「クリア」
交戦時間2秒足らず、グリムリーパーの爆発を見届けてから全員噴水前に集まった。人的被害は無い、石畳が焦げてガラクタが散らばったが、それだけである。
「どうも、おかげで楽に勝てました」
「礼には及びません、久しぶりの来客なのです、城も喜んでいるでしょう」
手を振って終わった事を伝えればシズも近付いてきた、澄ました顔で、静かに言う。
「……貴方の他に人は? ここには?」
「いません、私だけです」
5人、揃って顔を見合わせる。
たった1人? このバカでかい城に? 1人で?
「中へどうぞ、どのようなご用か存じませんが、部屋は余っています」




