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亡霊騒ぎ 完

「グロいな……」


「でも外装が劣化してるだけですわ」


「ボロボロの家事ロボットを見間違えたってか、そんなこったろうとは思いましたが……おいフェルトー! これただの人形だから帰ってこーい!」


 AIの巡回ルートとやらに差し掛かった直後、数体の敵人形と出くわした。すべてが家庭用のユニバーサルドールで、劣化が酷くボロボロ壊れかけ、動きも絶妙にカクカクしていた。丁度良く日没した頃合いに接触し、フラッシュライトを向けた途端に包丁振り上げながら現れたもんだから、レアはなんか「びゃぁぁぁぁっ!!」とか言いつつハーフトラックから転落、しかしシオンとメルが数発撃ち込むと聞き覚えのある金属音がしたため、すぐ立ち直ってシオンと共に残骸を確認し出した。

 フェルトは気付いたら姿を消していた、呼びかけた十数秒後に暗闇からそろりと現れ、今はヒナの背中に抱きつきじっとりしている(ジト目で睨んでいるの意)。


「拍子抜けですな、手早く済ませましょうや」


「ええ、でも……」


「何か?」


「綺麗すぎないかしら、このお城。何百年も手付かずのはずなのよ?」


 人形から外した目線をレアは上へ向ける。服装は皆とほぼ同じフリースジャケットとカーゴパンツ、両手で握るのはフォアグリップ(照準安定用の持ち手)を備えたリボルバー式の40mmグレネードランチャーだ、ストックを最大まで引き伸ばすと78cmの長さになり、重量6kg、シリンダーには40mm榴弾が6発入る。重たい弾頭は放物線軌道を取るため光学照準器には角度がついていて、目標を中心に捉えると発射口は上を向く。ただでさえ炸薬が詰まった40mm弾であるが、腰に巻いたベルトポーチの予備弾薬はほとんどの弾頭が濃緑色に塗られており、通常の爆発の上から魔力炸裂を起こす鬼畜仕様だと思われる。


「手入れしてるんじゃねーすか?」


「誰が?」


「これを住処にしてる奴が」


 住人がいるかどうかは聞いていなかった、いたとしても外観を優美なままに保つ理由は見当たらないが。違和感を訴えるレアに言いながら部隊に前進を支持、ハーフトラックはそのままにしてシオンが先頭、歩き難そうなヒナ(若干困り顔)を挟む形でメルが後方を警戒する。レアはシオンのすぐ後ろについた、グレネードランチャーをいつでも撃てる状態にしている。


「明かりがついた」


 最も大きな本館には無数の窓があるが、そのうち真ん中あたりに光が灯った。「人? 人がいるんだよねぇ?」「そもそも照明じゃなかったりして〜」「ぴっ!?」とかいうフェルトとメルの会話を尻目にそれを凝視。

 微かに人影が見えた気がした。


「…ォ……」


「停止」


 それに気を取られて、というか音響索敵担当のフェルトがあんななので反応が遅れた。枯葉を踏みしめる足音と同時に僅かな人の呻き声、足を止めてアサルトライフルのストックを肩に、銃口を持ち上げる。


「オォ……」


「あわわわわわわわわわわ…!」


「フェルト、震えないで、照準つかない……」


 背後ではスナイパーライフルのスコープをスイングアウトさせバトルライフル化したヒナが言い、しかし震えが止まらないのでフルオート連射可能(=照準が大雑把でいい)なサブマシンガンに切り替える。その間メルはフェルトの額からゴーグルを剥ぎ取って装着、辺りを捜索し始めた。


「オイテケ……」


「置いてけ?」


 声がするのは四方すべて、最も近いのは左だろうか。そちらへ銃口を向け、アタッチメントレールに着けたフラッシュライトを点灯。


「オイテケ……!」


 ボロボロの服を着た、顔が真っ白の男だった。髪を振り乱し、ゾンビのような、というかゾンビそのものな歩き方で近付いてくる。光に照らされた途端、両手を上げ、白目を剥き、足を加速。


「オイテケェェェェェェェェ!!」


「うらぁッ!!」


「グボァァァァァァァァァァァァァァッ!!」


 直後、シオンに蹴り飛ばされて暗闇に消えていった。


「ひぃぃぃぃぃぃ!?」


 それ以外の連中は全員まとめてメルが黙らせた、ドラムマガジン装備の重アサルトライフルを真上に向け10発ほど連射すれば一様に悲鳴を上げて逃走、すぐいなくなってしまう。残ったのは発砲音の残響、それと蹴っ飛ばした男1人。


「何だと思う?」


「幽霊の噂にかこつけた追い剥ぎ」


「正解です……」


 シオンが問い、レアが答え、男が判定した。現実なんてこんなもんである、幽霊の正体見たり枯れ尾花、みたいな。


「真面目に生きなさい、消費するだけじゃいつかは何もかもなくなるの、使った分だけ生み出さないといけないの」


「おっしゃる通り……」


「こんなご時世だもの、腐りたくなるのもわかるけれどだからって他人に迷惑かけちゃ駄目」


「はい……」


 部隊長より教師あたりのが向いてそうだぞこの赤髪ツインテール。


「仕方ないわね……ギリギリ3日生きられるくらいの食糧を恵んであげなさい」


 ふた昔くらい前の父親みたいなこと言いだしたぞ挙句。


「どこでもいいから近くの村に身を寄せる事、助け合って生きる事」


「はい…ありがとうございます……」


「はい行って」


「ありがとうございますぅ……!」


 メルから食糧の袋詰めを受け取った男は仲間を追って走り去った、レアはそれを見送って溜息、グレネードランチャーにセイフティをかけ、視線を城へ戻した。

 横槍が入ったが、本命は城の調査だ、幽霊ではない。


「前進再開」


「よし今度こそだ、フェルト、大丈夫、踏ん張るな、もう終わったから、たぶん」

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