人はそれをアルファベット2文字で言い表す
『メル、ティーの件だけど、居るはずのない証言者が現れた』
「ほう」
『レアの代理就任時に周りを取り巻いてたうちの1人、ティーが物資盗んだ瞬間を見たって。たぶん、ハッカーもレアの取り巻き、要らぬお節介でティーを貶めた』
「タチの悪いファンってやつかねぇ。一応聞くけど、ティーはほんとに盗んでないんだよね?」
『本人の言い分では』
「まぁいいや、大丈夫、証言者が嘘をついている証言を取ればいい。すぐ向かうよ、犯行に使われたパソコンを持って」
家の前で足音がした、かなり急いでいる。床に座っていたメルはにやりと笑って立ち上がり、玄関前に仕掛けたものを最終確認。
粘着シート、トリモチである、成人男性を捕獲できるサイズ、それが玄関から屋内へ入ってすぐの場所に仕掛けられている。メルはトリモチの横、壁に張り付いて待機、この家の家主が現れるのを待つ。
すぐ現れた。
「うおぉぉぉぉぉぉ!?」
すぐ引っかかった。
「は!? は!? ナンダコレ!?」
彼は勢いよくドアを開けて入室、右足から着地して、左足を前に出すと同時に前のめりに倒れる。次いで両膝がトリモチに接触、後を追おうとする上半身を両手が阻止した。
「はいいらっしゃーい」
膝と手で体を支える四つん這い、文句無しの体勢だ。パニック状態に陥る彼を横目にまずメルはドアを閉め、鍵をかける。トリモチシートの端を掴んで全力で引き、彼を部屋中央まで移動させ、眼前に彼のノートパソコンを置く。セキュリティは解除済み、データセンターのハッキングに際し使用したと思しきソースコードを表示している。
「ホワイトハッカーか!?」
「限りなく黒に近いと自負してるけどね」
「クソ…! 狙いは何だ!」
「それは言わなくたってわかってるでしょー?」
言いながら、メルは棒を取った。長さ1m、幅10cm程度の木の板材だ、大急ぎで角を丸めてきた。それで床をカツカツ鳴らしつつ四つん這いな彼の背後へ。適当に位置取りし、素振りを1回、また床を2回鳴らして、バッティングフォーム。
「やる事はいたってシンプルだ、私はこのバンカー精神注入棒でキミのお尻を叩く、キミはその度に"ティー隊長のファンになります"と言う、いいね?」
「よくねーよ! 俺が絶対に言えないセリフだ! 言わなかったらどうなるって!?」
「この場にフェルトが来る」
「……………………」
さすがフェルト、こんなどこの誰かもわからない一兵士にまで異名を轟かせているとは。
ぴったり黙った彼に笑みを深め、しかしだからといって観念はしないので、1発目を振りかぶる。1発目だ、望みの言葉が得られるまでこれは続く。
ではいってみよう。
※以下セリフのみでお楽しみください
「そーれ!」
「(1HIT!)だっっ! ティー隊長のファンになります!」
「あらよっと!」
「(2HIT!)ティー隊長のファンになります!」
「もういっかい!」
「(3HIT!)ティー隊長のファンになります!」
「まだまっだ!」
「(4HIT!)ティー隊長のファンになりますぅ!!」
「なかなか慣れてるじゃん」
「ふざけんな! 俺にその気はねぇ! 俺はもっとき(5HIT!)ティー隊長のファンになります! 気弱なんだけど人前じゃ意地張っちゃ(6HIT!)ティー隊長のファンになります! 意地張っちゃって家で自己嫌悪する子を支えるのが(7HIT!)ティー隊長のファンになります!」
「でも本人嫌がってるよ? それはいいの?」
「俺達が支えればいいと思ったんだ! そうだろ!? 1本では簡単に折れるかもしれな(8HIT!)ティー隊長のファンになります! しれないが複数集まれば(9HIT!)ティー隊長のファンになります! 集まれ(10HIT!)ティー隊長のファンになります! 集ま(11HIT!)ティー隊長の(12HIT!)ティー隊長の(13HIT!)ティー隊長の(14HIT!)ああああああああああああああわかった! わかった!! それが幸せだっていうんなら!!」
「おっ」
「レアちゃんのファンやめますぅぅぅぅぅぅ!!!!」




