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ハッカーは面会に行った1

「これフェルトから、触手のぶつ切りシチュー」


「嫌がらせかな?」


 言わなきゃ何が入っているかまったくわからないのに、ひとまずいつも通りの服装、白緑色の長髪に巻いたヘアバンドとネイティブ柄のポンチョで面会室に現れたティーに対しメルはタッパーを差し出しつつ言った。昨日まで彼女は自宅謹慎していて、それも今日で明ける筈だった。のだが、ここは営倉、要するに牢屋である。

 すべてデータベースの改竄が原因だ、本来の命令違反だけなら謹慎で済んでいたものを、今ティーには物資横領の疑いがかけられている、明日には軍法会議だ。そうなったら目も当てられない、少なくとも中隊長ではすぐになくなろう。

 室内にはテーブルひとつ、それを挟んでパイプイスがふたつあり、メルとティーが腰掛けている。それ以外には監視の兵士1人、目を向けると無表情で視線を壁に固定した。


「味方か敵か」


「見張っておくよう言われただけだ」


 メルの問いに対し彼はそう答える、大丈夫そうだ、今ここで何を話しても告げ口は無い。


「簡単にまとめよう。本日未明、データセンターに侵入者があって、確認したらティーが6.8ミリ弾20000発と40ミリグレネード弾500発、使い捨てロケットランチャー35発、ガソリン2000リットル、航空燃料1000リットル、鉄スクラップ10tを1人で盗んだ事になってた」


「ふはははははははは! どうやって!? ねぇどうやってやればいいの!?」


「毎日欠かさずポッケに詰めてたとか?」


「無理だて! 液体どうすんの! 液体は!?」


「空き缶空き缶、350ミリの」


 とかやって、両者共に大笑い。5秒ほど続けたのち、笑ってる場合じゃねえとティーが急に真顔になった。

 日常的にゲテモノ料理を食べなければ生きていられない時代である、窃盗の罪は非常に重い。


「手がかりは?」


「午前3時53分、食糧研究室前の監視カメラ」


 タブレットをテーブルに置く、180度回転させてティーに向ければ別段何の操作もなく映像データが再生される。彼女が画面に釘付けになっている間、シチューのタッパーを開けてスプーンを添え横に置いておいた。目を上げたティーはすぐ気付き苦笑、スプーンを持つ。なおシチューとはいっても見た目は薄い茶色だ、日本においてシチューといえばホワイトかビーフの2択だが、ヨーロッパでは煮込み料理の総称である。汁だくの洋風煮物、という方がイメージしやすいかもしれない。


「材料がアレってのだけ除けば店開けるレベルなんだよなぁー……」


 一口食べた感想がそれ。


 で、監視カメラの映像。早足に逃げ去る男の姿だ、脇に抱えるのはノートパソコンに見える。着用するフリースジャケットは兵士標準装備のもので、作戦行動中のサーティエイトや、監視に突っ立つ兄ちゃんもたった今着ている。映像は鮮明だったが、フードをかぶり、フェイスマスクで顔を覆っていて誰かはわからない。ハッキングの手練れっぷりからいって兵士かどうかも怪しいが、こちらの心理を逆手にとってあえて私服という可能性もある。まぁつまり服装は気にしなくていいという事だ、重要なのは昨夜から現在まで防護壁の門を通って拠点外に出たものはいないという点。犯人はまだ壁の内側にいる。


「ぐぬぬ……体格が男って以外はわからない……」


「ティーがいなくなって喜びそうな人に心当たりは?」


「それはわかる、レアってコールサインの女だ、私が謹慎してる間、中隊の指揮を代理してた」


「その間にあった作戦の成功率はおよそ5割5分」


 レア。サーティエイトは直接関わっていないが顔は見た、絵に描いたような高飛車女だ。ああこれお近付きになっちゃいけないやつだと思ったので、シオンの不在を理由にあらゆる戦闘行動から外れていた。そのため、実際彼女が有能か無能か測りかねていたものの、監視の兄ちゃんが壁を凝視したままぽつりと言った。

 55%、文句無しで低い。これがスポーツやギャンブルだったならそんな事は言わない、だが失敗=死が当たり前の戦争においてその数字はあんまりだ。45%の確率で死にます、なんて言ったら戦いたがる奴はいなかろう。なおティーの戦績はダムまでは95%以上を常にキープしていた。


「自宅謹慎してる間、ちょこちょこ現れては調子いい事言ってたけどそれじゃ譲れんなぁ」


「お前の居場所もうねーからwwwざまぁwww」


「もうちょっとソフトな言い回しだったけど……まぁそんな感じ、このまま私が戻ればさぞ恥ずかしいだろうね」


 タブレットを引き戻して別の監視カメラ映像を表示、印象がいいとは言えない笑みを浮かべる赤髪ツインテールが映った。取り巻きを数人連れている、まるで大学サークルの姫のようだ。


「これがティーの後釜に入るの? ファンクラブが暴動起こすよ?」


「あの謎組織は壊滅させた、もうこの世に無い」


「それ本気で言ってる?」


「…………」


「………………」


 特に何の根拠も無く言ってみたら、僅かに眉を寄せた中隊長、ばっと兄ちゃんを見るも、彼は目線が外れるまで直立不動を(なんとか)維持、「とにかく」とメルが助け船を出し、注意が逸れるや僅かに息を吐いた。


「こんな博打を主導するにはちょっと理由が弱いけど、まぁ、今のところ一番有力か。ん゛ん……勇気ある者として見過ごす訳にはいかんなぁ(イケボ)」


「ふふふ何その低音、どっから出てるの?」


 笑って言いながら立ち上がり、タブレットを回収、「下手な動きはしないように」と言ったのち、その部屋を出る。

 中隊長代理も気になるが、まずはサーバーに残されていたものの調査だ。バックドアはまだ見つかっておらず、持っているのは囮のスパイウェアのみ。しかし調べない訳にもいくまい。

 そちらを優先、面会から面会に行くとしよう。

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