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終末世界に少女とAIの見つけた生きるというすべてへの解答  作者: 春ノ嶺
4-フランケンシュタインの怪物に一握の温もりを
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胎から出たものを人と呼ぶならば

 門が閉まった事による金属音を最後にすべての使用人は屋敷から出ていった。


『敷地内に見張り無し、行って』


 ヒナからゴーサインが出たので、庭の隅っこで待機していたフェルトは一直線に玄関を目指す。電子セキュリティ付きの正門、裏門、塀に囲まれた広い庭があるにも関わらず中庭まで備える小癪な屋敷である。裏門から入ってまず一度中に入り、目当ての人物が3階にいるのは侵入前からわかっていたので階段を探すも、何故かこの深夜に使用人が活発に動き回っているので断念、庭で待機していたのだ。

 一体何をやっていたのだろう、荷物を運び出しているようにも見えたが。


『メルの方見てくる、脱出する時また呼んで』


「はーい」


 屋内に目標以外の人間はもういない、問題なかろう。

 木造なのに0〜9のパスワードボタンが付いている正面玄関を難なくパス、本当に誰もいないかを確認しつつ階段を登っていく。2階までは普通に上がれたのだが、何故か3階への階段は柵で封鎖されており、分割したままの槍を起動、発光させてから軽く払えば南京錠は切れて落ちた。


 3階は下の階より小さく、広めのホールと、部屋がひとつあるのみ。階段を登りきった先はホールで、敷かれたレッドカーペットの先に奥の部屋に繋がるドア。


「……………………は…?」


 で、そこに達した直後、フェルトは眉を限界まで寄せて大沈黙した。

 フェルトの腰ほどの高さがある台座に乗せられた、趣味の悪い、本っ当に最っ低に究っ極に趣味の悪い女性の彫像がいくつも並んでいるのだ。2体1セット、カーペットを挟み対面位置で並べられていて、階段から上がってきて奥に行こうとすると必然的に像の間を通り抜ける事になる、そんな配置。


 細かく見たくなんてないがそれでもひとつだけ、女性像の外観を簡潔に表現するなら、裸、拘束姿勢、胸に突き刺さる剣。


「…………は…?」


 思わず2回言ってしまった。

 もういい、視界から外そう、早急に停止コードを手に入れねば。右左と首をぶんぶん振り、彫像の前を通り過ぎてそちらへ。


 ……彫像?


「ぇ……」


 考えたくもないのにふと違和感を感じて足を止める、見開いた目でソレを見る。彫刻にしては、おかしい、質感も彫り込みも。見ただけではわからなかった、手を伸ばして頰に触れればすぐにわかった。


「剥製?」


 手を下ろして、しばし沈黙、ゆっくりとドアを見る。耳をすませば物音がしていた、居る、確実に。


「……」


 移動を再開、足音を立ててドアまで行き、キイ、とそれを開け室内へ。


 寝室か事務所だと思っていたが、作業場だった。フェルトのいる入口付近から見て右に薬剤が入っているだろう一斗缶やプラスチック容器がいくつも並べられていて、左には器具、道具がある。乱雑に立てかけられているものもあるが、大半は木製の壁に打ち付けられたL字金具に乗って壁一面を覆い尽くしており、用途のわからないものも多いが、剣や槍、ノコギリ、ハンマーなどが散見される。使用法は……部屋の状態が示す通り。

 気分が悪くなるほどの血の匂いである、いくら洗い流しても染み付いて消えていない。何人、何十人、さもすれば何百人もここで死んでいる、おそらく一部、"出来の良い品"が今見てきたものだ。


「リブロか? 夕刻の話にあった女は時間がかかると聞いていたが?」


「…………」


「ここに連れて来れそうか? 兵士の女は初めてだ、さばき甲斐がありそうじゃないか」


 男はフェルトに背を向けていた、しゃがみ込んで包丁のような刃物を研いでいた。髪の半分以上が白髪、肌にもシワが目立つ老人である。赤いローブらしき服を着て、背を向けたまま入室者へ話しかける。人違いなので、返答は無かったが。


「リブロ?」


 左を見る、とりあえずハンマーがあった。

 ヘッドの直径が20cmほどもある、長い柄の金属ハンマーだ、2歩歩いてそこまで行き、ガチャリと音を立てて持ち上げる。


「っ……誰だ!」


 老人は咄嗟に振り返ろうとしたが、それより前に後頭部にブーツの靴底が衝突した。激しく叫んで床に叩きつけられ、包丁が一拍遅れで後を追う。何が起きたか分からず「なっ…なっ…!?」などと呻くそいつの前でハンマーを頂点まで振り上げる。


「がっ…ああああああああああああああ!!!!何が……ぐああああああああああああああああああ!!!!」


 用を終え、がこんと捨てた時には老人は立てなくなっていた。両足とも膝関節がおかしな方向を向いており、息を荒げ腕のみで後ずさりしようとする。


「ナノマシンの、停止コードが欲しいんだけどぉ、どこにあるか知ってるよね?」


 口だけで笑顔を作り、言いながら壁へ。薪割り斧みたいなのが目に入った、やはり柄が槍ほどもあり、刃は片側のみ、人の胴体くらいなら分断出来そうな刃長を持つ。持つと予想以上に重たい、落とすだけで良さそうだ。


「づ…が……! 何のつもりだ!! 私を誰だと思って」


 やはり、落とすだけで大丈夫だった。


「あ……ぁ……あ゛あああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」


 魚の頭を落としたくらいの軽い音だ、仰向けに倒れる老人の左肩すぐ横に斧が落下、刃の腹に映った自分と目が合ったそいつはまた絶叫、その間にフェルトは残った手足を数えてみる。


「あと4回聞くよぉ?」


 既に表情は恐怖しか残っていなかった、もう一度聞くまでもなく、「2階の執務室ぅぅ!!」と泣き喚くような声を出す。


「レコーダーの音声データを波形に変換すればそれが信号になる!! 停止コードは第9番だ!! 歓喜!! ベートーベンの!!」


 以後、むせび泣くのみになった老人を見、斧は持ち上げ直さず手を離した。代わりに腰の槍を引き出す、2本を接合する。


「そう」


「かっ……」


 風切り音が一度。

 絶ちはしない、首に気道までの傷が付いた。


「は…ッ……は……た……待っ……」


 一転、ひゅうひゅうと空気を漏らす事しか出来なくなった老人に背を向ける。床を鳴らして足を動かし、部屋から退出、ノブに手をかけ。


「たすけ…て……」


 ドアを閉めた。

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