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終末世界に少女とAIの見つけた生きるというすべてへの解答  作者: 春ノ嶺
4-フランケンシュタインの怪物に一握の温もりを
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私に故郷はありません

「……」


「…………」


 個人事務所、というよりは窓際にワークデスクの置かれたステレオタイプの社長室みたいなその部屋にはまだ明かりが灯っていて、どうやら残業していたらしい、1人の男性がノートパソコンの前に座っていた。透き通った金髪で背は180cm内外、ネイビーのシャツとオフホワイトのパンツを着て、無音で入室してきたフェルトの姿を認めるや怪訝な表情でしばし固まった。


「おいつまらん冗談はよせ、貴様は野原のどこかで骨になった事になっている、今更出てくるな、昔なくした玩具か貴様」


「もうちょっといい例え方ないのぉ…?」


 沈黙に耐えかね1歩踏み込めばそれをきっかけに彼の口は開く、フェルトが困った顔で返答すると向こうは溜息ひとつ、イスから立ち上がって壁際の本棚へ。

 一応ここも研究室のようだ、外観は事務所そのものだが、小さな薬品棚と遠心分離器、培養器くらいはある。先程の場所とは毛色が違っていて、本の表紙や耳を揃えて積み上げられた書類には遺伝子、DNAといった類の単語を散見できる。ここはナノマシンとは無関係だ、部署が違う。


「前の所長さんは?」


「死んだよ、自殺だ」


 本と一緒に並べられていたファイルを引き出し、彼が何かを探している間、デスクの前まで行って書類を1枚手に取ってみる。膨大な数こなした実験のうちひとつのレポートだった、内容は、簡潔にまとめるなら"人体の魔力生産量は遺伝子配列と関係があるか否か"。


「今はこんなのやってるんだねぇ」


「腹立たしいが実権のほぼ全てをナノマシン組に握られているからな。まぁ時間潰しのようなものだ、意味などなかろうよ」


「…あの人たちは……」


「少し待て……手紙を預かっていた筈だがよもや本当に渡す機会があるなど考えていなかったからな、さてどこにやったか……まぁよい。窓の外を見ろ、照明が点灯している建物がひとつあるな、現所長の自宅だ」


 既に0時を回った、研究施設群に隣接する居住区は静まり返っている。住人はほとんどが眠ってしまって、外はビルの間を抜ける風がひゅうひゅうと鳴る程度である。そんな中で彼が指差した3階建ての家屋のみには未だ光があった。まだ起きている、という事だろう。


「下郎共に配布されている信号発信機には貴様が欲しがっているだろうコードは搭載されておらぬ、万一誤作動でもしたら取り返しのつかん目に遭うからな、持っているのは奴のみだろうよ」


「まだなんにも言ってないけどぉ……」


「察しなど容易に付くわたわけ、奴らの研究を台無しにする以外に貴様がここでする行動など無いし、そして俺が奴らを庇う理由も、無い」


 無い、と言いながら彼はファイルを放り捨てた。次いでデスクの下からPCバッグを取り出し、さっきまでタイピングしていたノートパソコンを詰め、そこからまるで泥棒のようにデスクの引き出しを荒らし、本をぶちまけ、試料入りのガラス容器を床に叩きつける。


「では6号」


「フェルト」


「……ではフェルトよ、ここからは取引としよう。現所長の邸宅に入るにはパスワードが必要になるのだが、幸運にも俺が記憶している。これが無ければ貴様は塀を乗り越え見張りを薙ぎ倒し、窓を叩き割って侵入、使用人どもを皆殺しにせねばならぬ」


 必要なもののみをバッグへ投入、隣室へのドアを開けて一度消えるもキャリーケースと僅かな着替えを抱えてすぐ戻ってきた。その後メモ帳とペンを取りパスワードとやらを記述、フェルトに差し出して、しかし取ろうとするとひょいと避ける。


「交換条件だ、これが欲しければ」


 むぅ、と頬を膨らませるフェルトに対し男は笑う。片手でキャリーケースに荷物を詰めつつ、自信満々に告げる。


「俺に避難先を提供しろ」

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