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終末世界に少女とAIの見つけた生きるというすべてへの解答  作者: 春ノ嶺
4-フランケンシュタインの怪物に一握の温もりを
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胎から出た場所を故郷と呼ぶならば

『グロ注意』


『いきなりどうした』


 第1段階、停止コードを手に入れる。

 これは何があっても達成せねばならない目標である、少女と、少女の仲間を助けるためでもあるし、仮に無力化に失敗したら間違いなくキメラによる反撃を受ける、保身のためにも必ず必要だ。


 第2段階、被害者を逃がす。

 無論、体内のナノマシンを停止させてからとなる。キメラに理性は残っていない可能性が高く、まだ変異していない者もここ以外での暮らしを知らない。今更自由を得たとて苦しんで野垂れ死ぬか、AIに怯えて暮らす生活を強いられるだろう。だが、それでも逃がすと決めた。


 第3段階、研究の継続を不可能にする。

 逃がし終えた時点で廃都市は騒ぎに包まれる筈だ、関係者は研究所に集まってくると思われる、そこを狙う。消し去らねばならないものはナノマシンに関するすべて、実物、設計図、実験データなど。紙、パソコンだけでなく人間の脳内に保存されている情報も含む。


 第4段階、サーティエイトも逃げる。

 言うに及ばず、というやつだ。誰にも姿を晒してはならない、これは明確な命令違反であるので、もし本部に知れれば帰る家を失う恐れすらある。隠密裏に接近し、秘密裏に目的を達成、何食わぬ顔で都市を離れる。こんな悪党の常用句を使いたくは無いが、目撃されたら消す、くらいの覚悟で挑む。無用な死体を作りたくなければ見つかるな、という事だ。


『スタンバイ』


 当然といえば当然だが、研究施設群には見張りがいた。武装はしておらず、代わりに大型の通信機を背負っていて、おそらく、防衛にもキメラを用いているのだろう。見つかれば、直ちに奴が来る。


『レディ』


 日付けが変わるかどうかという深夜であるものの、ぽつりぽつりと電気照明、焚き火があり、ホテルの前よりは明るい、ナイトビジョン無しでもどうにかはなる程度。

 瓦礫の影に潜むフェルトの正面3mにはその見張りが1人、フェルトには背を向けているが、道路を挟んだ反対側の建物屋上にも1人いて、瓦礫を飛び出せば見つかろう。だから待機していた、右手にサバイバルナイフを握りながら。


『ファイア』


 通信機の向こう、辺りで一番背の高いビルに陣取ったヒナが告げた瞬間、屋上の1人が糸の切れた人形が如く崩れ落ちた。眼前の1人はすぐ異常を察し、声を上げようとしたものの、「ぉっ……」としか言えず、喉笛を掻き斬られて沈黙する。


『クリア、魔力静音弾は残り6発』


 死体を瓦礫の影まで引きずって隠す、街灯に照らされる道路をひょっこり覗けば別の裏路地から出てきたメルと目が合い、オーケーサイン、白塗りの研究室前で合流。

 魔力静音弾とは、名前の通りである、サイレンサーも亜音速弾も使わず発砲音を封殺する弾だ。映画やアニメで描写されるようなプシュン、という音すら出ない、撃針が薬莢底部を叩く僅かな金属音のみを発し、射程と飛翔速度は通常弾と変わらない。


「おーぅ、顔認証ロック、ハイテクの極みですな。外側からだと登録された人間にしか開けない」


「壊す?」


「フェルトって普段ゆるふわしてるのにいざとなったらバイオレンスだよね」


 メルが扉を開けるために取り出したのは爆弾でもバールでもなくタブレットだった。セキュリティシステムの入る筐体のカバーを外し、タブレットと有線接続、操作を開始、しようとした。


「あれ……」


 したのだが、タッチパネルに一切触れず、自動ドアは開いてしまった。すごーい、と言ってはおいた、しかし最も驚いているのはメル自身に見える。


『どした?』


「もしかしたら私、電脳世界の神になったかもしれない」


『ぁー……メル、あなた疲れてるのよ』


「結局休みなしだもんねぇ」


「口を慎みたまえよ、神の御前であるぞ」


 コードを外したメルは急にドヤ顔となった、足取り軽やかに研究所へ入室、真っ暗な室内中央で一回転。


「ほーらこの通り」


 直後、室内のすべての電子機器に電源が入った。一斉にパソコンが起動し、実験機器が蠢き、ナノマシンの保管庫が扉を開ける。


「すご……」


「でも目当てのものはないね、ここは純粋にナノマシンを製造するだけの場所みたいだ。信号コードを持ってる場所となるとやっぱり司令部か……」


 呆気に取られたまま10秒、我に返る頃には捜索が終わっていた。その間、メルは部屋中央でくるくる回っていたのみ。

 これは何だ、現実か、よもや本当に神か。


「ヒナちゃん、周囲に管制塔みたいなものは?」


『ひとつある、でもかなりみすぼらしい』


 管制、指令に適した場所とはすなわち高い場所である。一番背の高い場所には今ヒナがいて、彼女の証言ではそこはただの廃墟とのこと。他にそれっぽいのはあるにはあるが、うーんどうだろう、という感じ。


「ちょっと、別行動していーい?」


 なのでフェルトはそう提案した。


「うむ、ここには爆薬を設置、手分けして停止コードを探す。私はヒナちゃんが言うとこ行くけど、フェルトは?」


 姿勢を低く保ちながら出口へ、周囲に人がいない事を確認


「心当たりがあって」


 メルを置いてフェルトは外へ出た。

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