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終末世界に少女とAIの見つけた生きるというすべてへの解答  作者: 春ノ嶺
4-フランケンシュタインの怪物に一握の温もりを
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保護したモノは保護すべきモノか否か

「百点満点の悲鳴だったね」


「悲鳴に点数とかあるんかい」


「助けてーでもうわぁぁぁぁでもなくキャーだよ、聞いた瞬間にかよわい女性の悲鳴だってわかるキャーー」


 などと言いつつも、武器を使える状態にしてビルを出、道路に展開するまで5秒はかからなかった。既に完全な夜間、空は雲に覆われていて星明かりすらなく、ビル前はランタンによって照らされているが、左右はまったくの暗闇だった。「Oh……」とか呟くメルをよそにヒナの左眼が右の捜索を開始、フェルトも額まで上げていたゴーグルを目まで下げ起動、ナイトビジョンに切り替える。


「左」


 フェルトよりも小さい、かなり粗末なTシャツとショートパンツを着た、しかし靴を履いていない少女が泣きながら走ってきていた。身長130cm前半、髪はボサボサで、体は傷だらけである。ドス、ドスという大型4足獣の歩行音を伴っており、まもなくソレもフェルトの視界内へ。

 鼻から尻まで3mある、フォルムのみはイヌに似た生物だ。体毛はほぼ無く、爛れたような皮膚から件のトゲ、おそらく骨が体外へ露出しただろうものが突き出ている。まもなく少女へ飛びかかろうとしていて、酷く不揃いな牙をむき出しにし、後足で路面を大きく蹴りつけた。


「ひっ…!」


 餌食になる前にフェルトは両者の間へ割り込む、左手で少女の背中を突き飛ばし、それをメルがキャッチ。右足で斜め前へ踏み込んで衝突コースから外れ、右手で掴んでいた槍の柄に左手を追加、右手を支点にして回転させ刃のみをコースに戻す。

 ヴン、という僅かな音と共に円筒が発光、すぐに刃へ伝播し火が入る。後は微調整しつつ押し出せばいい、そうすれば異形生物の右前足は根元から斬り落とされた。着地できず転倒、小さく呻く。


「フェル……」


 残った足で再び立ち上がろうとしたが、腹に槍を突き立て、全力で横に斬り払えば中断する。続けて首を1度、胸を2度突き刺し、そうしたら完全に動かなくなったが、念のため頭部を深く斬りつけておく。

 身体構造に自然生物との大きな違いは認められない、血も赤く、少なくとも地球外生命体ではなさそうだ。ただし、外観はとにかく酷い、腫れたような色はもちろん、身体の成長に皮膚が追いつかなかったらしき引っ張り、シワ、裂け目まみれ。骨も、何らかの理由があって突き出た訳では無さそうに見える。


「ト……」


「ぁ……」


 目を細め、息を吐いたところで我に返った。目の前にはスマートな殺され方をしたとは言えない、どちらかといえば無残な死体。後ろを振り返れば唖然とするヒナとメル、及び未だ怯える少女。


「ごめ……」


「いや……とにかく、この子どうする?」


 ボロボロの少女、特に足が酷い、崩壊しかけのアスファルトを裸足で走ってきたのだ。ひとまずその場に座らせ、メルが腰から応急キットを取り出し、傷手当てに必要なものが一通り詰められたそれから消毒液パッド、ガーゼ、包帯を選択、全体を消毒したのち最も大きな傷には包帯を巻く。


「お名前は?」


「に…2924……」


「え?」


「2924号……」


「……え?」


 一通り終えた後、メルは少女に名前を聞いて、返ってきたのがそれである。何を言っているのかまるでわからないという風に彼女がぽけっとしている間、フェルトは早足に駆け寄って身体を見る。二の腕、首筋、腹部、至る所が変色していた。たぶん注射か何かだ、何度も打ちすぎて痣になっている。


 それを認めて、顔を渋らせた直後、ゴーグルが音を拾った。少女らが走ってきた方向と同じ、まだ遠く、そう速くもない。


「かくまっといて」


「おぅ?」


「人が来る」


「おぅ……なるべく早くね」


 急いで立たせる、奥のキャンプへ隠す。

 ビルへ押し込まれる直前、少女は僅かにフェルトを見た。ゴーグルを外してふんわりと笑い、見送って、反転する。ヒナはその場に立ったままだ、出来ればメルと一緒に隠れていて欲しかったのだが、ちらりと見ればテコでも動かなそうな顔をしているので、何も言わず苦笑だけしておく。音源が現れる前にメルからヒナへランタンが投げ渡され、それによってキャンプは真っ暗になった。中に入って捜索しない限りテントの存在には気付かれない。


「…な……」


 茶色い、逆立てた髪型の男が道の角から現れ、まずキメラの死体を見て言葉を失った。服装は派手である、カラフルなボーダー柄のシャツと、白黒のパンツ。身長は170cm程度だろうか、顔には眼鏡を着けている。


「これアンタの飼い犬?」


「襲われたのか?」


「そりゃもう」


 元々グロテスクなのに斬殺されて益々グロテスクになったそれの横にしゃがんで鼻面を持ち上げるも生きている訳がなく、「そうか…若い女…クソ……」という呟きを最後に目を外す。ヒナは今ので気付いたろうか、今のところ表情に変化は無いが。


「すまなかった、制御が甘すぎたようだ。……それでお前達は…?」


「ソレが何なのか調べてこいって言われてここまで来たんだけど」


 少なくとも向こうはヒナの一言で気付いてくれた、武装した兵士を送りつけてくる集団なぞひとつしかいない。いやできれば複数いて欲しいのだが、少なくともこの周辺にあるのはあそこのみだ。一応、言葉で捕捉もしておく、フェルトとヒナは別として、上が知りたがっているのはコレが戦争に役立つかどうか。


「あぁ、なるほど、なるほど……わかった。謝罪もしなきゃならん、詳しく話すから、まずはこちらの拠点に来てくれないか?」


 目に留まった、というのが余程嬉しかったか、男は明らかに上機嫌になった。少なくとも、2人以外の人物の存在を気にする様子は無い。無言で頷いて、後をついていく事にする。


「アレはいいのかしらね」


「女の子を襲えってだけ命令したんだろうねぇ、私達を誤認したと思ってる」


「子供を襲う理由って何よ」


「命令した人に聞かないとわかんないなぁ」


 とにかく、とにかくだ、この男は信用ならない、そこだけは保証できる。

 槍を握ったまま、ライフルのセイフティを外したまま、2人は暗闇の都市を歩いていく。

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