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My song  作者: 伊藤カナ
3/6

3、石田&急転直下


「ふふふっ……」


「葦田さん、気味の悪い笑いを授業中にしないでください」


「あ、はい……ふふっ」


 次の日の授業中、私はもう数えることも辞めてしまうほど何度も同じ注意をされていた。


「罰として、この問題の答えをどうぞ」


 今は、4限目の数学。このクラスの誰もが頭の中はこのあとのお昼休みに意識が向き、やる気をなくす時間だ。

 因みに担任の授業。


「はい、答えは〇〇です」


「え……せ、正解」


 私は、さっきまでは毅然としていたアホ面の先生を内心笑いながら、しれっと席に座り直した。


 日頃、寝てばかり立たされてばかりの私がちゃんと答えたことが余程驚きだったのか、クラスメイトの皆はキョトンとした顔で『また』こっちを見た。


 まあ、それもそのはず。私は昨日のことに驚きすぎて、夢だろうと疑ってかかり、夜の10時には寝た。


 次の日の私は、昨日の出来事に興奮していたからなのか、目も頭もスッキリ冴えて、全ての授業をにやけながらだがしっかり受けていた。


 だから、こんな風に注意がてら立たせてやろうという先生達の思惑も全て失敗させられるのだ。


*********************


「ふふふ〜」


 昼休み、教室の隅でにやけながら、チラシを横目にお弁当を食べるという本当に気味の悪いことをしていた時だった。


「葦田」


「ん?」


 突然名前を呼ばれて顔を上げると、クラスの男子、石田が立っていた。


「ちょっと、こっちに来てくれないか」


「え……ちょっと!?」


 そこまで言った石田は、聞いてきたくせに私の意見などお構い無しに腕を引っ張って無理矢理連れ出した。


 もちろん、クラスメイトやお昼休みだからと教室に来ていた人も含めて、その場にいた人々の注目を浴びながら。


「ちょっと、何なのよ。人がせっかく気分よくお昼休みを過ごしていたのに」


「葦田。お前エンコウでもするのか?」


「……は? 何よ突然。頭おかしくなったの?」


 石田は、出席番号が前後で席も近く、割とよく話す関係だ。

 真面目なやつだと思っていたけど、頭でも打ったのか?


「別におかしくねーよ。ただ、昨日見たんだよ。お前がいかにも怪しいおっさんと話してるのをさ。そん時、なんか紙もらってただろ」


 ああ、昨日のを見てたんだ。

 やっぱり怪しいよね、あのおじさん……


「って、どこを見たら援助交際に繋がるのよ。そりゃ……あの人は怪しい見た目だけど、その後おじさんだけが立ち去ったのは見てないの?」


「あ……見た。じゃ、じゃあ何してたんだよ」


 あ、って……


「歌手KING選手権のエントリーシートを貰ったのよ。石田も知ってるでしょう? あの番組。で、その番組のディレクターであるおじさんに昨日、出ないかって声をかけられたの」


 私が自慢も込めて強気にそう言い放つと、石田は無言で私を頭のてっぺんから足の先までを何度も往復するように見た。

 顔には、驚きが満ちている。


「……は、は!? お前があの番組ディレクターにスカウトされたとか、嘘だろ!? なんの冗談だよ」


「嘘じゃないよ、名刺だって貰ったんだから。ほらっ!」


 私が持っていたおじさんの名刺を自慢げに見せると、石田はそれを奪い取って、食い入るように見ていた。


「……まじか。で、でもさ、お前が出場しても恥をかくだけだろ?」


「恥ってなんのことよ」


 無理矢理作った嘲笑する表情。きっと、石田にとっては、いつものように私と言い合いをするテンポなんだろう。

 その距離が私と石田との日常だから。でも……


「だって、お前歌下手じゃん。路上ライブしてても人が立ち止まってるところとか見たことないしさ」


 それは地雷だよ……石田。


 石田の言葉は、見事に私が1番触れられたくない部分を刺激した。

 何か……反論しなきゃ。

 そう思うものの、何を言えばいか、正直わからなかった。


「……う、うるさいな」


 絞り出した声は、何故か掠れていた。


「だって、本当のこ……と。え、お、俺予鈴鳴ってるから教室戻るわ」


 そう言った彼は私に名刺を押し付け、足早に去っていった。

 私は、彼がいなくなると同時に溢れ出した涙を抱えて、保健室へ走った。


*********************


 いざ、ベッドの中に入ると、石田の言葉が頭の中をぐるぐると回りだした。


 我ながら、単純だと思う。

 朝、目を覚まして、机の上に置いたチラシと名刺が消えていないことに大喜びして、出場する気満々でいた。

 が、石田の言葉は容赦なく私の痛い所を刺して、今は動けない。


 石田の言葉は、正しいって知ってる。

 彼の言った通り、私はきっと恥をかく。分かっていたんだ。毎日誰の足も止まらない路上ライブの現状も、明日こそはと何度も言い聞かせて見ないようにしていることも。

 それを見てしまったら、自分に才能がないことを認めてしまうから。


 それくらい、分かってたんだ。


「あー……。頭ぐちゃぐちゃだ」


 午後の授業をサボった私は、保健室のベッドで泣き続けた。

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