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My song  作者: 伊藤カナ
1/6

1、私の日常






「では、お次はアシカさんです! どうぞー!」


 有名司会者の明るい声を合図にこっちを向く大きなテレビカメラ、目の前には隙間なんて見つからないくらいの顧客。

 夢のようだ。やっと、やっとここまで来たんだ!


バシッ!


「……ったいなぁ……」


 なんだよ、人がせっかく気持ちよく初ライブを……


「何を寝ぼけているのですか?」


……え?


 急に側で声がして驚くと……覚めなくていい目が覚めてしまった。


「あれ?」


 頭に受けた衝撃で夢のステージは本当に夢と化し、目の前にはステージではなく教室の風景が広がっている。


「『あれ?』じゃないですよ。葦田さん、この問題の答えは?」


 なんだ、寝ていたのか。ちらりと後ろを振り返ると、申し訳なさそうに手を合わせて謝る男子と目が合った。どうやら、私を起こすために頭をはたいたのはこいつらしい。


「はあ……」


「ため息とは失礼な。さあ、問題の答えを言ってください」


 担任が指差す黒板には、数式が書かれている。


 そうか、今は数学の時間か。


「……分かりません」


「全く、こっちがため息をつきたいくらいですよ。立っていなさい」


 こういう光景は割と日常だったりする。その証拠に、入学して2ヶ月の教室であるにも関わらず、クラスメイトはまたかという顔で私を一瞥するだけ。くすりと笑うことすらしない。


*********************


 えっと、205……205……あった。


 放課後、私は駅前のコインロッカーから、相棒であるギターと今日の分の私服を取り出していつもの場所へと向かった。


 今日こそは誰かが足を止めてくれるだろうか。いやいや今日こそは……っ!


 トイレで私服に着替え、ギターの準備をしながらそう考えた。

 私は、本名の葦田愛歌から文字ってアシカと言う名前で歌手デビューを目指している。

 いつかは大舞台でシンガーソングライターとして日の目を見ることが目標だ。


 よし、今日もやるか。

 私は、スカウトを本気で狙っている訳ではない。が、少しの期待を元に、度胸を付けることにも繋がるからと雨の日以外は毎日休まずここで歌っている。


 学校帰りに駅前の公園。

 滅多に誰も立ち止まらないけど、それでも歌っている。


*********************


「ただいまー……って、誰もいないか」


 そう呟いたあと、ため息をつきながら私が歩く通りに明かりをつけていき、リビングへ向かった。

 そうして入った誰もいない空間にも明かりを付けると、テーブルの上にいつも通り、メモがあった。


『母も父も、帰りは夜中になります。夕飯は冷蔵庫の中のカレーを温めて食べてください。by母』


 そんな母の文字が並んでいるものだ。だから私は、それに従ってカレーを温めて食べた。

 我が家は、両親が共働きで夜勤ばかりの2人と私は滅多に会わない。また、中学生の妹は部活で帰りが遅い。


 だから、必然的に家にいるのは私だけという時間ができるがこの時間が意外と快適だったり……。


 食後、皿洗いをして洗濯物を出して、お米まで仕掛けると、その後はずっと自室に篭もる。


*********************


「これもダメ、ここも納得いかない……」


 自室の机にかじりついて数時間、私はこんなことをブツブツと呟いていた。


 傍から見れば、集中して勉強をしているように見えるのだろうか?

……違うけど。


 実際、私の目の前には書き込みがびっしりとされた紙があるが、内容は数式でも、英単語でもなく、私が書いた歌詞やギターコードだ。


 俗に言う作詞作曲ってやつだ。いつもはギターを片手にしているが、今日は歌詞の訂正に苦戦しているため、それはケースに入ったままになっていた。


「あ……もうこんな時間か」


 ふと部屋の時計を見ると、午前0時を回ったところだった。

こんな感じに時間感覚がなくなることも度々あり、たまに机で寝てしまうくらいだ。


 もう寝ようかな。シャワーは朝すればいいし。そうして眠るのもいつものこと。


 これが私の日常

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