3 推薦
馬鹿どもがゴールデンウィークを前にして浮足立ち、聡く賢い者はその先に潜む中間試験に目標を定める。そんな時期、クラス委員を決めるHRにおいて、俺は「は?」と威圧的な声を発した。
「俺が、学級委員? 何故自分がやらなければならないのですか?」
濁った碧眼を吊り上げて、威圧しながら極力事務的に、高橋に問いかける。彼は飄々とした調子で答える。
「男子学級委員に立候補はおろか、推薦すらないまま一時間が経過した。このままでは埒が明かない。というわけで俺から推薦だ――東條、次席のお前なら文句は挙がるまい」
次席とか初耳なんだけど。というか、それは公開して良い情報なのだろうか。既に立候補で女子学級委員の座に収まった主席さんをはじめ、優秀なA組のクラスメイトが驚きや尊敬などの表情をこちらに向けてくる。
目立ちたくない、人と関わりたくない、そんなオーラを出していたのに、何故この担任教師はそれを無視してくるのか理解出来ない。
兎も角、目立ったのはこの際仕方ないとして、人と関わる役職は遠慮願いたい。
「自分より適任者はいますよ。十九番君とかどうです?」
「お前は名前も覚えてない奴を推薦するのか?」
適当な提案は遠回しに一蹴された。そんなことないよな? とばかりに十九番君を見るが、露骨に明後日の方向を向いて、下手くそな口笛を吹いていた。話したことも無いのだから、彼が俺に協力してくれる確率は零に等しかったが、正直第二案は無い。
これ以上ないくらい嫌そうな顔で、降参とばかりに両手を挙げる。
なし崩し的に、「歌姫華蓮」の右隣に「東條マリユス」が書き込まれる。高橋からHRの司会を押し付けられた俺は、幸せどころか平常すら逃げそうな位に、深いため息を一つ吐いた。