1 出会
桜のピークを少しだけ過ぎ、ピンクと緑のコントラストを描き出すころ、日本の高等学校は入学式を迎える。まだまだ制服に着られているような新入生たちは、不安とそれ以上の期待を顔に浮かべながら、各々が合格した学校へと足を延ばすのだ。
東京都に在るとある中堅私立高校の入学式で、俺こと東條マリユスは校長の長い話を半ば聞き流しながら、スマートフォンを片手で操作していた。少しでも面白いことはないかと、ニュースサイトのトピックスを眺め、嘆息する。
毎日毎日飽きもせず、似た内容の記事を同じような文面で提供する、ライターや編集者はもう少し仕事をするべきだと思う。
これならば校長の話を聞く方が幾らかマシだと思い、渋々前を向く。これからPTA会長や生徒会長まで語りだすと思うと、軽く鬱になりそうだったが、大人しく聞くことにした。時間はいくらでもあるのだから。
式は坦々と進み、新入生代表の言葉となった。
「新入生代表、歌姫華蓮さん」
「はい」
凛とした声と共に一人の少女が立ち上がる。
俺と同じA組の一番前に座っていたのだから、恐らく主席なのだろう。姿勢の良い、真面目そうな少女だった。腰近くまで伸びた黒髪のロングヘアーが清楚な印象を与える。比較的整った顔立ちは、すれ違えば十人中十人とまではいかなくとも、半数以上は振り向くのではないだろうか。容姿端麗とか、才色兼備といった言葉がよく似合った。
壇上で淡々と言葉を述べる彼女は、客観的に見てもかなり可愛いと思う。
しかし、万が一にも、血迷っても恋愛関係に発展させることは出来ない。高嶺の花だとか、そういった主観的な考えを押し付けようとは思っていない。
実現不可能ではなく、実行禁止の意で『出来ない』のだ。父の二の舞になるつもりは毛頭ない。余計な感情を抱く前に、目線を前の人の背中まで落とした。