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其レハ幾度目カノ十六歳  作者: 文月 竜牙
過去編 ≪其レハ克服シタ追憶片≫
14/15

肆 孤独

 第二次世界大戦の時。

 実年齢はともかくとして、書類上の年齢は少年のマリユスと、その父親のジャックは戦場に駆り出された。この時ばかりは流石に彼らも、極東の島国に閉じこもっていることは出来なかった。

 二枚の赤紙が示されたとき、彼らが怖がることはなかった。吸血鬼というのは、心臓を銀製の武器で武器で傷つけられない限り、死ぬことが無いからである。

 しかし、それが油断であった。


「父さんが、死んだ?」


 中国大陸の戦線で、マリユスは信じられない通達を聞いた。ありえない、と思わずにはいられなかった。

 何を思って、人間同士が殺し合う戦場で、柔らかい銀の武器を持ってくるのか。

 ヴァンパイアハンター。それ以外に考えられなかった。少しの驚きと、少しの悲しみと、多くの虚無感で思考力が失われた。


 母は無い。親友は死んだ。残っているのは父親だけであったのに、それすらも殺されてしまったというのか。

 マリユスは、もはや取り返すことの出来ない幸せな過去に、思いを馳せることしか出来なかった。いや、思いを馳せることすら出来なかった。

 ここは戦場で、個人の都合で動いてはくれないのである。


「敵襲! 敵襲ー!」


 誰かの叫び声が響いた。仲間たちが、慌ただしく銃を持ち、持ち場へ戻ってゆく。

 マリユスは、ジャックの墓標となった、南方の島々の方角へ一秒ほどの極短い黙祷を捧げた後、上官の叫びに従って持ち場へ戻った。


 その日、彼は、撃って突いて叩いて、大戦果を挙げた。

 既に全てを失った彼には、後日の勲章など何の慰めにもならなかった。


 マリユスは、一人だけ世界大戦を生き残った。家族も、友も、もういない。

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