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99話 ユリウスだっていちゃらぶしたい



 全てが表面上、丸く収まった筈の次の日の休日。

 カミラはユリウスの部屋に招待されていた。

 わくわくドキドキ、彼氏のお部屋訪問である。

 だというのに――――。


(意外と質素…………って、引っ越したばかりだし、男に戻ってから日も浅いし、こんなモノよね。それより…………はぁ)



 そりゃあ、溜息だって出るものである。

 カミラとしては、表に出さなかっただけ褒めて欲しい所だ。



(絶対、絶ぇーー対っ! これは色々問いつめられる流れだわっ! 私には分かるっ!)



 正直な話、ガルドがアレやコレ。

 忌まわしき“世界樹”や“新人類”などの事。

 それら全てを話したくない、第一にカミラが“魔王”に至った詳細さえ、禄に話していないのだ。



(話さなきゃいけないわよね…………話すべきよね…………でも、でも…………)



 切っ掛けはガルドとセーラだったとはいえ、元を正せばカミラが起こした“変革”――――“原作改変”が原因だ。

 カミラの心は、軽やかかつ鈍重だ。



「どうしたカミラ? そんなにきょろきょろと目を泳がして。部屋の間取りなんて殆ど同じだろう?」



「へあっ!? あ、ああっ! そうね、うふふっ。うふふふふふ…………」



 入り口の側で固まったままのカミラに、ユリウスは別段、不機嫌な様子もなく手招きする。



(ううっ! しまった。上擦った声をだしてしまったわ…………、怪しんだわよね、怪しまれたわよね)



 カミラは内心の動揺をひた隠しにして、勇気を出して奥へ進む。

 とはいえそこは学生寮、数歩進めば机とベッドだ。



「すまないな、まだ家具は買い揃えてないんだ。取り敢えず机の椅子かベッドにでも座ってくれ」



「ええ、わかったわ」



 椅子とベッドなら、ユリウスの体臭の染み着いている(推定)ベッドだと、躊躇の欠片も無くベッドに座るカミラ。

 いざとなれば、まだ昼だが夜の戦いに持ち込んで誤魔化す所存である。

 ――――補足すると、男性経験は皆無であったが。



「ああ、そうだ。何か飲み物いるか?」



「それは大丈夫よ、欲しくなったら言うわ」



「わかった」



 なら俺もいいか、とベッド脇の備え付け冷蔵庫に手を伸ばしていたユリウスは、手を引っ込めポスンとそのままカミラの隣に座る。



「ユ、ユリウス!?」

(え、ええっ!? まだ私色々と心の準備が――――)



 瞬間湯沸かし器の如く、一瞬で脳内を沸騰させたカミラは、顔を真っ赤にしてカチンコチンになる。

 これはもしかして――――ラブいちゃタイム!?



「ん? どうしたカミラ。そんなに顔を真っ赤にして、熱でもあるのか?」



「ね、熱なんてないわよ。貴男といきなり距離が近くなったから、その、ちょっと、恥ずかしい、だけよ…………」



 少しどもりながら、右へ左へ視線を泳がし縮こまるカミラの姿に、ユリウスは心に芽生えた嗜虐心のまま行動する。

 考えてもみて欲しい。

 普段、気の強い美人が、二人っきりになると頬を染めて恥ずかしがる。

 相手が愛する者だったら尚更――――“愉しい”。



(お前のこういう所は、計算じゃなく“素”だってわかってるんだ。――――少しくらい“お返し”したっていいよな?)



 意外と“ウブ”なカミラが聞いたら、恥ずかしさで逃げ出したくなる様な思考で、ユリウスはカミラの額に手を当てる。



「それは嬉しいが、本当に大丈夫か? この所、色々あったからな。どれ熱を――――」



「はうぅ~~」



 カミラは額に当たる手の感触に悶え、顔が近く長い睫と瞳にうっとりし。

 さりげなく、肩を抱きしめられている事実に身悶えした。

 片思い実質千年以上の耳年増ヘタレは伊達では無い。



「ふむ。熱があるかもしれないな――――それッ」



「ひやっ!? ゆ、ゆりうすぅ!? ここっこっここここ――――っ!?」



「ほれ、暴れるな馬鹿女」



「だって、だって、だって、いいいいい、いきなりぃ…………」



 がばっと抱きすくめられながら、ベッドに倒されて、カミラのメンタルポイントはもう零に近い。

 羞恥が本能を上回り、理性が逃亡を阻止し、板挟みで失神するまで後少し。

 だが、次の一言がカミラを正気に戻した。



「恋人なんだから少しは慣れろ。まぁ、幸いにして今日は何も予定が無い事だし。こうしてノンビリ過ごさないか? ガルドが来てから、そんな時間なかっただろう――――」



「ユリ、ウス…………」



 抱きしめられてるから、身長差があるから、顔を見られなくてよかった、とカミラは思った。



(だって、だって。こんな顔、見せられないわ…………)



 カミラはユリウスに隠し事をしている。

 伝えていない事、言っていない事。

 恋人だからこそ、明かさなければならない事が沢山あるというのに。

 ――――何一つ、大切な事を言っていない。



(ごめんなさい、ごめんなさい)



 唇を一度噛みしめ、声が震えないように一言。



「ありがとう、ユリウス」



「変な奴だ。何に礼を言われてるか解らないな」



 ユリウスは、カミラの心の全てが解らずとも、“秘密”が多くある事も、それを抱え込んでいる事で思い悩んでいる事も解っていた。

 今、辛そうな顔をしている事も――――。



「お前の体温は暖かいな…………」



「…………馬鹿」



 だからこそ、何も聞かなかった。

 問いただせば答えただろう、命令せずとも答えただろう。

 悲しい顔、辛い顔をして、涙を流して答えただろう。

 だからこそ――――、駄目なのだ。



「何でお前は、こんなに良い匂いがするんだろうな」



「貴男こそ、良い匂いがするわ」



 ユリウスはカミラを片手で柔らかく、それでいて強く抱きしめ、もう片方で薄青の長い髪を弄ぶ。

 光の加減で透明にも見えるカミラの髪は、儚く壊れてしまいそうな繊細さで、ユリウスの心を締め付けた。



 日が傾く前の落ち着いた光の中、ベッドの中で二人はただ無言。

 それは恋人同士のゆったりとした空気であり、同時に、ある種の物悲しさを孕んでいた。



(嗚呼、嗚呼、嗚呼…………こんなに近くにいるのに、貴男が遠い、遠いのよ…………)



 全て話してしまえば、楽になるのだろうか。

 何の蟠りも無く、幸せに浸っていられるのであろうか。

 カミラは声の震えも押さえる事が出来ずに、衝動的に問いかける。




「ねぇ、聞かないの?」




「聞かないさ」




 帰ってきた言葉は、簡素で明瞭だった。

 無性に叫びだしたいのを堪え、代わりにユリウスの制服をぎゅっとつかみカミラは更に言葉を求める。



「どうしてよ……。気になっているのでしょう? 命令して聞き出しても当然なのに」



 ユリウスには、そうして欲しいという風に聞こえた。

 そしてそれは正しかった。

 故に、ユリウスの紡ぐべき言の葉は決まっている。



「俺は、お前の心を無理矢理暴きたくない。もし、その事が死に至る道標だったとしても。――――その時は、一緒に死んでやるさ」



 勿論、足掻けるだけ足掻くけどな、とユリウスは続ける。

 そして。



「きっと、それが俺に、お前の恋人として、伴侶として出来る唯一の事だ」



 そこに、カミラは“光”を見た。

 長い間、本当に長い間、望んでいた言葉だった。

 なのに、なのに何故――――。




(嗚呼、嗚呼、嗚呼、嗚呼、嗚呼――――嬉しいのに、嬉しいのに、嬉しいのに何で、何でこんなに)




 こんなに、胸が痛むのだろう。

 こんなに、息苦しいのだろう。



(何故こんなにも私は)




 ユリウスに、――――“羨望”を覚えているのだろう。




(嗚呼、貴男は何時も、何時だってそうだった)




 眩い程の“光”を見せて、カミラを惹きつける。

 幾度と無い繰り返しの中、その“光”を渇望していた。

 もし手に入ったら、大事にしようと思っていた。

 けれど、けれど。



(嗚呼、嗚呼。私は、私は…………)



 ユリウスを。



 ユリウスを。



 ユリウスを、――――汚したい。



 このまま手足を切り取って、動けなくしても、同じ言葉を囁いてくれるだろうか。



 以前やってしまった様に、周囲の人物を、ユリウスの大切な人々を目のまで残酷に殺しても、まだ愛おしく思ってくれるだろうか。



 カミラの巨大すぎる“愛”が、黒く、黒く濁り始める。



(出来ないわ、出来ないわよそんなの――――)



 それだけは駄目だ、二度とやってはいけない過ちだった。

 思うことすら罪だった。



(ユリウス、ユリウス、ユリウス)



 激しすぎる“愛”故に、カミラの心は千千に千切れそうであった。



 愛おしいから、愛しているから“壊したい”。

 愛おしいから、愛しているから“守りたい”。



 カミラは大粒の涙を流しながら、のそりと身を起こし、馬乗りの体制になった。



「どうしたカミ――――」



 そして、ユリウスが疑問の声を上げる前に、勢いよく肩に噛みつく。



「痛ッ! ちょッ!? カミラッ!? お前何して――――」



「ううう、ぐうううぅ~~~っ!」



 まるで獣の様に、唸りながらカミラは噛みつく。

 肩だけではない。

 腕や手、首筋、脚などは言わずもがな、お腹まで噛みつこうとした所で、ユリウスによって取り押さえられる。



「この馬鹿女ッ!? 勝手にとち狂って泣いているんじゃないッ! ――――ああもうッ! だから噛むんじゃない変態オンナ!」



「がるるるるる――――っ!?」



 激情、衝動のままにベルトにまで手を延ばしたカミラを、ユリウスは半ギレになりながらその両手首を、手の痕が付く強さで掴み、攻守逆転。

 ついでの様に上下まで逆転し、そして――――。



 ちゅううううううううう。



「ひいいいいっ!? アアンっ! ユリウス!?」



「――――こういう風に、せめてキスマークにしろ馬鹿カミラ」



 勢いよく頭を下ろしたユリウスに、カミラはすわ頭突きかと身構えた。

 だが、結果はなんだ。

 お返しとばかりに、首筋への熱烈な口付け。



「ききききききききっ! いいいいいいい、今何っ、何して――――きゃうん!?」



「――――ふん、もっとだ」



 確実に痕が残る程のキスに、ゾクソクした快楽すら覚えてしまったカミラは。

 黒と白でわやくちゃになった心など、あっという間にドピンクに染めて、羞恥と向けられた愛情に翻弄されるばかりだ。



「やっ、…………そんな、耳は敏感なの…………」



「んっ、――はぁ、甘いなお前の肌は」



「だめぇ、痕がついたら皆にバレちゃう…………」



「もう、遅い――――」



 端から見れば、夫婦の契りすら交わしていない清らかな男女が。

 そんな高度なプレイをする前にもっと他に、と小一時間叱りたくなる有様。

 二人から漏れ出る熱情は、本能に染まりきって、何とは言わないが、行き着くところまで、とうとう行くのではないか。

 その瞬間――――。




「おハローうううううううう、マイディアブラザー! 今日はお前にビッグニュースを――――びっぐなにゅーすを? …………随分と激しい“まぐわい”をするんだなお前達」



 ノックもせずに乱入したユリウスの兄、エドガーは思わずトランペットを落として真顔になる。

 悪意はなかったとはいえ、肉親の獣の様な情交(未遂)を目の当たりにしてしまったのだ。

 然もあらん。



「――――はぅあッ!? に、兄さんッ!?」



「ゆ、ユリウス!? 服! 服ただして!」



「お前こそ、早くッ!」



 乱れた服を直そうとする二人は、慌てる余りお互いの服を直そうとして難航。

 エドガーは気まずそうに、くるりと後ろを向く。

 割と破天荒な彼だが、紳士なのだ。



「…………あー。何かすまない。三時間ほど後にするな」



「生々しい事を言わないでくれッ!? 少しの間、後ろを向いてるだけでいいッ!」



「はうぅ」



「もう向いてるさ。――――兄はなくとも弟は育つ、という事か……俺も、老いたな」



「アンタ、俺と三つしか変わらないだろうッ!?」



「…………うう、手を動かしてユリウス」



 恥ずかしさと混乱で、エドガーに怒鳴るユリウスに注意しながら、カミラは手早く衣服の乱れを戻す。

 そして、ワンテンポ遅れてユリウスも、制服を整えた。



「――――もう、こっち向いてもいいぞ兄さん」



「そ、それで。何のご用なんです義兄様?」



 恐る恐る振り向いたエドガーに、カミラは興奮冷めやらぬ真っ赤な顔で問う。



「いや、本当にすまない。これからは――――」



「それはいいからッ! 何用なんだ兄さんッ!」



 同じく顔を赤に染めて叫ぶユリウスに、エドガーはニヤニヤしながら、ごほんと一つ咳払い。



「ユリウス、お前さ。親父達に婚約の事、報告してないだろう? そこな新しい義妹殿を連れて、一度戻って来いって」



「――――ご両親への挨拶!」



「しまった…………忘れていた…………」



 ぐぐっと拳を握り、テンションマックスなカミラ。

 そうだった、と項垂れるユリウス。

 つまりは、そういう事になった。



皆様、お気づきでしょうか?

活動報告にも書いた通り、橘 ミコトさんから素敵なレビューを頂きました!

ひゃっほい! ありがとうございます!


それはそれとして。

ユリウス編二章・TS&アメリ編はこれにて終了。

次の100話目にインターミッション? をして、それから新章開始です。

次の更新は、9/17(日)20:00頃です。



次の次の更新日は誕生日です(ボソッと)

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