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94話 忠義対決



「――――やってくれたな」



 状況を素早く確認すると、カラミティスは憎々しげに呟いた。



 背後にはユリシーヌとセーラ。

 右斜め少し遠くに学院長、左には倒れたアメリ。

 そしてその姿は――――。



(――――何をされたのアメリっ!?)



 腕や足は黒く、そして醜く肥大化し。

 無事な部分までも、徐々に漆黒へ染まり始めている。



(魔法による物理的な変異!? ちぃっ、厄介な――――)



 これをやったのは誰だ。

 アメリを傷つけたのは誰だ。

 誰だ、誰だ、誰だ、誰だ、誰だ、誰だ、誰だ。

 ――――そんなの、そんなの決まりきっている。



(嗚呼、嗚呼、嗚呼――――)



 世界は、世界は――――優しくない。

 だから不要でも、滅ぼさずにいておいたのに。

 それを、それを――――。





「――――覚悟はいいな、ディジーグリー」





 地獄より深い怒りの声で、この場でたった一人見慣れぬ美形の男。

 真の姿を現したディジーグリーに、殺意を向けた。



「ひぅっ!」



「気持ちは解るが、す、少しは押さえろ! お前の殺意でセーラが気絶寸前だ!」



 直接見ずとも解る、セーラだけでは無い。

 ユリシーヌもまた、カラミティスの迫力に手を震わせている。

 だが。



「すまない、直ぐに終わらせる」



 そのほんの一瞬だけ、カラミティスの殺意が弱まる。

 叩きつけられた殺意に硬直していたディジーグリーは、幸か不幸か意識の再起動を果たし、虚勢を張るように叫んだ。




「ふ、ふははははっ! 遅かったな紛い物よ! 大事な部下はもう手遅れだ! いくら貴様でも物理的に変異した人間を――――」




「――――五月蠅いぞ羽虫」




 正しくそれは――――“魔王の一撃”とでも称するモノだった。



 カラミティスがひと睨みし、腕を軽く振るっただけで雷鳴が轟く。

 しかもそれはただの雷では無い、物理的にあり得ない物質化するまで凝縮された雷。

 それだけではない。

 決して傷が癒えぬ様、永劫に痛みが消えぬ様に、呪いが伴う“魔”の雷。



「ふん、なんだそんな――――? ぐっ! がっ!? がああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」



 魔雷が放たれディジーグリーの手足を切り落としたのは、刹那すら遅すぎる速度。

 故に、痛みすらを感じる事が追いつかずに、ワンテンポ遅れて、ディジーグリーは地獄を見る羽目になった。



「さて、ただでは殺さない。じわじわと嬲ってから、苦しんで、絶望すら通りこした後に止めを――――」



「ちょ、ちょっと! 馬鹿カミラ!? ストップ! ストーップっ!」



「もう少し穏便にッ! やるならせめて、ここ以外でやれッ!」



「いや、そなたが怒るのは当然だが。もう少しだな…………」



 一瞬にして終わった苛烈な制裁劇に、周囲から思わず制止の声がかかる。

 カラミティスは油断せずに、ディジーグリーの腹を“魔雷”で地面と串刺しにした上、魔法で拘束した後にユリシーヌ達へ振り返る。



「私は確かに“罪”を侵した」



 ほんの一滴たりとも、悔いの無い顔をして。



「私が殺すべきでは無い“命”を奪い」



 ただ、成すべき事をしたまでだと。



「その存在さえ乗っ取った。――――復讐されて、当然だ」



 ユリシーヌに、セーラに、ガルドに、アメリに。



「――――だが、それを受け入れる程お人好しじゃない」



 カラミティス――――カミラは確かに宣言する。




「故に、敵となるなら――――“死”を」



 愛しい者にすら、その澱みきって逆に澄んでしまった金の瞳で一瞥し。

 憎悪に染まったまま、ディジーグリーを痛めつけるべく、再び前を向く。

 その迫力にセーラが気圧され、ユリシーヌが息を飲むも立ち上がるより早く、ガルドが動いた。



「…………何の真似だガルド?」



「余にはやるべき事があるのだ」



 ガルドは今、圧倒的な力への恐怖に震えながら、カラミティスの前に両手を広げて立ちはだかった。



「お前のやる事など知らない。――――そこを退け」



「嫌だ」



 真っ直ぐにこちらを見るガルドに、カラミティスは苛立ちながら宣告する。



「もう一度言う。――――退け。さもないと……」



「諸共に殺す、か? ならば余ももう一度言おう――――使命がある。故に引かない」



 二人の間に、息の詰まる様な張りつめた空気が流れた。

 指先一つ動かしただけで“死”が。

 その事を本能で理解したユリシーヌとセーラは、いざとなれば動く事を決意しながら、黙って流れを見守る。



 カラミティスも、ガルドも一歩も譲歩する意志など無く、故に暫し無言。

 永劫に続くかと錯覚する程の膠着は、ガルドから先に発言する事で破られた。



「言い方を変えようカラミティス――――否、カミラ・セレンディア」



「何だ」



「そなたが“魔王”ドゥーガルドを殺した事を“罪”だと認めるなら、余は要求しよう」



「…………」



 無言によって聞く意志を表したカミラに、ガルドは続ける。



「そなたの被害者として、歴代魔王の“ドゥーガルド”と同じ記憶情報を持つ者として要求する」



「……贖罪、という事か」



「そうだ。…………この一度でいい、見逃してくれ。余は総ての魔族を救う為に、今生があるのだ」



 その言葉に、カラミティスは再び黙り込んで唇を噛んだ。

 燃えさかり煮えたぎる感情とは別に、受け入れなければいけない事だったからである。

 数秒の逡巡の後、カラミティスは“魔雷”を消す事によって、答えを見せた。



「…………感謝する、カミラ・セレンディア」



「だが、ペナルティは受けて貰う。そいつの“魔族”としての力は剥奪する」



「致し方ない。受け入れよう…………」



 ガルドの了解を取れた所で、カラミティスは深い溜息を吐き出しながら、“世界樹”にアクセスして、ディジーグリーの肉体情報に手を加える。



 ――――それを、ディジーグリー本人は見ていた、聞いていた。

 痛みと出血により、細かい所や意味すらあやふやであったが、確かに認識していた。



(ああ…………。なんて、なんて甘い“御方”だ…………)



 誰もの意識から外れるなか、ディジーグリーは満足そうに微笑んだ。



(私は間違っていた…………、例え人間になっていようと、君臨せずとも。この“御方”は我ら魔族の唯一無二の王だったのだ…………)



 もっと早く、正面から話をすればよかった。

 そんな後悔がディジーグリーの心に、肉体の痛みより強く苛む。



(この“御方”が、“ガルド”様が存在する限り、我ら魔族に幸福は訪れよう…………、ならば私に出来る事はただ一つ)



 やらねばならぬ、知って貰わなければならぬ。

 今一度、思い出して貰わなければならない。

 魔族を助けるというならば、魔族の本質、本性を。




 ――――それは、偶然と必然によって引き起こされた。




 カラミティスが、ディジーグリーを魔族の“楔”から解き放ってしまった事。



 ガルドが、魔族の成り立ち、超能力の存在を教えてしまった事。



 ディジーグリーが、死を覚悟で“忠”を果たそうとした事。



 ディジーグリーが痛みにより、魔力――――精神力と云うべきモノの制御を誤ってしまった事。




 そして――――跳ね飛ばされ気絶していたアメリが、目を覚ましていた事。




「フハハハハハハハハハハハっ! 愚かなり偽物共め! 魔族の恨みを、救えぬ憎悪を思い知るがいい――――――――!」




 ここに、歓迎されぬ奇跡は完成してしまった。



 ディジーグリーが放った魔力の塊は、しかしてその存在の可能性によって変貌。

 物事を“加速”させる、という“超能力”となってユリシーヌへ撃ち出された。



 魔力の高まりを感じたカミラは、何も出来やしない、という油断から一歩行動が遅れ、ただユリシーヌを抱きしめる事しかできない。



 誰もが惨劇を予感し、動くことの出来なかった中。

 ただ一人、カミラ達に近づこうと立ち上がり歩いていたアメリだけが――――間に合った。



 間に合って、しまった。



 幸か不幸か、異形となる過程で手に入れた驚異的な身体能力で。

 カミラ達に超能力が当たる寸前に、身を割り込ませる事に成功してしまう。

 そして――――――――。



「あああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」



「アメリっ!?」

「アメリッ!?」



 アメリという少女は、異形の化け物に変貌した。



次回の更新は9/1(金曜)20:00頃の予定です。


そういえば、ブックマーク機能が進化しましたね。

……もっと気軽にブクマしてええのんで?

続きを読むのに、一々探すのも面倒じゃろ?


何? 作者もうろ覚えなタイトルを暗記してくれている!?

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