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93話 カミラの従者はアメリ。……意味は解るな?



(許さない…………絶対に許さないっ!)



 ずっと見ていた。

 時が止まったその前から、その後も。

 アメリは、見ているだけしか出来なかった。



(カミラ様っ! カミラ様ぁ…………!)



 くやしい。

 力のない自分が、暢気に甘えていた一時間前の自分殴りたくなる。



(何とか、何とかしたいのに――――)



 だが、出来ない。

 カミラの魔法的防護――アメリ的には“加護”を受け、洗脳されていた訳ではないが。

 出来ることは隙を見て時折、言葉を発する事のみ。



 しかしそれとて、支配の力が強まった事により、封じられてしまった。



(ユリウス様とセーラを連れて、どこに行こうとしているんでしょう――――?)



 遠くに行けば行くほど、カミラの到着が遅れ、最悪の事態が容易に予測できる。



(カミラ様なら、カミラ様ならきっと無事な筈。あの方に限って“最悪”はないって、わたしは信じてます、信じてます。――――だから)



 アメリに出来る事を、しなければならない。

 だけど今、アメリに何も出来ない事実が。

 ただ――――歯痒い。



(ごめんなさいカミラ様、わたしは。アメリ・アキシアは貴女の従者失格です…………)



 吹き荒れる嘆きと怒りの慟哭に、心を燃え上がらせるアメリの視界に変化が訪れた。



(東屋で止まった!? 何のために――――)



 時を止めるという、怪しげな魔法の効果が切れるのか。

 それとも、目的地に着いたのか。

 アメリが判断しかねている内に、ディジーグリーは外が見えなくなる程の、分厚い結界を張ると。



 世界が色を取り戻した瞬間、同時にアメリへの体の支配を切る。



「体が動――――ぐへぇっ! お、重いです退いてください二人ともっ!」



「――――ッ!? ごめんなさ――って、え? ここは東屋?」



「はぁっ!? 外!? さっきまでアタシら、カミラのサロンに居たのに!?」



「お、驚く前に、わたしの上からどいてくださいってばっ! ――――てやっ!」



 目を白黒させて驚くユリウスとセーラに、アメリは怒鳴る。

 仕方ないとはいえ、人間二人分の体重は流石に重い。

 アメリは寸分の躊躇いも見せず、魔力で筋力を強化し立ち上がった。



「へあッ!? ――――ッととと? な、何でアメリが私の下に!?」



「わわっ!? あっぶないなぁっ! 頭打つ所だったじゃな――――って、アメリ!? 何がどうなってんの!?」



 バランスを崩し尻餅を着く二人に、アメリは手を伸ばして叫ぶ。



「説明は後回しです! カミラ様と合流する為にも、直ぐに立って逃げましょうっ!」



 だが、――――現実は無情。

 二人が手を取る前に、結界の主が戻ってくる。




「――――何処に行こうと言うのだ君たち?」




「ディン学園長! いや、魔族ディジーグリーッ!」



「出たわね黒幕!」



 現在の状況は把握出来なくとも、ことこの場に至っては。

 この男が“原因”であり“敵”である事は疑いようがない。



 即座にユリシーヌはアメリを庇うように前に出、セーラもまた拳を握り。臨戦態勢を整える。



「おっと、落ち着いてくれたまえ。勇者候補に混ざりし聖女よ。こちらには人質が――――ほら」



 言葉の途中で、学園長の体がガクリと倒れたと思うが否や。

 次の瞬間、学園長を抱き留める壮年の美丈夫の姿が。



「――――それが貴男の本当の姿ですか、魔族ディジーグリー」



「その通りだ愚かな人類よ……。ああ、心配しなくていいぞ、この男はまだ生きている。――――月並みだが、抵抗すれば命の保証は無いぞ」



「くッ、卑怯者め…………」



「動揺したな? 未熟者めが」



 自分たち以外の人質の存在に、三人の思考が反れた一瞬の隙を突いて、拘束魔法による捕縛が完了する。

 あっ、と認識した瞬間には、体は魔法による鎖でぐるぐる巻きだ。



「――――ッ! しまったッ!」



「糞っ! 現れた時からアタシらは詰んでた訳ね……」



 険しい顔をするユリシーヌとセーラとは反対に、アメリは冷静な顔でディジーグリーに問いかけた。

 逃走も抵抗も出来ないのであれば、今はどんな情報でもいい、収集するのみだ。



「…………何が目的なんですか」



「ふむ、何が、とは?」



 自分が優位に立っている事に気を良くしたのか、ディジーグリーがその問いかけに応じる。

 ユリシーヌとセーラは、アメリの意図を察して脱出の検討をしながら推移を見守った。



「とぼけないでください。わたし達三人や学園長を生かして。学院内の敷地という、カミラ様から距離の近い所で軟禁している事です」



「くっくっく……凡庸な猿とはいえあの忌まわしき魔女の片腕か、頭は回る様だ…………」



 ディジーグリーの蔑みに、感情の波など欠片たりとも顔に出さず、アメリは続ける。



「ええ、わたしこそが。カラミティス様の、カミラ様の右腕。――――だからせめて、冥途の土産として教えてくれませんか?」



「ふん。死に逝くものとして分は弁えている様だな、良かろう。――――そんなに生きている事が疑問か?」



「疑問ですね。答えてくださいよ」



 ディジーグリーとて、油断慢心の塊では無い。

 だが、恨み辛みは残してきた二人にあるが故に、それを晴らすために自ら死を与える者には、多少の情けはある。



「大方、情報を集めつつ。奴らが来るのを待っているのだろうが、――――まぁ良い。付き合ってやろう」



「…………」



 目論見が露見された事にアメリが黙ると、ディジーグリーは愉しそうに嘲笑して答える。



「クククっ、しれた事。――――“報復”だ」



「報復?」



「ああ、復讐と言い換えてもいい! 我らが奪われた怒り! 悲しみ! それら総てをあの偽物どもに味わって貰う為だ。…………そして、安心するがいい。絶望した奴らに引導を渡すのは、――――お前だ」



「はっ! 何を馬鹿な事言ってんの! アメリがそんな事をするなんて――――」



「――――真逆、またアメリを!?」



 洗脳、という答えに行き着いたユリシーヌと、それにはっ、としたセーラにディジーグリーは、首を横に振って答える。



「期待には悪いが。私はあの魔女相手に、同じ手を二度も使う気は無い。何、直ぐに解る。――――魔女の不運な僕よ。貴様は自らのの意志で友を、主を殺すのだからなぁ! クハハハハハハハハハっ!」



「な、何をするつもりですかっ!?」



「糞ッ! アメリから離れろディジーグリー!」



「ちぃっ! こうなったらアタシの力で――――って、聖女の力が出ない!?」



「残念だったな混じりし聖女よ。どうせあの魔女が密かにお前の力を封じているのだろうよ」



「ああっ! そうだった! そういや罰として許可が出ないと使えないって――――」



「セーラのお馬鹿ぁ! そ、そうだユリシーヌ様、聖剣は!?」



「駄目です! さっきから呼んでますが来ません! ――――この結界さえ無ければッ!」



「ハハハっ! 思う存分狼狽えて、恐怖に戦慄くがいいっ! 貴様等の事など全てお見通しよっ!」



 ディジーグリーは高笑いしながら悠然とアメリに近づき、スカートのポケットをまさぐり“銀時計”を取り出す。



「それはさっきの――――っ!?」



「女の子のスカート触るなんて、この変態魔族!」



「如何様にも囀るといい“出来損ないの聖女”よ。負け惜しみにしか聞こえんぞ」



「その時計が何か知っているのですかアメリッ!?」



 顔を引きつらせるアメリの代わりに、ディジーグリーが答える。



「これは我が一族に伝わる宝物にして、魔族の秘宝の一つよ。――――無論、それだけでは無い。これは“時”を止める事が出来るのだ」



「――――タイムマシン!? あの馬鹿女が出し抜かれる訳ね!?」



「タイムマ――ッ!? 知っているのセーラ!?」



「ククっ、傑作だな。恋人の事なのに知らないのか勇者モドキよ。――――あの魔女は“時”を止められるのだぞ」



 正確に言えば、違う。

 カミラ・セレンディアの能力は、もっと格上のモノ。

 セーラだけは、その間違いに気づいたが口には出さなかった。

 もしかしたら、何か反抗の糸口になるかも、と考えたからだ。



「んで、それがどうしたのよ。それをアンタが使ったても、アメリがカミラ達を倒す事なんで出来ないわ」



 セーラのディジーグリーの問いかけに、ユリシーヌは思わず考え込む。



(あの時のカミラの復活と戦いの様子は、コイツの言うとおり“時”に関係する“力”なのかもしれない…………だが)



 それ以外に、もっと悪辣な機能が付いていると百合シーヌは確信した。



「気をつけてアメリッ! “時を止める”以外に何かある――――!?」



 だが、注意を促した所で、身動き取れない者に。

 ましてや、戦う者ではないアメリに出来る事など無い。

 悔しそうに顔を歪めるアメリに向かって、ディジーグリーはねっとりした、狂気が籠もった熱情で語る。



「もう一つ機能がある事が解っても、もう遅い。第一こちらには人質がいつのだ。同胞想いの貴様等に何が出来る」



「ああもうっ! とっとと来なさいよカミラっ!」



 セーラの叫びに、アメリは顔色を青くする。

 カミラは聖剣で切られた上、傀儡兵をけしかけられているのだ。

 命は無事だと信じているが、不安は拭えない。



(ああ、カミラ様。カミラ様――――)



 ディジーグリーは、そんなアメリの様子を恐怖と勘違いして、意地悪く優しい口調になる。



「ああ、心配せずともよい。これを使ってお前が負の感情思い出させ、固定し。やがて体さえも、その心に相応しい醜い怪物になる。――――良心なの欠片も残らぬから安心するといい」



 言い終えると、ディジーグリーはアメリの胸元に懐中時計を押しつけ。

 その途端、アメリを拘束していた魔法の鎖が黒く染まり、ずぶずぶとその柔肌に食い込んでいった。



「そんなっ!? …………あ、ぐぅ、ぁ。わたしの中に何かが入って――――」



「アメリッ!」



「逃げてアメリっ!?」



 二人の呼びかける声も聞こえず、アメリは自分の体に染み渡る、どす黒い“何か”に怯えた。



(助けて…………助けてカミラ様! 嫌、嫌ぁっ! 憎みたくないっ! 恨みたくないっ! わたしは、わたしは――――)



 必死に抵抗するアメリの心に、闇が這い寄る。



 ――――カミラの心を奪ったユリウスを許すな。



 ――――カミラの敵であるセーラを許すな。



 ――――恨め、憎め、恋心すら許されぬ現実を。



「やめてぇっ! わたしは何も、何も――――!」



 アメリの心に、微かな悪感情が芽生えると同じく、体がその末端から黒く変色していく。



(ああ、ああ、ああ、ああ! 傷つける? カミラ様の大事な人を? そんなの、そんなの――――)





「ふざけんなああああああああああああああ、この脳タリンんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんん!」





「へ?」

「は?」

「むむっ!?」



 ガバっと立ち上がり怒りの咆哮を上げるアメリに、誰もが目を丸くした。



「ええい、とっとと化け物になれ――――っ!? 私に刃向かうか雑魚がっ!? 人質がどうなっても――――」



「知るかそんなのっ! カミラ様の大切な人を傷つけるくらいならっ! カミラ様を悲しませるくらいなら、人質ごとお前を殺すうううううううううううううううううう!」



「ようしっ! 良く言ったアメリ! そんな男やっつけちゃえ!」



「煽らないでセーラ! せめて学院長から離れて戦うんだアメリ!」



 ユリシーヌとセーラの声を受けて、アメリは倒れている学院長を背に、肥大化してしまった腕を、鋭くとがった鉤爪を振るう。



「このっ! このおっ! 当たれ、当たれぇっ!」



「――くっ、厄介な。だが、貴様が完全に闇に染まるのは時間の問題だ、時間を稼がせて貰うっ!」



 右へ左へ、アメリの攻撃を交わすディジーグリーに、決定打を与えられない事を理解したアメリは、ユリシーヌへと叫ぶ。

 ――――“アレ”がもう一度再現出来るなら、こちらの勝利は確定したも同然である。



「呼んでユリウス様っ! カミラ様を呼んでくださいっ! わたし達があの時、飛べたのなら! カミラ様も来れる筈ですっ!」



「――――何か解らないがさせぬぞっ!」



「ユリシーヌ様の邪魔はさせないっ! ――――ガァああああ!」



 ディジーグリーがユリシーヌに向かうのを邪魔するべく、アメリはその体に突進をかけるが、腕の一振りで弾かれてしまう。

 だが――――その一瞬さえあれば十分だ。



「来いッ! カミラあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」



 ユリウスの祈りと呼びかけに応え、“絶対命令権”の鎖が胸から出現し、目映く発光しながら虚空へ延びる。

 そして――――。





「――――待たせたな、アメリ、ユリシーヌ」



「助けに来たぞ! セーラよ!」




 瞬間、結界が薄いガラスを割るようにパリンとあっけなく破壊され。

 その余波で東屋の屋根に大きな穴を開けながら。

 カミラ――――カラミティスとガルドが登場した。



次回の更新は8/30(水曜)です。


ちょっとした体調不良で、前回の更新が出来なくて申し訳ない。

それはそれとして。

割烹に書いた通り、ご報告のあった誤字脱字類は修正が完了しました。

誠にありがとうございます。

これからもどうぞ、カミラ様をお楽しみくださいませ!


予定では後四、五話程で今章は終わりで、次の展開に向かいますよ!

次章は、もっといちゃらぶさせる予定です。


ではでは。

次話でお会いしましょう。

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