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92話 愛と感謝の進化



 ――――魔法の話をしよう。



 あるいは超能力でもいい。

 二つは基本的に、心体のエネルギーを超法則の現象に変換して発動される。



 体、を通してだ。



 地面を作り替える時も。

 燃えさかる火の嵐も、吹きすさぶ風を呼ぶ時も。

 その始めは先ず肉体から発せられる。

 無論、カミラとてその法則の支配下だ。

 


 では、その魔法や超能力を無力化するミスリルという金属とは?



 答えは簡単だ。

 大元の心体エネルギーを無力化する性質を持つ合金だ。



 故に、そのミスリルで作られた傀儡兵は無敵。



 だがここに――――例外が一つ。



(それが、侵・雷神掌)



 触れた対象物を雷で、問答無用で破壊する一撃。

 だが――――それはフェイク。



 名前と外見から付けられた、ミスリード。



 では。

 では?



 侵・雷神掌とは何か。



 それは――――、天文学的な確率の奇跡を人為的に起こす、絶対幸運。



 対象の性質や構造、それら総てを解析し“破壊”の条件を突き止め。

 ほんの一瞬だけ、その破壊条件を満たす“環境”を作り上げる。



 超能力を越えた――――正に必殺。



 その理不尽が今、傀儡兵達に襲いかかろうとしていた――――。



(“超能力者”でいられる時間は後二十秒! 至近距離でなければ駄目なのが難点だが――――)




「――――今の私なら、不可能では無いっ!」




 サロンの中に出現した傀儡兵の数は十体、その内の一体は破壊済み。

 ガルドを拘束している一体を戦力外とすると、残りは八体。

 そしてそれらは総て、円形に配置されている。



(ご丁寧に、一筆書きで倒せと言っているようなものねっ!)



「――――少し待ってろよガルドっ!」



 カラミティスは言い終わるより早く、超能力による加速。



(侵・雷神掌の応用だっ! 私の重力、空気抵抗をゼロに、前方に斥力を発生させて、筋力も底上げする――――!)



 辛うじて反応した近くの三体、その内の真ん中の一体に侵・雷神掌を発動。



 傀儡兵のミスリル装甲、その周囲コンマ一ミリがミスリスのみを腐食する空気に変貌。



 一番薄い装甲の箇所に明いた穴から、自己崩壊を起こす電気信号が、傀儡兵の電脳に直接叩き込まれ――――爆散。



(――――残り七体っ!)



 カラミティスはAIが事態を把握し、ビームライフルの引き金を引くより早く、次の、そして更に次ぎの三体目まで一気に破壊する。



(楽勝なのはここまでかっ!)



 三体目を破壊するまでに所要した時間は、僅か一秒。

 だが残りの五体は仲間の突然の爆散にも動じず、一斉にビームライフルの標準をカラミティスに合わせて発砲。



(――――ちぃっ!? どうする!? 迷ってる暇なんて)



 ここは一も二もなく、避けるのが定石だ。

 だが――――。



 カラミティスは加速した思考の中、光の早さで延びるビームを“目視”してから、その手を延ばす。



「避けたりしないっ――――!」



 侵・雷神掌なら。

 奇跡を人為的に起こすこの“力”なら――――。



「――――信じてた」



 一瞬の閃光の後、カラミティスの姿は健在だった。

 侵・雷神掌で前方にビーム粒子を拡散させる空気の壁を作り出したのだ。



(いけるっ! これならいける――――っ!)



「ふはははははははははっ! 私は負けないっ! 例え未来が不透明でも、何があっても負けやしないっ!」



 近づきながらビームを乱射する傀儡兵に、カラミティスもまた悠然と歩き近づく中、その心は一つ。

 即ち――――アメリへの“感謝”と“愛”



(嗚呼、嗚呼、嗚呼…………アメリ! 貴女の忠誠と献身に感謝を)



 残り十秒、また一体倒して残り四体。



(貴女という存在がいなければ、私は今頃、本当に“魔王”として君臨し、また同じ“過ち”を繰り返していたかもしれない)



 残り八秒、残り三体。



(貴女のその“明るさ”が。“忠義”が、私を人たらしめた。“執着”のみでなく“愛”を持つ人間に…………)



 残り五秒、残りニ体。



(私が“正しく”前に進めたのは、貴女のお陰よアメリ――――。)



「――――そして、新たなる“力”も」



 カラミティスは今この瞬間も、進化している。

 これまでの七体でコツを掴み、その射程距離を少し延ばし――――、残りニ体が爆散。



 残り三秒、残敵はガルドを拘束する傀儡兵一体のみだ。



(貴女の“愛”とは違うけれど、“愛”してるわアメリ――――)



 もはや今のカミラならば、相手との距離は関係無い。

 右手を銃の形にして、最後の傀儡兵に人差し指を向け。



「――――バン」



 瞬間、最後の傀儡兵はバラバラに解体され――――残敵ゼロ。

 カラミティスは勝利の余韻に浸りつつ、解放され、座り込むガルドへと向かう。

 グズグズしている余裕は無い。



「立てるかガルド?」



「ああ、問題ない――――じゃないっ! そなた! 自分が何をしたか解っているのか!?」



 立ち上がるなり、唾を飛ばす勢いでカラミティスの肩を掴んむガルド。

 ガクガク揺らすのが、実に鬱陶しい。



「おい。セーラ達が浚われたから焦るのは解るが、もうちょっと落ち着いてくれ」



「はぁ!? 落ち着けだと!? セーラが浚われ――それはいいとし、いやよくないが! それよりカミラ。そなたの事だ! そなたいったい何をした!?」



 端正な顔で鼻息荒く詰め寄るガルドに、当のカラミティスは理由が解らない。



「何をした? 敵を倒しただけだぞ? 何かおかしな事があったか?」



「ええい、自覚無しか!? あの雷を纏った掌底はなんだ!? その前の超回復もそうだ! そなたは回復魔法の素質すらなかったであろう!?」



 まくし立てるガルドに、カラミティスはポンと手を叩きさっくり答える。



「強いて言うならば――――」



「言うならば!?」





「――――“愛”と“感謝”かな」





「それで出来たら魔法使いも超能力者も苦労してないっ!」



「ふふふっ、私は天才だからな! まぁ、回復については大方の検討はついているのだろう? 詳しい話は後でしてやるから。今はアメリ達の所に急ごう」



 実際の所は、この世界で誰よりも長い経験と。

 星すら破壊しかねない執念の賜物だが、おくびにすら出さずに、カラミティスはガルドの手を握る。



「急ぐとは言っても、当てがあるのか?」



 不承不承半分、焦り半分で頷くガルドに、カラミティスは自らの胸板を軽く叩いて笑う。



「どんな場所にいようと、どんな結界が張ってあろうと。直ぐに移動できる手段が私には有ることを、お前は知っているだろう?」



「は? 何を言って――――っ!? 真逆“アレ”を使うのかカラミティス!?」



 カミラの言う“手段”に気づいたガルドは、がっしりとカラミティスの手を握り、その時に備える。



「――――嗚呼、聞こえる。ユリシーヌとアメリが私を呼ぶ声が、聞こえる」



 どこか遠くを見つめるカラミティスの胸から、魔法の鎖と共に、光が溢れる。



「そうか、呼ばれたのだな。少なくとも二人は生きているのだな!」



 続いて、ガルドも入る位の大きさの魔法陣が展開され――――。



「嗚呼、セーラも無事だ。――――さぁ、飛ぶぞガルド!」



「おうともっ!」



 そして、カラミティスとガルドは“光”となって飛んで行った。



次回の更新は8/25(金曜)です。


今後もお楽しみくださいませ!

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