91話 新たなるパゥワー
その瞬間を、カミラが、カラミティスだけが認識する事が出来た。
(――――しまったっ! “アレ”を使えば私以外でも時間を操れる!?)
カミラも含めて、光ですら静止する中、“銀の懐中時計”を握りしめたアメリ――ディジーグリーは、急ぎセーラに近づいてその身を担ぐ。
(くぅっ! 動け! 動いて私の体っ!)
カラミティスはひたすらに焦るが、指一本動かない。
(聖剣を向けられているから? いいえ、それだけじゃない。――――タキオンが使えない!?)
タキオン、それは時間を操る為に、静止した時間の中で動くのに必要な粒子だ。
生まれついての時間移動能力者であるカミラには、銀時計などなくても操る事が出来るが――――。
(一歩で遅れたっ! 周囲のタキオンが根こそぎ奪われているっ!)
故にカラミティスもまた、為す術無しにディジーグリーの行動を見る事しか出来ない。
(セーラを浚って…………ちぃっ! ユリウスまでっ!? いったい何のつもりなの!?)
銀時計――携帯型タイムマシンを発動させられても、ディジーグリーが“時間移動能力者”ではない。
だから。
(物理的行動以外は、魔法が使えないのは不幸中の幸いね…………さあ、女の子の腕力で二人も運べるかしら?)
カラミティスの心に虚勢が満ちる中、ディジーグリーは、聖剣をユリシーヌの手の上から握る。
(――――っ!? 真逆!?)
カミラの心臓や首に突き刺そうとするも、何かに反らされ聖剣は刺さらない。
「ちっ、何が原因か解らぬが。今この場ではコイツの命までは奪えぬか…………」
二度、三度。その事実を確かめる様に、ディジーグリーは繰り返す。
(ええ、そうでしょう。――ユリウスという存在は、私を殺せない、殺すことが出来ない)
もしユリウスが一欠片でも、カミラに殺意を抱いていたら、その試みは成功していただろう。
でも、――――そうではない、そうではなかった。
(――――私を好きでいてくれて、愛してくれてありがとうユリウス)
カミラは、ディジーグリーの次の行動を覚悟した。
「命が奪えぬなら、せめて足止めはさせて貰う! 動けぬまま、絶望をとくと味わうがいい!」
そして聖剣は、――――カミラの右肩に突き刺さった。
(がああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!)
表情すら動かせないカラミティスが、心の中で痛みに叫ぶ。
ディジーグリーはそれをニタニタと笑うと、アメリの護身用として持たせていたパワードスーツ。
そのコントローラーを操作した。
「手の内を晒しすぎたな愚かな人間よ! さあ、自分の作りしガラクタで、滅びるがよいっ!」
(ぐあっ! ――っ、ち、くしょう。ふふっ、流石ゲームの黒幕、抜け目、ない…………)
ディジーグリーは無人のパワードスーツ――傀儡兵を、カミラ達の周囲へ配置する指示を終えると。
ユリシーヌとセーラを抱えて、サロンから出て行った。
――――そして、時は動き出す。
「…………? は? ぬおぁああああああ! カ、カミラアアアアアアア! ユリウス! 貴様――――っていない!? それにセーラ!? アメリは何処に行ったのだ!? 何故パワードスーツがこんなに!? 何がどうなっておるのだっ!?」
「――――っ! ぁ、う…………五月蠅いガルド! 傷に響くっ!」
慌てふためくガルドに、カラミティスは一喝。
いまは慌てている場合ではない。
「カラミティス! こやつら迫ってきてるぞ! 迎撃していいのか!」
「駄目だ! 下手に反撃するとビームで殺されるぞ! 今、停止コマンドを送るから――――っ! 糞っ! 受け付けない!?」
カラミティスは、身につけていたネックレス型のコントローラーを操作するが。
そも、最初の起動認証で弾かれる。
「そなたが作ったモノだろう!? うおおお!? 掴むでな――力強っ!? 流石当時の最新型は凄いな! 最高であるっ!」
「堪能してるんじゃない馬鹿ガルドっ! 反撃するなと言ったが、せめて逃げろよ! あっさり捕まってんじゃないっ! ええいセーラめっ! 男になった事で遺伝情報に齟齬が――――っ!」
カラミティスは、停止命令を送るのを諦め。
役に立たないガルドを当てにするのも止めて、側に転がっている聖剣を掴む。
直ぐそこに、傀儡兵の魔の手が迫っていた。
(AIは今、強制捕縛モード。大人しくしていればこちらに害は無い――――)
だがそれでは、浚われた二人に。
何よりアメリがどうなっているか解らない。
(聖剣に傷つけられた痕は、魔王でいる限り今すぐ直らない。そもそもパワードスーツの装甲は魔法が効かない特製使用――――)
出血の酷い傷、使えない魔法。
たった一人の味方は捕らわれ、手元には機械には役に立たぬ聖剣のみ。
「ふふふっ、ふふふふふ――――」
危機。
圧倒的な危機である。
「ふふふふふ、ふははははははははははっ! 誉めよう! 誉めてくれよう! この私に最終手段を使わせるとはなっ!」
カラミティスは痛む傷に、ニヤリと笑い立ち上がる。
「おおっ! 何か手があるのだなっ!」
傀儡兵が、カラミティスに手を延ばす。
「ああっ! 私は少しの間! “魔王”を止めるぞガルドっ!」
「了解したっ! ……って、それが何になるのだカミラっ!? っていうかそなたも捕まって――――」
傷口である肩をがっちり掴まれながら、カミラは宣言する――――。
『管理権限者■■■■の名の下に告げる、カミラ・セレンディアの“魔王”を三十秒間停止』
瞬間、カラミティスは只の人間に戻る。
“魔法”の使えない古き“新人類”へと戻る。
(大事なのはイメージ。私なら出来る――――)
魔法は元より超能力だ。
一つの事しか出来ない力に、汎用性と指向性を与えたモノ。
ならば、ならば。
超能力のまま、魔法と同じ事が出来る筈である――――。
「舐めるなよおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
カラミティスの咆哮と共に、全身が淡く輝く。
超能力発動の前兆だ。
(体のエネルギーを体外に放出し、世界へ干渉するのではなく、内側に隅々まで。)
そして“魔法”と同じように想像力を以て、その力に指向性を持たせる。
「こんな所で、負ける訳にはいかないんだよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
そして今ここに――――、複数の力が振るえる“例外”が。
最強の超能力者が、誕生した。
駆けめぐるエネルギーは、細胞をの新陳代謝を活性化させ。
聖剣によって出来た傷を、まるで逆回しするように塞いでいく。
「嗚呼、嗚呼…………、これが“治癒”の超能力というモノか…………」
「――――馬鹿、な。これが人の、カミラという存在の可能性だと言うのか?」
知らぬモノから見れば、ありきたりな覚醒シーンだったかもしれない。
だが、だが――――。
「ありえない。そんな理論で他の力が使えるのなら、我らの先祖はもっと容易く負けて、絶滅すらしている筈だ。例え理論があっていたとしても、出来るはずがない――――」
ガラスの器を、床に叩きつければ割れる。
だが、叩きつける腕力があるからといって、割れたガラスを復元できよう筈がない。
――――それと同じ事を、カミラはやってのけたのだ。
「そなたはいったい…………?」
唖然とするガルドの目の前で、カミラが自らを拘束する傀儡兵をポンと叩き――――。
「秘技――――侵・雷神掌」
次の瞬間、ボンと音を立てて傀儡兵の“中”から煙が。
そして関節という関節が、火花を散らしながら分解して爆散。
「物言わぬ哀れな操り人形よ、せめてもの手向けに、造りし者の手で逝かせてやろう――――」
そこには、両腕に稲妻を纏い。
黄金瞳を爛々と輝かせる、危険な男の姿があった。
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