89話 未来型SFヒロイン・カミラ様……ただし今は男である
今ここに、一部のタグに誤りがあった事をお詫び致します!
……ってまぁ気づいてましたよね?
「余の存在、そして行動を説明するには魔族の歴史から遡る必要がある、良いか?」
「はっ、陛下のご意志のままに」
「…………まったく。何時まで、陛下と呼んでくれるのかな?」
「陛下、今何と…………?」
アメリの姿で畏まるディジーグリーに、ガルドは自嘲しながら続けた。
「まず、魔族の歴史をどういう風に認識している? 誰でもいいから言って欲しい」
「有史以来、人類種の天敵としてその存在を知られています。…………少なくとも、王国では」
ユリシーヌの答えに、ディジーグリーは噛みついた。
「何が人類種の天敵だ! お前達薄汚い人間共が、我々魔族を迫害したのが、そもそもの原因だろうが
! 忘れぬぞ四百年の恨みをっ!」
「あー、そういう設定だったわね」
「設定と言ってやるな、お前をブーメラン返ってくるぞ」
「え、マジ!? 聞いてないよアタシ! どんだけ闇が深いのさこの世界!?」
「…………お二人とも五月蠅いです。ガルド達の話を邪魔しない様に」
マイペースなカラミティスとセーラに、コホンと咳払いしながらガルドは話を元に戻す。
「うむ、外野は放っておいてだな…………、ここでディジーグリーとユリシーヌの言葉に“間違い”があるのだ。残念な事にな」
「間違い、ですか?」
「どういう事ですか陛下!? 私の認識の何処が…………!?」
戸惑う二人に、ガルドは悔しげな表情を向けて口を開いた。
「訂正する所は三つ。先ず魔族は“迫害”などされていない事、そして四百年の恨み。――――そして、人類種の天敵」
「はっはっは、陛下はご冗談が上手い…………」
「いきなりそんな事を言われて、信じられないのも通りだ。だが真実なのだよ」
悲しそうな顔をするガルドに、ディジーグリーとユリシーヌは思わず顔を見合わせる。
「…………ではガルド。一つ一つ、どの様に違うのか教えて頂けませんか?」
「うむ、そうだな…………先ずは共通認識から確認していこう。――――“世界樹”は知っているなディジーグリー」
「お伽噺で出てくる世界創世の大樹ですな。しかしそれが何故――――」
「――――以前ガルドもカミラも“それ”が存在する、と言っていました。今回も関係してくるのでしょうか?」
「何と! 流石陛下! 世界創世の存在の実在ですら、掴んでいたとは!」
「世界創世などと言う、神秘的なモノではないのだがな…………まぁ兎も角、余は、そして歴代の魔王はその“世界樹”の記憶を読みとる事が出来た…………幸か不幸か判らぬが」
ガルドは苛立ち半分に苦笑しつつ、魔法で立体映像を出した。
そこに写っていたのは――――。
「何これ? SF戦争映画?」
「残念ながら“隠された”世界の真実、その一つという所だな」
「…………貴男はいったい何処まで関わっているのですかカラミティス」
人間三人の傍観者的な感想を余所に、突然こんなものを見せられたディジーグリーは、ただ戸惑うばかりだ。
「な、なんだコレは…………、人間が魔法を使わずに飛んでいる? いや、呪文や詠唱無しに魔法を使っているのか?」
その映像には、まさしくSF戦争映画とでも呼ぶべきモノだった。
ツルリとした光沢の、揃いの服を着た人間が空を飛んだり音速を越えて走ったり、雷撃を飛ばし、地面を割り、水や火を打ち出しながら憎しみの顔を前方に向けている。
「こっちは以前見ましたね…………カミラとアメリが使っている大鎧に似ていますが…………」
その人間に対するのは、以前カミラが実家の秘密基地から持ち出したパワードスーツに酷似していた。
「うむ、ユリシーヌの見解は正しいな。そしてだ。これを着ている者達が、――――我らの先祖だ」
「先祖? この光景が以前あったモノだとでも? いいえそれにしたって、どう見ても文明というモノが…………」
ユリシーヌは、彼らが戦っている場所に注目していた。
戦いの余波で崩壊が著しいが、そこは市街地――――それも、高度な建築技術が使われた、である。
「あー、カミラ様はこれを参考にセレンディア領内を整えたんですねぇ…………」
「うむ? ディジーグリー今何か言ったか?」
「い、いいえ陛下………(くっ、何だコイツ、支配出来ている筈なのに…………)」
誤魔化すディジーグリーの様子に、せーらはカラミティスに小声で問う。
「(ね、アンタが余裕なのってさ、そういう事?)」
「(ご想像にお任せする、が、所謂そういう事だな)」
「(アンタ本当に意地が悪いわねぇ…………)」
ひそひそ話をする二人を余所に、ガルドの言葉は続く。
「なぁディジーグリーよ。そなたはこの光景を否定できるか?」
「い、いいえ陛下…………。どうなっているのですか、私の奥底で何かが沸き立つのです、囁くのです、この光景を否定するな、と」
戸惑いの表情のまま涙を流し、映像を食い入る様に見つめるディジーグリーに、ガルドは諭すように言う。
「それを覚えておくのだディジーグリーよ。それこそが我ら魔族の“悲願”であり“怒り”なのだ…………」
「“悲願”そして“怒り”…………」
噛みしめる様に繰り返すディジーグリーに、そしてカラミティス以外の人間に、ガルドは更なる真実を突きつける。
「信じられぬだろうが、この光景こそ約二百年前の、――――西暦二一四〇年代のモノだ」
そう、西暦。
勇者や魔王、魔法が存在する中世ファンタジー世界で“西暦”なのだ。
「――――ッ!? 今は西暦二三四五年! つまり魔族のいう“四百年”は…………」
「つまり“魔族”の歴史は“嘘”だと言うのですか陛下!?」
ディジーグリーの悲鳴に、ガルドは立体映像を見たまま頷いた。
「ああ、詳しい事は省くが。この戦争で我らは負け、多くの命が奪われた。…………だがそこはまだいい」
「まだ? この先があるのですか陛下!?」
「そなたも本能で解るであろう……、この先にこそ、我らの真実があると」
「はい、陛下…………」
アメリの体で悔しそうにするディジーグリーに、ガルドは告げ続ける。
「生き残った我らの祖先は、辺境の地で静かに暮らしていた……“世界樹”が稼働する僅かな間だけ」
「“世界樹”が稼働!? 真逆、あれは創世の神ではなく、人工的なモノだと!?」
「うむ、聡いなユリウスは。……ああ、正しくその通り。“世界樹”が誰が何の目的で作ったかは正確には知らぬがな」
ガルドは言葉を切り、そこでカラミティスを一瞥する。
だが、傍観者の態度を崩さない態度を見ると、そのまま言葉を紡ぎ続けた。
「ともあれ。“世界樹”は勝者の為に、我らの先祖を必要悪として“設定”した」
「――――“魔族”の始まり」
ユリシーヌの言葉に、カミラ以外の全員が重い沈黙に包まれた。
「ねぇ……ねぇカミラ。アタシは、アタシ達は何処に転生したの?」
やがてポツリとセーラが問いかけた。
その震える声に、カミラも静かに答える。
「私達の“記憶”で言う――――“未来”だ」
「…………そう、だからアンタは。そしてアタシの記憶は」
セーラはそう言うと、顔を手で覆い項垂れた。
ユリシーヌはその会話に、立ちは入れない何かを感じつつ、これまでの結論を纏める。
「つまり、我々人間と魔族の歴史は“世界樹”によっって“捏造”されたモノである、という事ですか」
「ああ、その通りだ」
「…………陛下。貴男が伝えたい事は解りました。そこの卑しい魔女めが陛下を殺したのも。“世界樹”の、神の支配に逆らうために致し方なかった事、そういう事ですね」
「うむ、解ってくれた――――」
「――――いいえ、解りませぬ陛下」
理解を得られた、とガルドが喜ぶ前に、ディジーグリーが遮る。
「陛下が何を成そうとしているか、このディジーグリー、浅学の身でありながら理解したつもりです。…………だが、しかしっ! まだ、まだ答えて貰っておりませぬ! 何故、何故陛下はそのお力を喪っているのですか! 何故、私達と共に居られないのですかっ!」
サロン内に響きわたった悲痛な叫びに、ガルドは深呼吸を一度。
そして瞼を閉じると、ゆっくりと上げてディジーグリーを見た。
「残念なことを伝えなければならぬ。――――余はもう“魔族”ではない」
「そればかりでは無い。――――魔王ドゥーガルドでもないのだ」
「そなたも薄々解っているのであろう? ――――この身が人間である事を」
その吐き出された言葉に、ディジーグリーは硬直し、震える声で問いかける。
「では、では……何故、そのお姿をしているのですか?」
「余はな。“魔王”ドゥーガルドの外見と、歴代魔王の記憶情報を持つ、魔王達に作られた謂わば――――“兵器”。神を倒す為の魔造勇者なのだ」
「はは…………はは……、嘘だ、嘘だ。そんなそんな魔王様が…………」
信じられないと、アメリの目を虚ろにするディジーグリーに、ガルドは駄目押しの一言を言い放つ。
「“魔王”ドゥーガルドは確かに死んだのだ。そして余もカミラも、魔王としてそなたら“魔族”を導く意志は無い」
「嘘だああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
瞬間、バリンと音を立てて、カミラによる魔法的拘束が破られた。
次の更新は8/19(土)20:00頃です。
実は異世界転生ではなく、SFな世界観でした。
カミラ様達が生きているのは地球の未来の世界です。
まぁ、転生してる事は変わりないのですが。
では、次の更新で。




