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88話 ディジーグリー




「くっくっくっくっく…………何と最早、最初からバレていたとは…………、憎たらしい程お人が悪い」



「そうか?、お前達魔族達程では無いぞ」



 アメリから発せられた男性の声にも動じず、カラミティスはニヤリと笑った。



「笑顔とは本来、威嚇の意味があるそうですな。知っておりましたか生徒カミラ……いや、カラミティス魔王閣下とでもお呼び致しますか?」



「それは魔王に対する口調では無いな、ディジーグリー。今まで見逃してやったが、さて、どんな申し開きをしてくれるのだ?」



 頬杖をついて寛いだ格好でありながらも、カミラのその口調や態度に一部の隙も無い。

 勿論の事、アメリに対する拘束は続いたままだ。



「――――いや! いやいやっ! その前にここの学園長が魔族だとっ!? 余は初耳なんだが!?」



「あれ? ガルド、アンタ知らなかったの?」



「私としては、カラミティスとセーラが知っていた事が驚きなんですが…………って、カミラが“魔王”どうこうは一応耳にしてましたけどッ! 私も知りませんよッ!? ――――というかどうしてそんな人物を野放しにしているのですカミラッ!? せめて教えておいてくださいッ!」



「生徒ユリシーヌは次期勇者候補だろっ!? そしてドゥーガルド様も! 貴男様は我らの王! …………気づいてくださいよ」



 席から立ち上がり、カラミティスの頭をぽかぽか殴るユリシーヌに、首を傾げるガルド。

 種族としての敵対者と、主に気づいて貰えなかった事実に、アメリの中の人、ディジーグリーはあからさまにに肩を、ずーんと落としてじめじめと暗い雰囲気。



「……ほう。流石、私のユリシーヌ。そして我が舎弟ガルド。敵の戦意を言葉だけで挫くとは、天晴れだな!」



「ガルドがいつアンタの舎弟になったっつーのよ! 訳の分からない関係を押しつけるのは、女装元男と乳お化けだけにしろっ!」



「――――誰が乳お化けですかっ!」



「…………あれ? カラミティス。アンタ何か変なこといった?」



「ふふっ……さて、な」



 突然のツッコミで首を傾げるセーラ。

 カラミティスはぽかぽか可愛く殴るユリシーヌを、膝の上に無理矢理乗せながら、意味深な視線でディジーグリーに操られているアメリを眺める。



「もうッ! どこを見ているんですかカラミティス! だいたい貴男はいつもいつも…………」



「機嫌を直してくれユリシーヌ、この騒動が一段落したらその辺を全て話すから…………」



 速攻で恋人空間を展開したTSバカップルに、セーラが呆れ混じりに溜息。



「というかアタシ的には、アンタがユリシーヌに話してないのが吃驚よ…………まぁどうせ、色ボケしてて話すの忘れてたんでしょうけど」



「――――何故解ったっ! エスパーか貴女は!」



「そりゃもうなんたって“聖女”サマですから!」



「お前までボケてどうするのだセーラ!? 余一人でツッコミをいれなければならないのかっ!?」



「でぇえええええい! 敵を目の前で暢気に漫才しないでくれ! というかドゥーガルド様まで参加しないで頂きたい!」



 魔法の鎖をじゃらじゃら鳴らしながら、洗脳アメリは身悶えた。



「お前も大変だなぁ……」



「何、他人事みたいに言ってるんですかカラミティス! さっきの怒りは何処へ行ったのですッ!?」



「心配しなくても怒っているさ、でも、こうも術策に嵌まってくれるとな…………くくくっ」



 カラミティスの言葉に、ディジーグリーが敏感に反応する。



「くっ! 術策とは何だ忌まわしき人間の魔女めっ! そもそも何だ? 知ってて見逃していただと!? どういう事だ!?」



「それは余も知りたいぞ!」



「取りあえず“そこ”だけでも、説明してあげなさいよ馬鹿女」



「…………カラミティス」



 ディジーグリーを含めた全員からの視線を受け、カラミティスは冷たく言い放った。





「――――どうでもいいからだ」





「どう…………でも?」



「…………カミラ。その言葉の意味を教えてくれ」



「素直すぎよアンタ」



「いや……何となく解りますが、もっとオブラートにですね…………」



 呆れ困り顔のユリシーヌとセーラ。

 一方、ガルドとディジーグリーは顔を強ばらせている。

 元カミラは、肩を竦めて理由を述べた。



「貴方達、魔族にとっては喜ばしくない話だがな。――――私は、心底、君たちの事がどうでもいいのだよ」



「――っ! で、では何故お前は魔王となったのだ!? ドゥーガルド様を殺したのだ!?」



 悲痛な叫びが、カラミティス以外の耳に突き刺さる。

 ぎゅっと拳を握りしめながら、何かに耐えている様な険しい顔でガルドは言った。



「…………そうだな。確かに、キチンとそなたの口から聞きたい」



 二人の心からの言葉に、そしてユリシーヌとセーラの無言の視線に、カミラはどこか遠い目をして呟く。



「未来」



「え? カラミティス、今何と――――」



「――――私は、未来が欲しかったんだ」



「未来だと!? お前の未来に! 今に! ドゥーガルド様を殺した事が何の関係がある!?」



 カミラはその言葉に答えず、セーラとガルドを見た。



「なぁ、貴方達なら知っているだろう? 私が“どんな力”を持っているか」



「それは…………」



「……ああ。だいたい想像がついたわ。難儀ねぇアンタ」



 どこか腑に落ちた様な顔をする二人に、ディジーグリーは叫ぶ。



「いったいどういう事です魔王様!? この者がいったい――――」



 ユリシーヌが同じ疑問を抱いた瞬間、カラミティスは遮るように言う。




「本来――――十六歳の誕生日で“死ぬ”筈だったのだ、私は」



「それが刻限だったのだな、カミラ…………」



「成る程、だからアンタはそれまで…………」



「カミラが十六歳の誕生日で死ぬ? でも今は、そして何故それが魔王を殺すことに繋がるのです?」



 ユリウスに淡く微笑んでから、カミラはディジーグリーに顔を向ける。



「私にどんな過去があって、どの様な事情があったとしても、魔王ドゥーガルドを殺した事に間違いは無いし、貴方は納得しないだろう」



「ああ、その通りだ!」



「だが、これだけ言っておこう。――――私は選んだのだよ“ユリウス”を」



「――――私を?」



「ああ、そうだ。私が十六歳の誕生日に“死なない”為には、三つの選択肢があった」



 カラミティスは人差し指を立てた。



「一つ、ユリウスを殺して“勇者”を奪う事」



 今度は中指を立てる。



「二つ、セーラを殺して“聖女”を奪う事」



 そして更に薬指も立てた。



「三つ、ドゥーガルドを殺して“魔王”を奪う事」



「…………成る程。“世界樹”のタイムスケジュールには、そなたの。――――カミラ・セレンディアの“死”が明記されていたか。そしてそれを“騙す”為には、“主要人物”の“役割”を奪うしかない。そういう事だな」



「はぁ……何となく理解出来ちゃう自分が嫌だわ。この世界はゲームじゃないのね、ホント……」



「ド、ドゥーガルド様! 今の話が理解出来るのですか!? まったくもって狂人の戯言では無いですか!?」



 ディジーグリーが疑問と憤りをガルドにぶつける横で、ユリシーヌはカラミティスに静かに問いただした。



「…………他に誰も傷つかなくてもいい方法は、無かったのですか?」



「無かったと言えば嘘になる。――けど、以前言った様に、私は“今”の平和と安寧を尊ぶ。とてもその選択肢は取れなかったのだよ…………」



 自嘲気味に俯くカラミティスの頭を、ユリシーヌはそっと抱きしめた。

 ユリシーヌには、セーラやガルドの様にカミラの事情が理解出来なかったが、それでも、それでも――――。



「――――ありがとうカミラ。例え世界の誰も貴女のした事を否定しても、私は貴女のその“選択”を否定しません。だって、だからこそ今の私達の“幸せ”が、見えている“未来”があるのですから」



 カミラはユリウスを、ぎゅっと抱き返す事で返答した。



「…………貴男が、私の恋人で。心から良かったと思う」



「カラミティス…………」



「ユリシーヌ…………」



 二人の間に穏やかな空気が流れ、そして顔が近づき――――。



「――――でええええええええええええええええええええええええええええええええええいっ! 私を無視するなあああああああああああああああああ!」



 キス、とは成らなかった。

 猛り立つディジーグリーを、ガルドが宥めようとする。



「どうどう、どうどうディジーグリー。その体はアメリのモノなのだから、そんなに叫ぶでない」



「ドゥーガルド様! 貴男様はどちらの味方なのですか!? あの偽物めから魔王を取り戻す為に、復活したのではないのですか!?」



 カラミティスは、激情のままに吐かれた言葉を聞き逃さなかった。



「残念だけど貴方達の魔王は、私を殺す為に舞い戻った訳ではないぞ。まぁ、さっきの話が解らぬ様では、ガルドが接触しなかったのも無理は無いな。…………以前もさぞ苦労しただろう。お察しするよ、こんな無能な小物が魔族の筆頭有力者ではな」



「ぐぎぎぎぎぎいいいいいいっ! こんの男女あああああ! 言わせておけばあああああああああああああああああああああっ!」



「煽るでないカミラ! そして落ち着けディジーグリー! 流石に余も、何故そなたがこうして行動を起こしたか解った。そしてそれを話し合う為にも、な。落ち着いてくれ…………」



 懇願混じりのガルドの言葉に、ディジーグリーは慌てて恐縮し、落ち着きを取り戻す。



「も、申し訳ありません陛下! このディジーグリーの心中をお察し頂けるとは感謝感激の至り!」



「うむ、解ってくれたなら良いぞ…………」



 現金なまでの切り替えの早さに、ガルドは若干引きつつも、言葉を続けた。



「先ずはそなたの存在に気づかなかった事に謝罪を…………“とある”事情で余は今、魔族の力を喪っているのだ…………いや、これは言い訳だな」



「何を仰いますか陛下! 陛下がそう言うなら、きっと深い事情がおありなのでしょう…………」



「深い、深い事情か…………」



 ガルドが言い淀んだ。



「お聞かせください陛下。何故陛下は復活し、何故魔族の力を喪っているのか、お聞かせください…………」



「うむ、そうだな。そなたが受け入れるかどうかは判らぬが、言わなければ始まらないからな」



 そして、ガルドは世界の真実、その一端を明かし始めたのであった。




次回は8/17(木)20:00頃です。


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