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84話 アメリ




 ――――その光景は、脳裏に焼き付いている。




 十年前、王国全土で大飢饉が起こった。

 それは王都に近く、豊かな穀倉地帯を所有するアメリの実家、アキシア領でも同じで。

 領民どころか貴族であるアメリの食事すら日々減っていき、使用人や幼い弟までが貧困に喘ぎ、倒れ伏していた暗黒の一年。



(今じゃ、そんな事が起こったなんて欠片たりとも思い出せないくらい、豊かに成りましたねカミラ様――――)



 誰しもが寝静まる夜半、ふと目を覚ましたアメリはベッドをそっと抜けだし、反対側のベッドに寝ているカミラ――――カラミティスの寝顔を見つめる。



(カミラ様、わたしは。アメリ・アキシアとその一族、領民すべてに至るまで、貴女のご恩は忘れていません……)



 カーテンの隙間から漏れる月光に照らされ、カラミティスの精悍な顔が浮かび上がる。

 アメリは、大切な宝物を、壊れやすい儚いモノを触れる様に、怖々と、そっと手を伸ばし。

 カミラであった時と変わらぬ水色の長い髪を、梳くように撫でる。



(そう、お母様やお父様まで倒れ、もう駄目かと思ったとき…………)



 天から、舞い降りたのだカミラが。

 それは天使というより、魔王という感じだったが。



(ああ、カミラ様。恋に溺れてなお貴女は昔と変わらずお優しい方…………まぁ、この分だと当時からユリウス様の存在を知ってストーカーしてたっぽいですが)



 そこはそれ、これはこれ。

 大切な思い出には違いない。



(よく考えれば、カミラ様はわたしと同い年。冷静に考えれば、たったお一人で領地の隅々まで救えた事実は異常ですが、カミラ様ですものね…………)



 当時のカミラは六歳。

 支援物資などはセレンディア家の助けを借りていたが。

 領民への臨時配給や、各産業のケア。

 それら全てを一人でやってのけたのだ。

 更に言えば、その後も新たな産業をアキシア家主導の形で興し、大飢饉以前より大いに領地を発展を。



(そんな、そんな…………救世主とも言えるお方にセーラはっ!)



 アメリは唇を噛み、目を細める。

 こんな事は、あってはならないのだ。



(わたしは、わたしは…………っ! 一生カミラ様のお側にお仕えすると決めたのにっ!)



 何れはカミラも誰かと、結婚するだろうと考えていた。

 ――それが、ユリシーヌであった事は驚愕したが。



(別にそれはいいのです。だってユリシーヌ様は男だったんですから)



 そう、アメリが問題としているのは“そこ”ではない。

 将来、両親かカミラの進める殿方と、結婚するのだろうと思っていた。

 結婚後も、カミラに仕えるモノだと思っていた。

 だが――――――。



(ああ、神様っ! もし存在するなら、お恨み申し上げます…………)



 気づかなければ良かった。

 確かに女の時でさえも、一時の慰めになるなら“百合”の花を咲かせるのも“良し”と覚悟した。

 幸か不幸か、その機会はなかったけれど。



(ああ、ああ…………。どうして、どうしてこんな…………)



 静かに眠るカミラ――カラミティスの顔を、アメリは熱情を込めて見つめた。

 正直言って、こんなに想定外な事は無い。

 何故、何故、何故。





(何で、そんなに格好良くなっちゃったんですかカミラ様あああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?)





 カミラを起こさぬ様に、しかして激しくアメリは身悶えする。



(んもうっ! あーーーーっ、もうっ! ええ、確かに妄想した事くらいありますよっ! カミラ様が男だったらなーーって、でもっ、でもですよっ!)



 あの時舞い降りたのが、天使ではなく、白馬の王子様だったら。

 貴族の娘らしく、どんな手でも使って、婚約を取り付け、そうでなくても妾の地位を目指したであろう。

 そんな邪で歪な妄想を、何度してみたであろう。



(セーラもセーラですっ! 何で今更カミラ様を男の人にするんですかっ!)



 これがユリウスと恋仲になる前だったら、それはもう喜び勇んでこのベッドの中に潜り込んだ。



(でも、でも…………出来るわけ、無いじゃないですかそんな事…………)



 アメリの目尻に、涙が浮かぶ。



(こんな、こんな…………。気づきたくなかった…………カミラ様の事を“異性”として愛していただなんて)



 アメリの幸せは、カミラが幸せでいる事だ。

 だからこそ、カミラとユリウスの仲を引き裂く事など出来ない。

 亀裂を入れる事すら、したくない。

 でも、でもそれでは――――。



(苦しいです、苦しいですよぅカミラ様ぁ…………)



 いつか妄想した事への誘惑が。

 愛を自覚した事への喜びが。

 すぐ手が届く事の幸せが。



(全部、全部痛いですカミラ様。わたしには痛いです…………)



 アメリは一人、カミラに祈る。



(助けて、助けてください…………)



 決して届かぬ様に、気づかれぬ様に。



(助けて、カミラ様――――)



 今すぐ起きて、大丈夫だと抱きしめて欲しいと。

 この気持ちを受けれて欲しいと。



 アメリは、ただ祈った。



 その姿はカーテンに覆い隠されて、月すら知らない事だったが。

 だが、遙か遠くから、カーテンの隙間からその様子を覗いている者がいるなど、今のアメリには知る由もなかった。



はい。

という事で今章は、TS&アメリ回です。

ですので暫くお付き合いください。


まー、多分。

次の更新は月曜か水曜日ですが。


|д゜)……。

|д゜)皆の応援がいっぱいあればなー、執筆スピード上がるんだけどなー。


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