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80話 セーラはセーラだからセーラなのだ、彼女の業は深い




 怒りと悲しみに満ちた慟哭が、カミラ達に突き刺さった。



「何故だ! 何故だ! 何故そんな事を余に言う!」



「……貴男が人の世界で暮らすというのなら。いいえそれだけじゃない。魔族を救うというのなら、貴男は知っておかなければならない」



 カミラは、静謐を携えた瞳で続ける。

 今言う事では無いのかもしれない、だが、いずれは誰かから言われる事だ。



「貴男はドゥーガルドの記憶も、歴代魔王の記憶も持ち合わせているのかもしれない――でも、それだけよ」



「何を言う! それで十分ではないかっ!?」



「確かに、魔族を救う。その一点においては“それだけ”でもいいわ。けれど、だからこそ貴男の言葉は――――私に“響かない”」



 そう言い切ったカミラに、ガルドの肩がビクンと震える。



「――――っ!? 余の言葉が、想いが……そなたに、伝わらない、と?」



 怖々と、しかして怒気を孕んだ言葉は、ガルドの心を率直に写し出していた。



「ガルド。貴男はきっと、産まれたてなのでしょう? もし私がドゥーガルドを殺した後に目覚めたのなら、魔族達の現在はもっと良くなっている筈だし、貴男の側に魔族の誰かがいる筈だわ」



「…………確かに余は、先日目覚めたばかりだ。だがしかし、それに何の問題があろう」



「今を生きる上で、何も問題はありませんわ」



「では「――しかし」



 カミラはガルドの言葉を遮り、同情の視線を送る。




「貴男は――――恋をするには、その心が幼すぎる」




「……余が、…………幼い?」



 ガルドにとって冷たく悲しい指摘を送られ、幼子はふらふらと後ろに一歩二歩と下がる。

 そして震える両手で己の顔を覆い、指の隙間からカミラを覗いた。



「カミラ…………つまり、そなたは余の事をこう言いたいのだな。…………この恋心は偽物で。過去、魔王ドゥーガルドであった事も否定する、と…………」



「貴男がそう思うなら、そうなのでしょうね」



 冷たく、そして投げやりなカミラの言葉に、ユリウス達の非難の視線が刺さる。

 だが、カミラは言葉を取り消さなかった。


 ガルドが魔王ドゥーガルドの“続き”である事も、カミラへの恋心が“偽物”かどうかも。


 全て――――全て、ガルドが決める事なのだ。


 カミラはただ、勝手に想いを託され、それを自分自身だと思いこんだ幼子を、憐れんだだけだ。



「何故だ…………、何故なのだカミラ…………。余はこんなにもそなたの事を愛しているのに、何故そなたは余に残酷な事を言うのだ…………」



 か細く、嗚咽混じりの声に、カミラはユリウスの手をそっと握る。



「貴男がいくら私を愛していても。――――私は、貴男を愛してしないからよ。そして、それに気づかない事こそ、貴男の心が幼子の様に未成熟な証だわ」



 ガルドにそう告げた裏で、カミラは自嘲した。

 何を偉そうに語っているのだろう。



(私こそ、自らの存在がカミラなのか■■■か判らないのに、ユリウスへの固執が今の自分のモノか判らないのに……)



 カミラはユリウスの手を強く握った。



「カミラ?」



「ごめんなさい」



 それは何に対しての謝罪だったのだろうか。

 カミラが唯一分かるのは、この手の温もりを愛おしく想っている事だけだ。



(ええ、だからこそ私は、前を向いていられる)



 心に確かな灯火を確認しながら、カミラはガルドを一瞥し、ユリウス達に視線を送ってこの場を去ろうとした。

 だが――――。



「――――どこへ行こうというのだ。余のカミラよ」



 それは、驚くほど普通にだされた声。

 しかしカミラだけが、同じような状況にかつて陥った事のあるカミラだけが気づいた。


 ――それは、恋の熱情では無い。


 ――それは、愛の輝きでは無い。


 友人にかける“それ”でも無ければ、敵に向ける殺意でも無い。



(嗚呼、貴男は……貴男もそうなってしまうのね)



「嫌になるわね。魔王であった者は、超能力者は皆そうなのかしら?」



 カミラは再びガルドを見た。

 そこには、決して届かない“何か”を知って、なお焦がれる狂いの瞳。



「大丈夫かガルド、すまな――――」




「――――いいのか? 余のモノにならぬと言うなら、そなたの過去をバラす」




「ガルドッ! お前――――!?」


「カミラ様の過去?」


「ガルド、アンタ真逆!?」



 過去をバラす。

 その言葉に、カミラは方眉を上げた。



「ふふっ。何を言うかと思えば。言いたければ勝手に言いなさい」



 カミラの返答に、ガルドのみならずユリウス達も驚きの声。



(少し前の私なら、この言葉に揺らいでいたでしょうね。そして、理性を無くして殺しにかかっていた筈)



 だが――――今は違う。

 カミラには、たった一つ確かな想いがあり。

 そしてユリウスという唯一無二の存在からの“愛”がある。

 この身はとうに、覚悟が完了しているのだ。



 不気味な程に淡く微笑んで、カミラはガルドに返した。

 


「ああ、何となく貴男の事を解ってきたわ。――ガルド、貴男は私の真似をしているのね? かつて、私がユリウスを脅迫した事を再現しているのね」



「――――っ!? くっ! ああそうだ! それでそなたはユリウスと近づけたのであろう! それが愛する者にする行為なのであろう!?」



 ガルドの悲痛な叫びに、ユリウス達が漸くカミラの言っていた事が真実だと把握した。



「な、何だそなたらっ! 余をそんな目で見るなっ! 哀れみの目で見るんじゃないっ! 何が違うというんだっ!」



「カミラの言う通り、アンタはまだ幼いんだね…………」



「セーラ!? そなたは余の味方であろう!? 何故そんな事を言う!?」



「味方だからよ、ガルド。味方だから言うの――――アンタのそれは、愛する者に愛を求める行為じゃない」



 そして、ユリウスが続けた。



「脅迫は決して愛の告白でも、愛を保証する行為でも無い。ただの卑劣な行為だ」



「では、では何故ユリウスはカミラを愛したのだ!? カミラ! 何故そなたはユリウスに愛して貰えているんだっ!?」



 ガルドの率直な疑問に、カミラは胸を張った。



「それはね…………私がユリウスを深く理解していたからよっ!」



「理解していたら愛に繋がるのか!?」



 勿論、と続けようとしたカミラの頭を衝撃が襲った。

 セーラがぶっ叩いたのだ。

 カミラが痛みを押さえながらユリウスとアメリを見ると、二人揃ってそれはない、という表情。

 さっきまでのシリアスな空気は何処へやら、ガルドまでも、悲しみなど余所へひたすらに戸惑いの表情。



「それは無い、無いぞカミラ……意識したのは確かだが――――何故俺は、こんな女を愛しているのだろうか?」



「あ、あれっ!? そこは揺らがないでユリウス!? 今度は私が絶望に落ちるわよ!?」



「流石に、同意できませんよカミラ様……」



「アメリ! 貴女までっ!?」



「解りなさいよアンタは!? ああもうっ! 繋がるわけないでしょ馬鹿ガルドっ! この糞ババアの間違った理論を実行するんじゃないっ!」



「ぐっ……ううっ……。余は、余は全て間違っていたのだろうか…………」



 項垂れ肩を落とすガルドに、セーラは近づいてよしよしと頭を撫でる。



「確かにアンタは間違ってたわ。でも、それは手本が間違っていたからよ」



「では、余はどうすればよかったのだろうか…………」



 途方に暮れるガルドの姿に、いてもたってもいられなくてセーラは優しく抱きしめる。



「あら、大胆」



「君は……そう、なのか」



「あー、何かダメ男好きそうですよねセーラ」



「外野は黙らっしゃい!」



 がるる、とセーラはカミラ達に睨んだ後、ガルドに語りかける。



「そうね……アンタは、カミラの言う通り幼いのかもしれない。でも、そうなら知っていけばいいのよ」



「学ぶ?」



「アンタ自身が何か、その想いは本物なのか。その上でまだあの年齢詐称ババアが好きなら、そう言えばいいわ」



 ガルドに優しくする中、セーラの内心はぐつぐつと煮えたぎっていた。



(確かに、確かに! 悔しいけどあの女の言うとおりだけどさぁ! もうちょっと言い方ってもんが、やりようってもんがあるでしょ!?)



 その憤りが何なのか、セーラは目を反らしながらカミラへの反発心を肥大させていく。



(何か、何かギャフンと言わせる何かを――――)



 ああでもない、こうでもないと悪い思考するセーラの様子に、抱きしめられているガルドが気づいた。



「どうしたのだセーラ。余はそなたにも、何か気に障る事をしてしまったのか?」



「ん? ううん。全然? どうしたの? アタシは何ともないわ」



「――――カミラ、お前セーラにも謝るべきでは?」



「謝る……は違うかもしれませんが、何か言うべきではありませんか? カミラ様」



 愛おしい人と、親愛なる忠信に冷たい目で見られ、カミラはたじたじとなる。



「私が何を――――。いえ、まぁ。不本意ですがその様ですわね」



 カミラとて鈍感ではない、セーラがガルドを抱きしめた時に察している。



(あれは、媚びを売るという感じでは無いようでしたし。その想いだけは受け入れましょう…………)



 故に、一歩だけ妥協した。

 恋する乙女としての“矜持”というヤツである。



「何でも言いなさいセーラ。私は貴女の怒りを受け入れましょう」



「ハンっ! その上から目線、気にくわないわね。何様よアンタ」



「あら、カミラ様ですわ。私は」



「…………自分で言うか? まったくアンタは」



 相変わらずのカミラの様子に呆れながら、セーラはどんな嫌がらせにするか考え始める。



「――――時にババア。アンタ、ユリウスと何処まで行ったの?」



 先日、また肉体関係は最後まで行っていないとセーラは耳にしている。

 もし変わっていないなら“使える”かもしれない。

 そんなセーラの内心など知る由もなく、カミラは答える。



「私、純潔は初夜まで取っておく派なので。でもそれが何か?」



「いや、ユリウスも大変だなっとね…………」



「…………それに関しては同情するな」



「ふぁ、ファイトですよユリウス様!」



 情けない顔して落ち込むユリウスと、励ましの声をかけるアメリ。



「いやアメリ、アンタその励ましは逆効果――――。これだ」



「これ?」



「ええ“逆”よ――――」



 逆、リバース。

 その単語を切っ掛けにセーラの腐った頭脳は回転を早める。



「――――くくくっ、そう、そうよね。…………決めた」



 カミラはセーラの悪い笑みに、多大なる不安を感じながらも続きを促す。



「そ、そう。決まった? なら言いなさい」



「それじゃあ、始めるわよっ――――!」



 瞬間、セーラは魔法を唱え始める。

 カミラが対抗出来ないように、聖女の力を以て。


 だいたい、以前から思っていたのだ。

 カミラという女は少々男の“機微”を無視し過ぎると。



「ガルドがこれから学んで行こうってんだから、アンタも学びなさい」



「はぁっ! セーラ貴女いったい何を――――!?」



「体が動かないッ!? 何故俺まで巻き込むんだセーラ!?」



 ユリウスまで巻き込んだ魔法陣と、見覚えの無い術式にカミラは焦るが、時は既に遅し。



「以前ジョークで作ったんだけどね、真逆使う日が来るとは思って無かったわ――――」



 セーラは声を張り上げて、魔法名を唱えた。




「くらえっ! 性転換ビィイイイイイイイイムっ!」




 正に冗談の様な名称と共に、セーラの目から極太の光がカミラとユリウスに襲いかかる。

 そして次の瞬間、光が収まった後には――――。



「まったく、何よ驚かして。何も無いじゃ…………あれ?」



「そうだぞ、悪ふざけが――――うん?」



 二人は自身の違和感に首を傾げる。



「あー、あー。……喉の調子が悪いのかしら。いつもよりか声が低い様な」



「…………何故か急に肩が重くなってきたぞ? セーラ嬢、本当に俺たちに何をしたんだ?」



 気づいているのか、いないのか。

 とぼけた事を言う二人を指さして、アメリが叫んだ。



「か、か、か、カミラ様が男になったああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」



「ふむ、ユリウスはあまり変わりないが、胸がきつそうだな……。大丈夫か?」



 つまりは、そう言う事で。

 事実を認識したカミラとユリウスは、二人仲良く気絶したのだった。



ストック切れたので自転車操業です。

間に会ったら投稿しますん!


間に合わなかったら?

そんときは妖怪少女を更新するんで、代わりに楽しんで下さい。

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