08話 繰り返す、至急プランAを発動せよ!
「では、昨日学院の食堂において、無用な諍いを起こした罰ですが――生徒会の仕事を手伝って貰います。いいですねカミラ様」
「あら酷いわユリシーヌ様。私は被害者だと言うのに……」
「どの口が言うのです魔女よ、大方貴女が彼女を挑発した結果ではないのですか」
「まあ残念なことに、私との会話の中でセーラ様の癇に障った言葉でもあったのでしょう。私の不徳の致す所ですわ。甘んじて罰を受け入れましょう」
「顔が笑っていますわよカミラ様。貴女ときたらまったくもう……」
朝食の後、例によってアメリをセーラに派遣した直後の思わぬ来客を、カミラは喜んで向かい入れていた。
「それで? 何時から、何処で何をすればいいのでしょう? 勿論、生徒会に入っていない私にも、滞りなく手伝える様に、何方かが一緒にいてくれるのですわね」
「……はぁ。ヴァネッサ様からでもお聞きしましたか。ええそうです。今日は私と共に手伝って頂きます」
「ふふっ、嬉しいわ。他ならぬユリシーヌ様とご一緒出来るのですもの。私、頑張りますわ」
「――っ、そう、ですか……」
先日の出来事など、何も無かったかの如く振る舞うカミラに、ユリシーヌは困惑と安堵を覚えていた。
男であることがバレた事も、告白された事も、面と向かって今一度蒸し返されたら、どう返事をしていいかわからない。
(ふふっ、苦悩してらっしゃるわね。物憂げに瞳を伏せる美貌の女装少年……いいわぁ)
ともあれ、このままユリシーヌを堪能していてもいいが、それでは色々と勿体ない。
「それでユリシーヌ様、今日はどの様な事をするのです? 何か特別な準備とかは要りますか?」
「……え、ええ。大丈夫ですわカミラ様。先ずは本校舎の生徒会室に参りましょう。そこで必要な書類を持ったら、各部活動を回ります。もう直ぐ『魔法体育祭』でしょう。部活動参加種目の各種調整が間に合っていないのですわ。それから、余裕があれば備品のチェックも」
魔法体育祭、それは普通の学園乙女ゲーでの体育祭イベントである。
魔法が存在するこの世界において、先人達は別段、体育祭と分けて実施する必要がないと考えたのか、ごたまぜである。
――結果。体育祭というよりか、何でもありの学院最強決定戦。というイベントになっているのだが。
閑話休題。
「成る程、ヤりがいがありそうですわね」
カミラは内心、べろりと舌なめずりした。
これは公然とユリシーヌと物理的にくっつける大チャンスである。
(そう言えば、魔法体育祭にも色々仕込みはして置いたわね。無駄にならなくてよかったわ)
無駄になった方が、ユリシーヌやアメリの心身にはいいのだが、そこはそれ。
もっと言えば、今回の様な事態も想定して、色々とハプニングを起こせる手筈は整えている。
後はアメリに魔法で念話を送って、人員配置を始めさせれば――。
(アメリ! アメリ! 貴女の敬愛するご主人様のお願いよ、至急! 学内デートラブトラップ計画A案を発動するのよ! 繰り返す――)
「……? どうしましたカミラ様、置いていきますよ?」
「あ、ごめんなさいユリシーヌ様、少し考え事をしていたのよ。すぐ行くわ」
(頼んだわよアメリ!)
いきなり無茶言わないでください、と帰ってくる念話を無視して、カミラは先を歩くユリシーヌへ走り出しだ。
「ふふっ、ふふふっ……!」
「随分楽しそうですねカミラ様、今度は何を企んでいらっしゃるので?」
「内緒よユリシーヌ・さ・ま! えいっ!」
「カ、カミラ様、近いです、暑いです、くっつかないで下さい」
「いいじゃない偶には、『女』同士の何でもない触れ合いなのに、今まで一回もさせてくれた事ないでしょう?」
むぎゅっと、胸をユリシーヌの腕に押しつけて歩き、カミラはご満悦である。
見た目には、美しい少女が二人、戯れながら歩く姿が。
実際には、女装少年と彼をからかう妖しげな少女の構図が。
「ああっ! これから二人でお仕事なんて……楽しい、愉しいわぁ」
「ぐっ! こういう手で来るのですか貴女は……。やはり魔女という名は貴女にこそ相応しい」
――魔女。
それだけ聞くと、誤解されがちではあるが。
そ若くして魔法を極めたカミラに、ユリシーヌが送った賞賛の愛称であった。
今では学院内に、畏怖と災厄の意味で広まっているが。
「ふふっ、ユリシーヌ様は『女の子』ですもの、私の様な魔女で恐縮ですけど、いつか伴侶が出来たときの予行練習ですわ」
「…………本当に貴女はぬけぬけと、減らない口ですわね」
女装のことを持ち出されては、拒否するわけにもいかず、ユリシーヌは渋々諦め、カミラのなすがままになる。
ユリシーヌという偽りの姿で、カミラとは仮初めの親友であった。
出自故に疑われる訳にもいかず、結果として他の生徒から壁を作っていた。
孤高で誰も触れられない『白銀』、そうでいなければならないし、それでいいと思っていた。
カミラがその壁を壊すまでは。
「……私達の魔女カミラ。貴女が何故、何時から本当の私を知っていたのかは今は聞きません。あの不可解な魔法の事も。……怒ってますもの、戸惑っていますもの。だから、あの時の返事も返しません。でも――」
隣にいなければ聞き逃してしまうような小声に、カミラはただ耳を傾けた。
「――貴女には、感謝しているのです」
「では、今までと変わらず、お近くにいても?」
「出会った頃は拒否していたのに、それでも無遠慮に近づいてきたのは貴女でしょう。今更言うまでもないですわ」
思わぬ言葉に感極まったカミラは、愛を告げようとし、ぐぐっと自重した。
だが我慢した分、暴走した想いが言葉となって溢れる。
「――では、では。ユリシーヌが花を摘みに行きなさる時も、お召し物を変える時も、就寝なさる時も、側にいていいのですね!」
「貴女はいつも、私との会話の裏でこのような事を考えていたのですか!?」
「恋する乙女と言うものは、そういうモノですわ」
「この世の全ての恋する乙女に謝って下さいッ! 今すぐにッ!」
「あらあら、こんな事も解らないなんて、ユリシーヌ様は本当に『乙女』ですの? これは後でじっくりねっとり調べなければ、ハァハァハァハァ」
後どころか、今まさにユリシーヌの体をまさぐり始めたカミラに、怒りの拳骨を落とす。
「――ふぎゃっ!」
「この世の『乙女』に代わって天罰です。調子に乗る人とは、もう喋りません」
つんと、ユリシーヌは可愛いらしくそっぽを向いた。
「もう、ユリシーヌ様っていけずなんだから……」
(この人、本当に男なのかしら? いやいや男よね、服の下は以外と逞し――)
「何か不埒な事を考えましたね、今日はカミラ様一人でお仕事をしたいようで」
ゴゴゴと怒気を孕ませた言葉に、カミラは反射的に腕を解きビシっと敬礼する。
無視が一番辛いのだ、狂ってしまう。
「はっ! 申し訳ありませんですわ白銀のユリシーヌ様! このセレンディア家令嬢カミラ、粉骨粉砕の精神で頑張らせて頂きます!」
なので、カミラはこの後、真面目にお仕事した。
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