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79話 魔王




「はははははははっ! はははっ! そうだっ! これだ余が求めていたのはっ!」



 廃墟となった倉庫に、ガルドの喝采が木霊した。



「ああ、何という素晴らしい…………。大戦時の科学でも再現不可能だった事を、いとも簡単にやってのけるとは…………ああ、やはりそなたが欲しい」



 熱情のままにカミラへ手を差し伸べるガルドに、ユリウスが立ちはだかるようにカミラを庇う。

 だがカミラはユリウスを片手で制すると、一歩前に出て宣言する。



「――――お断りするわドゥーガルド。私はユリウスの側にいると決めているの。それに――――愛しているから。だから、貴男の恋人にも仲間にもならない」



「ふむ。余はユリウスが居てもかまわんぞ? 諸共に愛してみせよう」



 ガルドから飛び出た言葉に、ユリウスとアメリが驚きの声を上げる。



「なッ!?」



「はいぃ!? へ? ええ? ユリウス様もって、この人バイですよカミラ様!?」



 驚く二人とは対照的に、カミラは抜け目なく避難していたセーラに問いかける。



「こっちに来なさいセーラ――――で、どういうつもりなの“アレ”は。聞こえていたんでしょう」



「……カミラ、アンタ後ろにも目がついてんの?」



「ふざけてないで答えなさい。貴女には私の質問に答える義務があると思うのだけど?」



 何を考えて、この場をセッティングしたのかカミラには解らないが。

 この惨状を引き起こした原因の一端があるぞ、とカミラはジロリと睨む。

 すると、流石のセーラも思うところがあったのか、ばつが悪そうに、かつ素直に口を開いた。



「はぁ…………。アタシはガルドがアンタが好きで好きでしょうがなくて、二人っきりで話がしたい。という事しか知らないわ」



「……ふぅん。まぁそういう事にしておいてあげる」



 セーラの言葉に混じった滓かな嫉妬の匂いを、カミラはしっかりと記憶しながら、今はそれで済ませる。

 問題は、カミラを欲しがる目の前の男の事だ。

 だが、カミラが思考を巡らすより前に、ユリウスがガルドに問いかけた。



「…………ガルド。お前は何がしたいんだ?」



「何とは? 余は何かおかしな事を言ったか?」



 本気で首を傾げるガルドに、ユリウスの視線は鋭くなる。



「以前お前は、カミラの事を愛していると言ったな」



「ああ、それが何か?」



「では何故、そのカミラの側に俺がいる事を許す?」



 嘘は許さない、というユリウスの態度に、ガルドは花開く様な満面の笑みで言う。





「――――それに、何の問題が?」




「はッ!?」

「はいいいいっ!?」

「…………そっかー。そっかぁ……そうなんだ」



 三者が、三様な反応をする中。

 ガルドの言葉、そしてその素性の由来に検討がついていたカミラは、真っ直ぐに言葉を向ける。



「――――そう、そうなのね。ガルドは」



「おおっ! 余の事を愛称で呼んでくれるのかカミラ!」



「ええ、ガルド。ごめんなさいね、今まで貴男の事を誤解していたみたい」



「誤解と? うぅむ。余はカミラの言っている事が解らないのだが?」



 ガルドと同様、疑問符を頭に浮かべる皆に、カミラは淑女として礼をとる

 祝福するように、悲しむ様に。

 ――――真実を知らしめる様に。



「初めましてガルド、私の名はカミラ・セレンディア。この身は偽りでありますが、今代の魔王となっています」



「何を今更そのような事を、水くさいではないか」



「いいえ、今更ではありませんわ。私は今、確かに貴男とお会いしたのですから」



「本当に、何を言っているのだカミラ? 余にはまったく理解できない……」



 カミラの様子に、四人は戸惑いの視線を送る。



「理解できないのも、無理が無いでしょう…………ガルド、貴男は理解していない。ええ、そうね――セーラ、貴女なら解るのではなくて?」



 静かに矛先を向けられたセーラは、戸惑いながらも答えた。



「…………ドゥーガルドは“魔王”だった。つまりは、そういう事ね」



「セーラまで!? ええい! 余にも解るように話せっ!」



 幼子の様に地団駄を踏み始めたガルドの姿を見かねて、アメリとユリウスもカミラに問いかけた。



「カミラ様。“魔王だった”という言葉の意味はなんでしょうか?」



「それに、初めて会ったとはどういう事だ? カミラは以前にも会っているのだろう?」



 カミラは少しばかり目を伏せると、その黄金の瞳を揺らして答える。

 ある意味これは、カミラだからこそ気づけたのだ。

 幾度と無く繰り返したカミラだからこそ、この場で唯一気づくことが出来たのだ。


 ユリウスを許容すると言ったガルドの真意、それは魔族がそういう恋愛観を持っているからではない。

 魔族とて、人工的に生み出されたとはいえ人間の亜種。

 その価値観は人と何ら変わらない。

 では何故か。



「ガルド。貴男は何者ですか? 魔王でも魔族でも無い、貴男は何なのでしょう?」



「何を言うかと思えば…………余は超能力者で魔族の救世主、ドゥーガルドであるぞ!」



 にこやかにそう告げるに、カミラは冷たく言った。



「ええそうです。貴男は魔王ドゥーガルドの“記憶情報”を引き継ぐ人物です――――この意味が理解できますか?」



「ふむ、当然であろう。余は魔王ドゥーガルドを核とし、と歴代の魔王達の記憶を持つ魔族の救世主。それが何だというんだ」



 その言葉に、カミラは悲しそうに微笑んだ。



「嗚呼、ではやはり私が殺した“魔王ドゥーガルド”は、死んでいたのですね…………」



「それはそうだ。でなければ余はここには居らん」



「だからこそ、私は貴男に謝らなければならない。――――ごめんなさいガルド」



 深く深く、カミラは頭を下げる。

 そして、頭を上げるとガルドが意識していなかった事を突きつけた。



「今の今まで私は貴男が。魔王ドゥーガルドと“同一人物”だと思っていた」



「変なことを言うなそなたは、余がドゥーガルドでなくて何なのだ?」



 先ほどと変わらぬガルドの口調、だがセーラとカミラは、そこに震えが混じっている事を見逃さなかった。



「私は、貴男という魔造超能力者がどの様に作られたのか解らないわ。でも二つ言える事がある」



「それは、何ですかカミラ様」



 思わず発言したアメリにも解るように、カミラは優しく例える。



「そうねアメリ…………。もし私とユリウスが死んだとして、その二人分の記憶を一つの新しい体に移したとして、それは本当に私かしら?」



「そ、そんなのっ! カミラ様でもユリウス様でもありません!」



「ええ、そうね。確かにそれは私では無いわ」



 ならば、繰り返しの死の記憶があるカミラは、前世という他人の記憶があるカミラは、本当にカミラなのだろうか。

 その考えをおくびにも出さず、カミラは続ける。



「そして二つ目。――――私が殺した魔王ドゥーガルドは、私が知るドゥーガルドは。」




「ガルドの様に――――“笑う”ヒトではなかったわ」




「そ、そんな事は無いっ! 余はっ! 余は――――!」



 無意識に信じていた自己を否定され、ガルドは不安と苛立ちに揺さぶられる。

 そんなガルドに、カミラは無慈悲に告げた。



「貴男も解っているでしょう? “魔王”は世界のバランスを司るシステムの一つ。人間の様に、魔族の様に“笑う”なんて。――――何かを感じる事すら“あり得ない”」



「言うな言うな言うなぁああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」



 憎しみの籠もったガルドの青い瞳が、殺意が、カミラに放たれた。




明日でドゥ―ガルド登場編は終わり、次章に入ります。

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