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76話 魔王は皆、変人ばかり



 いったい、何の為にここに居るのだろうか。

 東屋に集結した五人の心は、今まさに一つであった。



 ――ぷおんぱおん、ぷおおおおおおおおん。



 ――ぷろろろろん。



 時には勇ましかったり、時にはもの悲しげなトランペットのメロディが辺り一帯に響きわたる。



 ――そう。

 この無駄に巧い音色を響きわたらせているのはエドガー・エインズワース。

 ユリウスの兄にして、新しい担任。

 そして、東屋修復の監督者。



 五人が集まったや否や、彼は注意事項を説明するではなく、カミラらを並ばせてトランペットを吹き始め…………。



(ねぇユリウス様、これ何時まで続くのですの?)



(綺麗な音色は判りますけど、何なんでしょうね、これ?)



(エドガー先生はイケメンだけど、ちょっとコレには着いていけないわ)



(うぬ? 不評なのか皆の者。余は結構気に入っているのだが…………)



(…………皆、兄がすまない。)


 

 メロディに惹かれ、関係の無い生徒まで遠巻きに。

 その中でエドガーの前に立つ五人は“念話”の魔法で雑談している始末。



(始めるのなら、直ぐに始めたいのだけれど。遮っていいのかしらコレ?)



(わたしも飽きてきましたし、カミラ様ガンバです!)



(仮にも義兄になるんでしょこのセンセ、ちょっと対応が塩じゃない?)



(なんだ皆の者は解らんのか? エドガーは見事にこの音色で説教しているのではないか、なぁユリウスよ)



(…………ああ。ユリシーヌでいた時も、何かと奏でてウザイと思っていたが――――“コレ”は感情表現だったのか!)



(いや、アンタは身内なんだから塩対応しちゃ駄目でしょユリウス!?)



 兄弟間の闇が見え隠れしながら、最後にぷおんと一際大きな音で、曲が締めくくられる。

 するとエドガーは、やりきった顔でカミラ達にサムズアップした。




「――――どうだい皆ッ! 俺の熱い気持ち、伝わったかなッ!」




「ちっとも伝わらないわよ義兄様っ!?」




 思わずつっこんだカミラに、一同がぶっこみやがったと尊敬の目を向ける中、将来の義兄と義妹の会話が始まる。



「そうか――我が妹(仮)には、まだこのレベルの話は早かったかな?」



「いいえっ! ただトランペット吹いてただけですわよね義兄様?」



「ちッちッちッ! まだまだ甘いな義妹よ。この美しかった東屋が無惨にも燃えゆく悲鳴を、園芸部員や庭師の嘆きをを聞き取れなかったとは。――――ふッ、まだまだ反省が足りないようだな。ではもう一曲……」



「ちょっ! ちょっとお待ちくださるエドガー先生!? 先生のその対話方式は人類には早すぎましてよ!?」



「うむ? そうか? ガルドには通じている様だぞ?」



 その言葉に、カミラ達の視線がガルドに向く。



「……うぐっ。くぅ~~。余は、余はぁっ! この美しい光景になんて事を、なんて事を~~~~! もっと、もっと被害を少なくする事が余なら出来たはずなのに…………」



「え? あれの何処にそんな反応してんのアンタ!?」



「……感受性が高い、という事です?」



「真逆、兄さんの音楽に着いてこれる人材がいるとは…………」



 男泣きを見せるガルドに、他の者からの呆れた視線。



「へへッ! 誰か一人にでも通じたんなら。俺の演奏も捨てたもんじゃないな…………よし、ならば全員に伝わるまでエンドレスで――――」



「ストップッ! 止めてくれ兄さん。――――ごほん。演奏を聴かずとも我々全員は反省しているから。今すぐ作業に移ってもよろしいですか?」



 再びトランペットに手を伸ばしたエドガーに、ユリウスはユリシーヌ時代を思い出すような大輪の笑みで、その行動を封殺する。

 このまま放置しておくと、夜明けを過ぎてもトランペットの音色を聞き続ける事になるのは、想像に難くない。



「ユリウスの言うとおりですわ。此度の件は大変に反省しております。出来れば早急にこの東屋一帯を修復したいのですけれど」



 とカミラが続き、エドガーも顎に手を当て思案する。



「うむ、そうだなエドガー。そなたの音色は心地良いが、今は復旧作業が優先である」



 カミラに続いたガルドの言葉によって、エドガーも納得したのか、不服そうに首を縦に降る。



「仕方がない…………、お前等にこの俺の音色はまだ早かった様だな……」



 一人悦に入るエドガーが、それ以上何もしない事実に、皆がほっと胸をなで下ろした瞬間。

 無意味な追い打ちを駆ける女が一人。




「っていうか、聞いたわよセンセ。そうやって無意味にトランペット吹いてるから、おきにの娼婦に逃げられるんじゃない」




「ジェ、ジェニファアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」




 実は音楽に苛立っていたセーラの無慈悲な一撃が、エドガーをノックアウトした。

 無論の事、情報源は密かに調査をしていたアメリ。

 男のウィークポイントを無慈悲に突きつける悪魔の所行である。



「せ、先生!? 大丈夫ですか!? 何処に行くんですか先生ーーーーー!?」



「放っておいていいぞアメリ嬢、兄さんが女性にフラれるのは何時もの事だ」



 非常に暗い陰を背負い、全力で走り去ったエドガーの姿を、ユリウスは疲れたような顔で見送った。



「ふむ、苦労しているのだなユリウス」



「ええいッ! 肩を叩くな憐れむんじゃないッ! というか、何時の間に泣きやんだお前ッ!」



 男泣きも何処へやら、ぽんぽんと馴れ馴れしいドゥーガルドにユリウスは叫ぶ。

 一番左端に居たのに、誰にも気づかれずに右端のユリウスの更に右に移動している辺り、無駄なポテンシャルを発揮している。



「ふっ……余レベルになれば、涙腺の開け閉めも変化自在よ」



「開け閉めは兎も角、変化自在って何だッ! カミラに続いて不思議生物なのかお前はッ!」



「あれっ!? こっちにも飛び火した!? そんな変なのと一緒にしないで頂戴ユリウス様!?」



 恋人の思わぬ認識に、ガビーンと固まるカミラ。

 その姿に笑いを隠さず、セーラが一言。



「残念でもないし、当然じゃない。ねぇアメリ」



「そこでわたしに振らないで馬鹿セーラ。――――ともかくですっ! 皆様ー! 先生もどっかに行ったので、そろそろ作業を始めませんか?」



 カミラへの言及をさらっと避けたアメリは、鶴の一声で場を纏め上げる。



「そうだな、作業に取りかかるとしようぞ! 刮目するがいい、余のガーデニングテクを!」



「あ、実はアタシ園芸部でーす!」



「どうせ幽霊部員でしょう。さ、ユリウス様、一緒に作業しましょう」



 漸く、東屋の修復作業が始まろうとしていた。



(´-`).。oO 感想とかレビューとかも、ばんばんくれてもいいのよ?

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