74話 どうでもいいですが、実はセーラは重要なメインキャラです。
他人の恋路は蜜の味。
転校生にして元魔王、現超能力者ドゥーガルドの爆弾発言に混乱するサロンを早々と退出し。
セーラはガルドの後を追いかけた。
「出会って一日もないの人間の手を握るとは、今時の少女は進んでいるな」
「あら、アタシは慎み深い聖女として有名よ。だいたいアンタは人間ですら怪しいからノーカンよノーカン」
「いや、これでも歴とした人間の体として創ってあるのだが」
「はいはい、さらっと世界観壊すような事言わなーい」
ガルドの手を引き、ズカズカとセーラは手頃な空き教室を捜し当てる。
「ま、もうすぐ日も暮れるし、ここなら誰もこないでしょ…………って、何いつまで手ぇ握ってるのよ。着いたんだからとっとと離しなさいよ」
「うむ、いや……魔族でも人間でも、女の体温は心地よいな、と。これも一つの勉強だ。もう少し握っていていいか?」
すりすりさすさすと、顔色一つ変えずにセーラの手を堪能する残念金髪イケメンの姿に。
その頭をばちこん、ばちこんと二回叩いてからセーラは手をふりほどく。
「アンタの方が肌のキメが細かい癖に、ふざけた事いってんじゃないの変態! さ、とっとと全部ゲロるのよ!」
「へ、変態だと!? この、かつて世界の半分を司った余が、変……態?」
ガビーンと日暮れの教室で黄昏るガルドに、セーラは、コイツ本当に魔王だったの? と訝しげな視線。
ともあれ。
今のままこの男を放置していたら、間違いなくカミラは暴走して、主に校舎が死ぬ。ついでにユリウスやアメリ、王子達の胃壁も遠からず死ぬだろう。
――それに“聖女”という、機械仕掛けの神から解放して貰った恩もある。
どうせ卒業まで、口から砂糖をたれ流す事になるのだ。
ささやかなスパイスの提供をしても、問題等あるまい。
「んでさ、カミラが魔王を奪ったとか、世界樹の支配がどーだとか、そんな小難しい事はいいから。取りあえず、好きになった切っ掛けとか話しなさいよ」
「うぬぅ、好きになった切っ掛けとな? そなたが聞いた所で何になる?」
「察しの悪いヤツね。敵に回るなら、わざわざこんなトコ連れ込まずに直ぐに言ってるわよ」
呆れた様なせーらの口振りに、ガルドは首を傾げた。
「敵ではない…………そうか! わかったぞっ! そなたさては余に…………惚れた――あだっ! 何するか! 痛いではないか!」
再び、ガルドの頭をシバくセーラ。
何度も叩かれて、ガルドは既に涙目である。
「妄言は程々にしときなさい自意識過剰男。アンタの恋路については、味方になってあげるつってんの」
「おお! いいのかセーラ!? カミラに後で怒られるのでは?」
「はんっ! あのババアに怒られるより、アタシが楽しい方が優先に決まってるでしょう!」
「す、凄い。これが今代の聖女か……! なんとパワフルで唯我独尊で自分勝手な悪女か!?」
「褒めてんのか貶してるのか、どっちかにしなさい馬鹿男!」
セーラのつっこみにシュンと落ち込んだガルドは、素直に謝った。
「おぅぐっ、申し訳ない。後半は余計だったな……そなたは真に、心優しい淑女だ」
「――――っ!? そ、そんな口説き文句はあのババアにとっておきなさい! 解ったらとっとと話す!」
魔性の怪しさを持つ、怜悧な金髪イケメンのまっすぐな眼差しと情感の籠もった言葉に、セーラは思わずドギマギして赤面した。
今が夕方でなければ、バレていたかもしれない。
幸か不幸か、その事に気付かなかったドゥーガルドはカミラとの出会いを語り始めた。
「あれは今から十年以上前の事だった…………」
「あ、そこまで遡るんだ」
「正確に言えば十三年前。余が丁度百歳で、魔王の椅子にも慣れた頃だった」
そこでガルドは右手の指を一振り、黒板に過去の記憶を映し出す。
そこには今と変わらぬ姿のガルドが、薄暗い石造りの広い室内で、豪華な椅子に座っていた。
セーラが変化を見守る中、次の瞬間、水色の髪の幼児が突如として現れ、その刹那、コロンとガルドの首が転がった。
「ああ、この瞬間。余は確信したのだ…………この者こそ運命の人だと…………」
「いやいやいやいや! 確かにある意味運命だけど、それ運命違いだからきっと! っていうかこの子カミラ!? いったい何歳なのよこのロリコンがっ!?」
恍惚と映像を眺めるガルドに、セーラは叫んだ。
これの何処が、出会いの瞬間なのだ。
どう見ても魔王暗殺の現場に他ならない。
「まったく予知も予見も出来ない一撃で死んだ余は、このボディに移った後でこの者の事を調べたのだ…………」
セーラのつっこみも何のその、ガルドは気持ちよく語る。
「そなたが言った通り、この女児は三歳頃のカミラ・セレンディア。知っておるか? 当時のカミラは生まれて直ぐに立ち喋り、様々な発明品や領地経営にまで口を出す千年に一人の天才麒麟児と呼ばれていた」
「…………あの女、そんな小さな頃から自重の文字を忘れてたのね」
「しかし、こうも言われていた。魔法の使えない可哀想な子だと。天は彼女に二物を与えなかったと専らの評判だった」
「逆に言えば、魔法を使わずに魔王のアンタをころしたのね……」
何回繰り返したんだか、とまでは口にしなかった。
もしかしたらガルドも気付いているのかもしれないが、不用意に口にする事ではなかったからだ。
「余は、この体を目覚めさせる者が出てくるまで待ったのだ。そして、その間ずっと見ていた…………」
「……うん? ずっと見てたの?」
思わぬ言葉に、セーラは嫌な予感を感じた。
その予感を裏付けるかの如く、ガルドは別の映像を映し出す。
そこには、数々のカミラが写っていた。
領地経営に精を出すカミラ。
美容健康に勤しむカミラ。
キメ顔を練習するカミラ。
アメリとの出会い、ユリウスとの出会い。
何故か幼少期の方が多い上に、下着姿や肌の露出が多い映像が何故なのかロリコン。
(――――けど変ね)
映像の偏りの事では無い。
もっと根本的なカミラの行動の事だ。
(なんでアイツは小さい頃のユリウスと接触していないのかしら? 原作再現にこだわるタイプじゃなかった筈だけど?)
セーラの疑問は余所に、映像は続き。
そして、美しく成長したカミラが東屋でユリシーヌとキスをするシーンまで来た。
「ちょっと。これもしかして最近のヤツじゃない? 何アンタ、今の今までずっと覗き見してたの!?」
ユリウスを遠目から見て、顔を赤らめるカミラ。
ユリウスの隣で、幸せそうに微笑むカミラ。
「――――ああ、カミラは美しい」
大切な宝物をしまう様に、ガルドは胸を押さえる。
そして、酷く熱を帯びた声色をセーラに向けた。
「余は、思ったのだ……」
「この笑顔を余に向けて欲しいと」
「その手で余に触って欲しいと」
「カミラの事を考えていると、余は幸せだった。冷たい孤独の闇の中で、何故だか暖かくなった」
「余は、カミラという温もりが欲しい――――」
「…………アンタ、本気であの子の事が好きなのね」
切なく遠くを見つめるガルドの姿に、その恋情に濡れた瞳に、セーラの心は揺れ動いた。
ガルドが好きになったカミラの表情は、ユリウスに向けられたモノ。
ガルド本人に向けられた笑顔では無い。
(もしかしたら、コイツは恋に恋しているのかもしれない)
けれど。
けれどきっと、その想いは間違いじゃない。
きっと人間なら誰でも、否、魔族でも同じ。
――――恋と憧れ。
(解ってた。解ってたつもりだったんだけどなぁ…………)
セーラは無自覚に、ガルドに見惚れながら自嘲した。
解ってはいたのだ。
この男だけじゃない、魔族は敵だと断じるには人間味に溢れている。
何より、前世の記憶がある自分ならば、魔族と呼ばれる者が、思考停止で倒すべき敵であると、利用して弄ぶ敵であると、断じてはならなかった。
彼らには怒りも悲しみも。
王への忠誠や親愛。
そして――――――――恋の、喜び。
人間と、何一つ変わらない。
聖女を名乗るならば、彼らも救い幸せにする事を、心の底から自覚していなければならなかった。
セーラは、自らの愚かさに顔を伏せる。
そしてその様子を、ガルドは静かに見ていた。
夕焼けの逆光に照らされ、夕日に沈む赤い髪の少女の悲しそうな顔を。
「どうしたセーラ。何故そんなな顔をする?」
ガルドは胸が締め付けられる様な痛みに、たまらずセーラの顔を持ち上げ、その頬を撫でた。
「…………いきなり触らないでよ、馬鹿。何でもないったら」
のろのろとガルドの手を払いのけたセーラは、くるりと後ろを向き深呼吸。
(ああ、駄目ね駄目。切り替えなきゃ――――うん、よしっ!)
パンと両手を顔に打ち付け気合い注入。
こうなれば毒食わば皿まで、例えあのババアに殴られようとも、この残念イケメンを応援する事をセーラは決意する。
「えいえい、おっしゃらぁああああああああ!」
そんなセーラの奇行に、ガルドが戸惑いの声を上げる。
「お、おいセーラ! そなた本当に大丈夫か!?」
「大丈夫じゃないのはアンタよ馬鹿ガルド。わかってんの? このまま迫ってもただ嫌われるだけよ?」
「何ぃ! そうなのか! どうしてだ!? 余はカミラと同じ事をしているだけなのに!?」
余りに恋音痴な発言に、セーラは笑みをこぼしてガルドへ振り向いた。
この問題児を導いて、幸せにしなければならない。
「我に秘策あり、よ! こセーラのおねーさんに任せなさい恋愛お子さま元魔王!」
「おお! 頼むぞセーラ! どうか余とカミラの仲を取り持ってくれ!」
喜ぶガルドの姿に、セーラは胸の奥に鋭い痛みを覚えたが、気が付かないフリをした。
知っているでしょうか皆さま。
……ストックダインが死にました。
そうです
また
また、ストック先生が死んでしまったのです。
今後はご冥福を祈ると共に、復活の儀式を執り行います。
故に、明日から自転車操業、またライブ感溢れる投稿になります!
毎日投稿出来るかは……皆の応援にかかっていますよ!




