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70話 死人が蘇ったらどうする?

カミラ様ならこうする。



 空気は最悪だった。

 カミラが寄宿舎に戻り数時間、それからアメリが保健室から消えて、更に数時間。


 居場所の解らない二人と、ドゥーガルドの発言苛立ちながら、ユリウスはセーラと共に東屋に来ていた。

 勿論の事、ドゥーガルドもそこにいる。


 繰り返し言おう――――空気は最悪。


 ユリウスはあからさまに敵意を向け、ドゥーガルドも隠そうとせずに対抗心剥き出し。

 セーラとしては、勘弁してくれ、と叫び出したい気分であった。


「――――いい加減、話してくれないか? いったい何の目的と権利があって、俺の恋人を呼び出したッ! それにお前とカミラの関係についても話せッ!」


「ああ、駄目だなそれは。これは余とカミラ・セレンディアの問題。余とカミラだけのモノ。勇者にすらなれないお前如きが聞く権利は無いと思え」


「何様だお前はッ!」


 バン、とテーブルを両手で叩いたユリウスに対し、ドゥーガルドは余裕たっぷりに大仰な身振りで答えた。



「無論、世界を変革するただ二人の内の一人。――――ドゥーガルド・アーオンである!」



「ああ、糞ッ! ふざけるのも大概にしろよッ!」


 大声で喚くユリウスを、セーラは宥める。

 気分は、鞭を持たずに檻の中に居る猛獣使いだ。


「どうどう、どうどう。押さえなさいよヘタレ童貞男」


「アイツを大事にしてるだけだッ!」


「なにおう! 余の方がカミラを大切にできるとも!」


「アンタも乗っかってくんな! ややこしい!」


「いや、俺だッ!」


「余だ!」


「聞けよアンタら、んで、その会話何回目よ…………」


 午前の授業中から幾度となく、繰り返されるこのやりとりに、イケメン大好きセーラも流石にうんざりしていた。


(折角のイケメン転校生なのに、何でまたカミラ大好き人間が増えてるんだか…………)


 セーラは世の不条理に嘆き半分、愉悦半分で笑った。

 そもユリウスは気付いていないのだろうか、それとも気付いて目を反らしているのだろうか。

 

 この美貌のカリスマ転校生、ドゥーガルドがカミラ目当てに転校してきた事は、その言動で明白である。

 だが、それは恋心だけでは無いだろう、ともセーラは予測していた。

 恋心だけで盤面をひっくり返す馬鹿はカミラ一人お腹いっぱいである。


(しっかし、どっかで見たことある気が…………うーん思い出せない…………)


 こんな印象的なイケメン、一度見たら忘れない筈だが。

 じとーっと視線を向けるセーラに気付いたのか、ドゥーガルドが楽しげに口を開く。


「どうした今代の聖女よ、余の顔に何か付いておるか?」


 しれっと、セーラを“聖女”と呼んだドゥーガルドに、セーラは心持ち警戒を深めた。

 聖女の事は公式に発表されておらず、生徒の中でもまだ一応噂止まりである。

 十二分にその噂を仕入れる時間があっても、確信が覗けるその口振りに。

 セーラは、にこやかに笑って残念がる。


「ええ、口説きたいくらいに良い顔がついてる」


「良し、とっとと口説き落とせセーラ、なんなら“あれ”を使ってもいいぞッ!」


 なりふり構わずといったユリウスを、セーラはチョップで黙らせると、ドゥーガルドに問いかけた。


「アタシとアンタ、どっかで会った?」


「いいや、今日が始めてだな」


 簡潔な答えに、セーラは思考を巡らす。

 逆玉で逆ハーを目指すセーラにとって、金を持ってそうなイケメンは必須。

 故に、どこかで会った? と思うような曖昧な記憶こそ不自然。


 ――恐らく“聖女”として何か制限がかかっている。


 そしてそれは、制限をかけざる得ない程の厄ネタ。


 セーラは確信を持って、ドゥーガルドに再度問いかけようとした瞬間――――。




「死ぬときは一緒よユリウスううううううううううううううううううううううううううううううううううう!」




「ガンホーガンホーガンホー! カミラ様の敵はわたしの敵いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」




 ドッカーーン、ドカドカドカ、と轟音をたてて上空から何かが次々と落下。


「な、なんだッ!? 魔族の敵襲かッ!?」


「違う! あれは魔族の気配じゃない!? 真逆――――」


 即座に聖剣を構えるユリウスに、何かに気付いた様なドゥーガルド。

 セーラから見れば、前世でいうSFアニメでしかお目にかかった事が無い代物が、東屋を包囲した。



「ちょっとカミラっ! 世界観考えなさいよ! なんつーもの作って――――?」


 包囲網の外から、ズシンズシンと大きな足音をさせて近づく不審者二名の先頭に、セーラは叫ぶ。

 誰がどう考えても、あの不審者はカミラとアメリで間違いないだろう。


 その不審者は手のひらを向け、セーラの言葉を遮ると。

 手にした遠未来SF風ライフルの、黒光りする銃口を向けて言い放った。




「魔王ドゥーガルド・アーオン。話とは何? ――――そして死ね」




「魔王と戦うって聞いてないですよカミラ様!?」



「その声はカミラッ!? というか魔王はお前じゃないのかッ!?」



「あー、うん。ご愁傷様ですアメリ。アンタの骨は拾ってやるわ…………残ってたら」



「おおっ! おおおおおおおおっ! どこかで見たことがあると思ったら、大戦時の対超能力者強襲用強化外骨格の! 設計図しかなかったと言われる! あの幻の! ラグナロクtypeRではないか! それにその銃は、スリースクウェア製の傑作ビームライフル! 二五七式グングニルランサー! ふおおおおおおおおおお!」



 物騒すぎる元未来兵器を突きつけられるも、目をキラキラ輝かせて、ぺたぺたとそれらを触り始めるドゥーガルドの姿に、張りつめた空気が霧散する。



「…………うん? これは今すぐ殺していいのかしら?」



「いやいやいや? この転校生の何処が魔王なんですかカミラ様…………。憧れの武器にテンション上がってる只の男子生徒では?」



「何がどうなって、こんなモノを持ち出す結論に至ったか解らないが、取りあえず出てきたらどうだ?」



「なぁ! なぁ! 周りの木偶はAI制御で中に誰も入ってないんだろう? ちょっとでいいから余も乗せては貰えないか!? くぅ~~、生前は技術力も足りなかったし、世界樹の武装制限に引っかかって火薬式銃すら作れなかったからなぁ…………、ああ、羨ましい…………! どうやって武装制限を騙したのだ!? 後でハッキングルートを教えてくれ!」



「うわぁ…………何だか聞いちゃいけない単語がちらほら。この世界はいったいどうなってるのよ…………」



 各が好き放題言って、収集がつかない中。

 カミラはは実力行使で、場を納めた。

 即ち――。



「――滅殺」



 ビームライフルの銃口をドゥーガルドに直に当て、欠片の躊躇いもなく一射。



「うおおおっ! 危ないじゃないかカミラ! いくら余でも死んじゃう! それ死んじゃう!」



 その刹那、ドゥーガルドは飛び退いて距離を取る。

 そしてついでの様にセーラも連れ去り、首根っこを掴んで盾に。

 目標を見失った緑の殺戮光線は、花壇に命中し、甚大な被害を与えつつ爆散した。



「おお、華麗に避けましたね。カミラ様の話では光の早さ? で飛ぶ銃弾との事でしたのに」



「――――その話が本当なら驚異だな。どう見ても引き金を引いてから動いていたぞ。しかも額に銃口が当たっていたのに。真逆、本当に魔王とでも言うのか?」



「いや、分析してないでアタシを助けなさいよ! というか何でアタシを担いで逃げた!?」



「何って…………人質? これならカミラと言えど手は出せま「滅殺」



 再び引き金を引くカミラ。

 これまた躊躇いゼロである。



「この糞ババア! アタシを殺す気か!」



「躊躇い無く撃ったぞおい! そなたは三歳の頃から変わってないな! そこが頼もしいのだが!」



「ひええっ! こんな危ないモノ渡さないでくださいよカミラ様!」



「文句を言う所が違うだろうアメリ嬢ッ!」



「アンタだって、ツッコム所が違うわよ馬鹿! ヘタレ! 童貞!」



 混迷する周囲を余所に、カミラは静かにセーラへ告げる。




「ごめんなさいセーラ、貴女の事は幸せにしてあげたかったけど。――――私の為に、そこで一緒に散って頂戴。葬式は盛大にするから」




「大ピンチよアタシ! 今こそイヤボーンで覚醒…………いきなり出来たらババアに負けてないわよ畜生! アンタも同じ魔王ってならアイツを何とかしなさいよ!」


「だ、駄目なのだ! 今の余は魔王じゃなくて超能力者として生まれ変わっているから、ちょっと無理!」



「さよならセーラ――――地獄で会いましょう!」



「ド畜生おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


「話せば解るから、ちょっと待つのだカミラ・セレンディア!」


「問答無用! 私達の未来の礎となりなさい!」


「逃げるぞおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


「逃がすかっ! ――傀儡兵っ! アメリも行くわよっ!」


「え、ちょ、まっ! か、カミラ様!? …………あ、あ~~。行っちゃった…………」


 セーラを縦にしながら東屋周辺に逃げまどうドゥーガルド。

 ちゅどん、ちゅっどーーーーんと光線が乱舞し、爆散した花びらが舞う阿鼻叫喚に、ユリウスとアメリは顔を見合わせて頭を抱える。



「どうしましょうユリウス様……、真逆本気でセーラごと殺すなんて事…………するでしょうねぇカミラ様なら……」



「ああ、カミラならやりかねない」



 どうしてこうなった、と嘆きながらユリウスは冷静に思考を巡らした。

 他の生徒達に被害が及ぶ前に、何よりカミラの為に、一刻も早く事態を収束させなければならない。


(仮にドゥーガルドが魔王じゃなくても、あの様子なら暫く持つだろう。セーラ嬢も無事の筈だ)


 眼前では物騒な追いかけっこが続いているが、カミラ傀儡兵と呼んだ鎧達によって、東屋以外とユリウス達への被害はガードされている。


(つまり、カミラはまだ正気だ。俺の話ならば聞いてくれる筈)


 幸いにして、カミラへの絶対命令権と、同じ鎧を来たアメリがいる。


 ――――ならば、取れる手は一つ。


 ユリウスはカミラを見つめ、アメリに言った。



「カミラを止める――――協力してくれるかアメリ」



「はい! 勿論です!」



 そう言うが否や、ユリウスとアメリは駆けだした。

 先頭はアメリ続いてユリウス、そしてユリウスへの流れ弾を防ぐ為に、カミラが残した傀儡兵が護るように随伴。


(きっとこれが正しい選択の筈だ。あの転校生が何者で、カミラとどういう因縁があろうとも、今この場で殺すなんて、カミラに殺させるなんて、駄目だ――――)


 取った行動が、カミラにとって正しい、そして未来の幸せに繋がる事を祈って、ユリウスはカミラへ手を伸ばした。



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