69話 カミラ様は大人げない
ファンタジーと言えば現代兵器だって、知ってるから!
今カミラとアメリは高度一千メートル、空飛ぶ大きな鋼鉄の箱の中に居た。
その鋼鉄の箱は全長が二十五メートルある代物で、両側に楕円の翼の様な何かと、その上に横倒しになった風車の様なものが激しく回っている。
――――即ち、戦闘武装した大型輸送ヘリ。
ババババ、とローター音が激しく鳴り響く中、以外と音はうるさくない。
「その、カミラ様…………わたしは何処からつっこめばいいのでしょう?」
「あら、何でも聞いて頂戴。これから貴女と私は“生死”を共にするのですから?」
戸惑いがちの言葉に、目の前の無骨で大きな鎧。
カミラ曰く、第三次世界大戦時に使用された強襲用パワードスーツ、とやらが答えた。
勿論、中身はカミラである。
聞き捨てならない言葉が増えたことにアメリは危機感を覚えながら、一つ一つ聞き出す。
「では先ず、わたしカミラ様の魔力に当てられて気絶していたと思うのですが、何故今ここでこんな姿
に?」
「あら、遡ったわね。まぁいいでしょう。――答えは、保健室に運ばれた貴女を私が魔法で転移させたからよ」
何を当たり前なことを、と鎧姿で首を傾げるカミラ。
フルフェイス故に表情までは解らないが、いつもの様にドヤ顔をしてるに違いないと、アメリはため息をついた。
カミラの奇行に巻き込まれるのは慣れているが、今回ばかりは第六感が危機を告げている。
「では次にこの変な鎧を、これを着ている理由はなんでしょう? 何か妙に動きやすくて怖いんですが?」
「あら、さっきので解らなかった? これは魔法を使わない替わりに、科学の力で動きを助けてくれる装着型のゴーレム、といったら解るかしら? 少しの間だけど空も飛べて便利なのよ。核にも耐えれるし」
「カクって何――いや、言わなくていいです。聞いたら絶対後悔するヤツですね解ります。――すっごく堅くて便利って事は解りました。それで、こんな物を用意した理由は?」
最後の質問に、カミラは逡巡し。
そして、少し震えた声で答えた。
「――――ごめんなさい、アメリ。私の我が儘で付き合わせて」
「え? いや、何マジ声で謝るんですカミラ様!? 何? そんなに危ない事するんですか!? ねぇ! ちょっと!?」
思わず詰め寄ってカミラの鎧をグラグラさせるアメリに、さらに悲しそうにカミラは言う。
「アメリ、貴女の忠信はいつも感謝しているわ。――そう今も……」
「ぎゃーす! ちょっとカミラ様フラグ! それきっと良くないフラグですからっ!」
「大丈夫、死は怖くないわ。その瞬間はちょっと寒いけど、直ぐに闇の安寧に身を任せる事になるから……」
「死! 死って言いました今! カミラ様ホントに何するつもりなんですううううううううううううううううううううううううううううううううううう!」
「いざという時の為に、貴女の分の遺書も代筆しておきましたし、残されたご家族がきちんと暮らせるように手配はしてきましたわ…………ああ、可哀想なアメリ…………」
「率直に聞きますが、マジで何と戦う気なんですかカミラさままああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」
もはや半泣きのアメリに、カミラは優しく告げる。
「魔王――――魔王ドゥーガルド・アーオン」
「は? それってさっきの転校生ですよね? 何を馬鹿な…………」
冗談きつい、と続け様としたアメリは、カミラの出す威圧感に、その言葉を飲み込んだ。
「――――マジですか?」
「ええ、マジもマジ。一度は殺した筈だったんだけどね。心の安寧の為に、ユリウスの為にもまた殺して置かなくては」
「あー……マジですかーー…………」
カミラの言葉全てに本気を悟ったアメリは、鎧のままで見事な失意体前屈を披露した。
薄々は気付いていたのだ、カミラの人としては異常な力、知識。
それらが魔王に関わりがある事なら、理由がつく…………つくのだろうか?
アメリは新たな疑問を振り払いながら無理矢理納得する。
つまりカミラは、なりふり構わず“敵”を打ち倒しに行くという事だ。
そして、その死への片道切符にアメリを選んだのだ。
――――ユリウスという愛する男ではなく。
(ええ、ええ……。カミラ様、わたしにとって、それはとても光栄な事です――――)
カミラに救われなければ、とうに死んでいた身、その大恩をお返しするのは、今だ。
と、アメリ・アキシアは一世一代の覚悟を決める。
「わかりました。……よく解りませんが、解った事にします。カミラ様がユリウス様の為に、命を賭けようとしているのは理解しましたから」
「アメリ…………」
「カミラ様、わたしの命は貴女と共に。――死が二人を分かつともお側に」
「…………ふふっ。残念だわ、生身であれば、思いっきり抱きしめたのに」
「ええ、残念です。では、帰ってから抱きしめてください」
「そうね。生きて、帰りましょう――――」
カミラとアメリは、視線を交わす。
お互いに顔が隠れ、瞳など見えなかったが、確かに二人は瞳を見つめ合ったのだ。
密かにセレンディア領内の秘密地下基地から発進した輸送ヘリは、そろそろ学園へと差し掛かろうとしている。
AI操作のパワードスーツの一個小隊に降下準備の指示を与えながら、カミラはその時に備えた。
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そろそろレヴューとか誰か書いてくれ!
純粋に欲しい。
……純粋って何だ? 不純があるのだろうか?




