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66話 幕間、お前誰だよ?

お待たせしましたカミラ編開始……と言いながらプロローグ変わりの幕間です。

カミラ様の出番無しでゴザル。



 寒々しい広野に、トランペットのメロディが響き渡った。

 自己主張の激しい、勇ましい音が流れる中、夕日をバックに男が一人歩いている。



「――――俺が、来た」



 周囲に誰か居るでもなく、けれど、無駄に格好いい(と本人は思っている)ポーズをする男。


 その人物の名は――――エドガー・エインズワース。


 ユリウスの義理の兄だ。

 天才考古学者を自称する彼は今、王都から北に遠く離れた山脈の麓。

 かつてカミラが更地にした、魔王城の跡地に来ていた。


「待っていてくれ愛しいジェニファー。これが終わればお前の作ったパインサラダ食べて、結婚を申し込むんだ…………!」


 縁起が悪い、悲劇の場所だから、と、魔族ですら最早寄りつかないそこに、エドガーはたった一人。

 そうとは露とも知らず、好奇心のままに草木一つ生えない窪地を探す。


「話には聞いていたが、本当に何もないな…………噂では、ここらに変な扉があったという事だが――――さては、この俺の天才考古学者っぷりに恐れをなして、扉が隠れているのだなッ!」


 ぷわ~~ん、と再びトランペットを吹き鳴らしたエドガーは魔力を高め、メロディを呪文替わりに魔法を練り始める。



「――――音色よッ! 俺の道を導けッ! 広 域 探 索ううううううううううううううううう!」



 必殺技の様に、言う必要のない魔法名を叫んだエドガーは、魔力の波を自在に操り、範囲一キロの地表、地下を探る。


「うむむ…………成る程成る程…………ふははははッ! やっぱり俺は天才では無いか! 他の盆暗の目は誤魔化せてもこの俺の目は誤魔化せないッ! 見えたぞッ! 例の扉は、こ こ に あ る !」


 エドガーが指さした場所は、真下。


「つーか、足下じゃねぇか! 気付よ俺ッ! くっそう、やけに平らなだなと思ったんだ…………いや、違うな。俺は――――間違ってなんかいない」


 折角のワイルドなイケメンなのに、残念な三枚目。

 それがエドガーである。


「今この瞬間で見つける為に、きっと俺は気付かなかったのだ――――つまりは天命、天運」


 人生エンジョイ勢筆頭候補のエドガーは、ぷわんとトランペットを無駄に吹くと、足下の扉を開き始めた。


「ジェニファーの為ならえんやこーら! えんやこーら!」


 なお、件のジェニファーは売れっ子の高級娼婦で、エドガーがここにいる間に既に身請けが決まり、帰った頃には富豪に嫁いでいた事を明記しておく。



 ――苦節する事、三時間余り。

 

「け、結果オーライだから…………」


 もしかすると貴重な古代遺跡かもしれないモノを、結局は力付くでぶち破ったエドガーは、汗を拭いながら衣服の土埃を軽く落とす。

 いよいよ待望の、未知の遺跡(仮)に突入である。


「ふははははは! 何か大発見でもあったら、一躍俺も超有名人の仲間入り! 金もがっぽがっぽだッ! 待ってろジェニファーああああああああああああ!」


 エドガーは大股で扉の向こうの階段を降り始める。


「ふぅむ…………しかし、これは妙な遺跡だな…………」


 考古学者として、この時代に暮らす人間としても、そこは奇妙な遺跡だった。


「ここは北の大地だからな……寒いのは当たり前だが…………、この寒さはセレンディアで流行の“くーらー”とやらに似ているな」


 それだけではない。

 材質の解らないつるつるとした壁や廊下に、大小様々な“紐”が乱雑に置かれている。


「いや、これは“置かれている”のではないな…………設置されている……“通っている”……か?」


 奥に進む程に冷気が増し、エドガーは防寒の魔法を自身にかけながら進む。

 途中にあった数々の部屋には、緑や赤の灯りが灯るぶぅんと唸る箱が置かれ、そこからも数々の“紐”が延び、廊下の“紐”と合流し。

 それは、奥へ奥へと繋がっていた。


「これは古代文字……、いや見たことないな。よしッ! 神代文字と名付けよう! 考古学的にはこれだけでも大発見だが…………」


 エドガーはニヤリと笑うと、長い旅路で延びきった無精ヒゲを撫でる。


「ああ、楽しいなぁ! きっとここにはもっと凄いお宝があるに違いないッ! さあ、いざ行かんッ!」


 再びトランペットを吹き鳴らすと、エドガーは廊下を恐れずに突き進む。


「きっとこの遺跡は、俺に発見される為にあるに違いないッ! 侵入者撃退用の罠も無いしな!」


 実際の所は、代々の魔王に口伝のみで知らされる魔王城の極秘地下施設であり。

 魔王以外知るものが無い故に、罠の類が無いのだが。

 そも、魔王城跡地だと知らないエドガーが知る由もなく、幸せな勘違いをしながら闊歩する。


「さてさて、ここが最奥かぁ? なーにが出るか…………なッ! そぉいッ!」


 乱暴に推定最後の扉を蹴破った奥には――――『棺』があった。


「むむぅ……、ここは真逆。古代文明人の墓だとでも? ――――ならば、お顔を拝見」


 うきうきワクワク、エドガーは蓋が透明な何かで出来た棺をのぞき込む。


「おおっ! 冷たッ! 魔法かけてなきゃ、指が凍り付いてるなこりゃ…………う、ん?」


 霜を手でふき取り、見えてきたモノ。

 それは――――。




「おーう。まさか死体を冷凍保存してるのか? 何のために? ……しかしまぁ、若いなこのマッパ金髪イケメ………………ン? あ、あれ? 何で目、ひらいて、え? 目が開いたあああああああああああああああああああああああああああああああッ!?」




 瞬間、白い冷気が吹き暴れて視界が零になる。

 続いて、ゴウン、と大きな音と共に、ギギギと棺の蓋が開いた。



「――――余、再臨!」



 死体だと思われた全裸の金髪イケメンが、勢いよく立ち上がる。

 ほんと誰だお前、厄ネタの匂いしかしない。



「いやぁあああああああああああ、死体がしゃべった動いたああああああああああああああああああッ! 助けてジェニファーーーーーーーーーーーーッ!」



 だが現実は非常に非常、そのジェニファーは他の男の腕の中。

 ともあれ。

 想像を越えた非現実的な出来事に、エドガーは気絶しする。

 なお、彼の弱点はホラーである事を明記しておく。



 ――――そしてこの少年が、彼の人生を一変させ、更にはカミラ達の学院に嵐を呼び起こす事など、知る由もなかったのである。



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なろうでブクマするだけで、作品に2pt入ります。

感想と同じく作者の活力となるので、気に入って頂けたならどーぞ!


ストックが完全に切れるまで、毎日投稿です。

なお、今月半ばにはストック切れて自転車操業に移る模様

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