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65話 ユリウスの受難の始まりは、ここからだっ!

言うまでも無く、カミラ様の愛は重いっ!

命より重いのだっ!




「成る程…………アンタさては馬鹿ね」




「うぐっ…………こ、恋いをする乙女はっ! 全てが愚かなのですからっ!?」


「声震えてるし、裏返ってるはよ若作りババア」


「この体は正真正銘、十六才ですっ! ですっ!」


 目を反らしながら言うカミラ。

 ユリウスとの間にあった事を話した途端、セーラから放たれた言葉に、まともに反論すら出来ない。


「アイツをけしかけたのはアタシだし、アンタらの仲が面白可笑しい事になればいいとも思ったけど…………アンタそれはないわー」


「だ、だって恥ずかしい……って、何そんなあきれ果てた顔してるのよっ! 仕方ないじゃないっ!?」


「いや、アンタの言い分は解るし、境遇も少しは理解してるからさ同情もするけど、それにしてもないわー」


 マジないわー、と冷たい視線に、カミラは縮こまる。


「考えてもみなさいな。これまで色事に疎かった童貞を散々誘惑した挙げ句、土壇場になって逃げ出すとか悪意が無い分、余計に悪いわよ」


「…………ぐぅ」


「ぐうの音出しても、状況は変わらないわよ。アイツは何が何でも今捕まえるつもりよ。これからどうするのよ?」


「うぅっ……、それが解らないから逃げた挙げ句に相談してるんですわっ! ……何かいい方法ありませんか?」


 しょぼくれたカミラに、セーラは盛大なため息を一つ。

 これが本当に、魔王を殺してまで一人の男に執着した女の有様だろうか。


「こっちも乗りかかった船だし。ひとまず状況を整理するわよ」


「はい……」


 カミラは藁にも縋る思いで答える。


「先ず第一に、アンタはアイツが好き。今すぐ結婚してもいいくらいに好き、でいいわね」


「はい、来世まで、地獄の底まで一緒にいる覚悟があります……」


「その覚悟があって、何で逃げるのよっ! この馬鹿ババァ!?」


「だって仕方ないじゃないですかっ! 体が勝手に逃げちゃったんですからっ!」


 ガルル、ガオーとにらみ合う二人。

 一瞬後、最初に目を反らしたのはカミラ。

 そしてセーラは勝ち誇りながら次へ進む。


「勝った! …………じゃないわ、んで次よ次。アイツはアンタの事が好きだってはっきり言ったわ。そして王子に頭下げてまで、アンタを捕まえる協力をして貰ってた」


「…………ユリ、ウス」


「更に言えばよ、自分はカミラの側にいるから、王子に仕えられない、とも言ってたわ」


 その言葉に、俯きがちなカミラの顔がガバっと上がる。

 目の奥に、爛々と炎が燃え上がり始める。

 その様子に、セーラは再び呆れた顔をした。


「…………いやいや、アンタ現金過ぎでしょ」


「いやん、いやん。えへへ、そんな…………」


「ええい気持ち悪いっ! 体をくねらせてデレデレすんな阿呆っ! 何のために話してると思ってんのよっ!」


「ふふっ、ごめんなさい。でも嬉しくて……」


「嬉しくてもアンタの場合は喜ぶな、どーせ、今のままだと抱きついた後に恥ずかしくて逃げ出すのがオチよ、オチ」


「あ、う…………」


 セーラの鋭い指摘にカミラの表情が強ばり、ガクっと白いテーブルに突っ伏す。


「よしよし……ホント、馬鹿ねぇアンタ……」


 その優しい声と、頭をなでる手の暖かさに。

 カミラは不思議と、安堵を感じてしまった。


「へんじがないただのしかばねのようだ」


「懐かしい事ホザいてんじゃないの…………でもまぁ……」


「まぁ、何です?」


「前世通じて、アタシらの様な人種はまともな恋をした事なかったし、説得力無いかもしれないけどさ」


 セーラは、カミラにとって懐かしい声色で続けた。


「恥ずかしいって、逃げちゃうなら。いっその事逃げて逃げて、遠いところまで逃げて、忘れてしまったら? 少なくとも、アタシは責めない」


「…………逃げても、いいの?」


「ええ、これはアンタとアイツの“恋”だもの。アンタの自由にすればいい」


「逃げたら…………どうなるでしょう……」


 カミラの呆然と出された言葉に、セーラは高確率で予想される出来事を列挙する。


「間違いなくアイツは悲しむでしょうね……、それだけじゃない、アメリや他のヤツらもきっとそうね。――アンタの今の両親だって、前世の両親だって草葉の影で悲しみ呆れるわよ」


「悲しむ……」


 心に染み込ませる様に呟くカミラに、セーラは鋭く突きつける。


「そしてきっと、アイツはアンタを探しに旅に出るわ。当てのない旅よ、もしかしたら途中で魔族や盗賊に襲われて死ぬかもしれない」


「ユリウス様が――――死ぬ」


「そうなれば、まだいいかもね。最悪――――アンタに失望して、忘れ去って、思い出にして…………誰かと結婚するかもね。……ああ、そうなったらアタシがコナかけとこうかしら?」


 嘲笑するように出された想像が、カミラの心に染み渡る。


(嗚呼、嗚呼、嗚呼、嗚呼っ! 失望され、忘れ去られ、ユリウス様が他の女に盗られるっ!?)


 カミラの瞳に、暗い炎が灯り、拳がきつく握られる。


「――――駄目よ」


 ふつふつと沸き上がる憎悪を糧に、カミラはのっそりと、幽鬼の様に体を起こす。



「そんなの――――絶対に、許せない」


 

「許さないって、アンタどうするのよ。恥ずかしくて側にいられないんでしょ?」


 呆れた様なセーラの声、しかしそんなモノに何かを感じる事無く、カミラの思考は激しく回転を始める。


(嗚呼、嗚呼、嗚呼…………。私とした事が手抜かったわ)


 色に惚けていた。

 現状に満足していた。

 ユリウスから向けられる想いが永遠だと感じていた。

 でもそれは――――慢心他ならない。

 カミラは勢いよく立ち上がる。



「ふふふっ、うふふふふふふふふっ、ふはははははっははははははははははははは――――っ!」




「…………しまった、何か地雷踏んだぞこれ」



「いいえ、いいえっ! ありがとうセーラ様っ! うふふふっ! ふふふふふふっ! 嗚呼、そうでした。そうでしたっ! この世に絶対はありませんモノね。ええ、ええ、認めましょう。礼を言いましょうっ! ――――確かに私は、慢心していた」



「え、慢心? アンタいったいどーゆー解釈したらそんなんになるのよっ!」



 どん引きしながら叫ぶセーラに、カミラは悪役全開の悪い笑みを向ける。



「ここ最近の私は、特に今日の私は、私らしくなかったわ…………」



「いやいやいやっ! どう見てもアンタはアンタだったよ!?」



「ユリウス様を落とした先を考えてなかった? 一緒にいるのが恥ずかしい? 嗚呼、嗚呼、嗚呼、とても、とっても可笑しいわ」



「可笑しいのは今のアンタだ糞ババア! ――――畜生っ! 聞こえるみんなっ! 今すぐこの東屋を包囲してユリシーヌを呼んできなさいっ!」



 セーラは回りに潜んでいた生徒向けて叫ぶ。

 生徒達もセーラの声に従い、ユリシーヌを呼びに行った一人を残して、東屋の周りを包囲した。

 続々と生徒が集まりつつ中、カミラは止まらない。



「ええ、そうよ。そうだわ…………私は今まで、あの愛おしい人の側にいる為だけに力を手に入れ、行動してきた。――――迂闊にも、それを忘れていたわ」



「何かヤバイ事言い出したわっ! 誰か早くアメリでもいいから今すぐ連れて来なさいっ!」



「嗚呼、嗚呼、嗚呼――――っ! そうよ、恥ずかしくて側にいられない? それでも“側”に居ればいいのよっ! 側に居させればいいのよっ!」



 周囲がざわめく中、カミラは手首に付けたままの手錠の片割れと鎖を、愛おしそうに眺める。

 これを使用させたセーラには感謝しなければならない。



「うふふっ、ありがとうセーラ。これで私はまた一つ、愛を深められる」



「これ以上まだ深める気なのアンタ――――ああ、もうっ! これだから天然ヤンデレはっ! あ、やっときたアメリ、この女どうにかしなさい!」



「うげっ! あれは相当に駄目な事を思いついた時のカミラ様ですよぉっ! もう手遅れですっ! もう直ぐユリシーヌ様が来ますから、セーラもこっちに待避してくださいっ!」



「わ、わかった! ――じゃあアンタ、そこを動かないでよねっ!」



「ええ、聞こえていましたわ。ユリシーヌ様が来るのでしょう。――――ふふっ、楽しみだわ」



「ひぃっ! そんな顔じゃ百年の恋も覚めればいいのよっ!」



 そう言い捨てて、包囲網に加わったセーラを眺めながら、カミラは駄目押しの策を思いつく。



(そうね…………、誰かに盗られる可能性を知れたのは僥倖だわ。この際だから、最後の外堀も埋めてしまいましょう)



「ふふふっ、ふふふふっ。嗚呼、嗚呼……、ユリシーヌ様はまだかしら」



 カミラは胸を高鳴らせて待つ。

 勢いに任せて行動している気がするが、これはきっと神の一手。

 たった一つの冴えたやり方なのだ。

 不気味な笑いを漏らすカミラに、全生徒が不安を感じる中。



 そして、――――包囲する群衆をかき分けて、ユリシーヌが登場した。



「――――もう、逃げられませんわカミラ様」



「ええ、もう逃げられませんわユリシーヌ様」



 カミラは険しい顔のユリシーヌに相対する。



「では――――」



「――――少し、お待ちになってくださいなユリシーヌ様」



 何かを言い掛けたユリウスの言葉を遮り、カミラは笑う。



「何でしょう、今この場でやる事があるのですか?」



「勿論、この場で無いといけません」



 カミラの様子を伝えられていたユリシーヌは、何を企んでいるのかと、戦々恐々しながら承諾する。

 どうせ、この後は窓のない密室で話をする予定だ。

 ――――だが、それが“ユリシーヌ”としての命取りになった。



「…………この東屋の回りには全生徒がほぼ集まっています、その事をお忘れ無きよう」



「ふふふっ。だからですわ。――今から私は、貴男に愛を捧げ一生側にいると。“全生徒”に誓います」



「自ら逃げ道を無くす、という訳ですか。…………判りました。ご存分に」



 カミラはユリシーヌから視線を外して、生徒達を見渡す。

 そしてを無詠唱で“念話”をゼロス王子に繋ぐ。



(ゼロス殿下、ゼロス殿下。聞こえていまして?)



(……どうした、俺とヴァネッサも今着いた。観念した方がいいぞ)



(ふふっ、観念しましたとも。――つきましては、この場で全生徒がほぼ集まっているこの場で、“ユリウス”に愛を誓いたいと思います。ので、適当な所で口裏合わせを合わせてくださいな)



(…………やれやれ、ユリシーヌも大変だな。それでお前達が上手くいくなら好きにやれ、口裏ぐらい合わせてやる)



(有り難きお言葉、感謝しますわ)



 カミラは“念話”を切るとほくそ笑んだ。

 どうやら王子は、カミラが態と“ユリウス”と呼んだ意味に気付かなかった様だ。

 ――軽い、意趣返しというヤツである。


 王子達が包囲網の最前列に来たことを確認すると、カミラはアメリやセーラに笑いかける。

 そして、全生徒に聞こえるように“拡声”の魔法を使う。



「――――お集まりの皆様、今回はこの様な騒ぎに巻き込んでしまった事、先ずはお詫びいたします」



「誠に、申し訳ありませんでした」



 優雅にお辞儀をするカミラの姿に、生徒達のみならず、アメリ達もざわめく。

 無理もない、カミラがこの様に頭を下げる場面は近しい彼らにとっても初めてなのだ。



 頭をゆっくりと上げたカミラは、堂々と胸を張り語りかける。



「そして皆様、今しばらく。私の話を聞いて頂けないでしょうか」



「――――知って欲しいことがあるのです」



 生徒達は何事かと、互いに顔を見合わせた。

 アメリ等は、何をやらかす気だと目を白黒させて戦々恐々と。

 カミラはそれらを微笑みながら見つめ、数秒後、群衆が静まった頃を見計らって続きを話し始める。



「先日のトーナメントの折りに、このユリシーヌ様は私の婚約者のふりをするために男装をして、共に戦ってくれたのは、皆様の記憶にも新しい事でしょう…………」



「今、あえて言いましょう。私、カミラ・セレンディアは――――」




「ユリシーヌ・エインズワース様という一人の人間を愛しています」




 告げられた言葉に、生徒達のざわめきが大きくなった。

 やっぱり、禁断の、純愛、禁忌、様々な声が聞こえてくる。

 カミラはそれらを遮るように、静かに声を差し込む。



「――――ですが、それだけではありません」



 皆が一瞬にして静まったのを見計らって、カミラは爆弾を投下する。



「私は、知ってしまったのです」




「ユリシーヌ様が、本当は“男”である、と」




「か、カミラ・セレンディア!」



 ゼロス王子の焦った声が響きわたる。

 それが故意であれ、失態であれ、事実を公定していると群衆は受け取った。



「――――カミラ様っ! どういう事ですかっ!」



 慌てて詰め寄るユリシーヌに、カミラは悲しそうな顔を生徒に見える角度でする。



「申し訳ありませんユリシーヌ様…………貴女が聖剣を受け継ぎし者が故に、赤子の頃“魔族の呪い”により“女”にされた事は、王家の秘中の秘である事は承知しております」



「な、それは――――」



 嘘だ、とユリシーヌは言えなかった。

 言ったところで最早手遅れであり、何より、カミラの瞳の奥に、縋るような光を感じたからだ。


 ユリシーヌの手を盗り、再び生徒達に向き合ったカミラは、いけしゃあしゃあと嘘を付く。



「私はこの事実を、トーナメント決勝で対峙した、セーラ様を操っていた“魔族”から直接聞きました」



「その魔族は言いました。――――その呪いをかけたのは自分だと、そして、その魔族を倒した私には“呪い”を解く事が出来る、と」



 カミラの嘘が、生徒達に染み渡る。


 即ち、ユリシーヌは赤子の頃に“呪い”で“女”にされ、それゆえ“女”として育った。


 カミラはその事を、トーナメントまで知らなかった。


 そして今、カミラはその呪いを解く事が出来る。



 生徒達は、真逆という顔つきでカミラとユリシーヌを見つめる。

 逆に事情を知る者は、あんぐり口を開き、はたまた笑いを堪えて、カミラ達を注視した。




「今一度言いましょう。――私、カミラ・セレンディアはユリシーヌ・エインズワースを愛しています」




「たとえ、彼女が――――“男”に戻ったとしてもっ!」




 正々堂々たる言葉に、割れんばかりの歓声が上がる。

 いつの時代にも、他人の恋路は恰好の娯楽である。

 カミラは声援に答えるように手を挙げ、高らかに宣言した。




「今より、ユリシーヌ様を“男”に戻しますっ!」




 ユリシーヌに向き合うと、カミラは毒華が咲くように微笑んだ。


「――言ったでしょう? もう逃げられないって」


 繋いだ手から、カミラの無意識の不安を感じ取ったユリシーヌは、ただ苦笑して受け入れた。


「ああ、その通りだ。――お前には負けたよ。何処までも付き合ってやるさ」


「ありがとうございます。とても嬉しいですわ、なら、文字通り“人生”の最後までつきあって貰います」


「ああ、…………うん? 人生?」


 カミラの言葉に、非常に不安になる何かを発見したユリシーヌだったが、時は既に遅し。

 手をがっしり握られて、逃げる事も、問いただす事も出来ない。




『我は邪悪なる魔を打ち砕く者也――――』



『我は歪められた運命の楔を解き放つ者也――』



 カミラの呪文詠唱が東屋一帯どころか、学院中に響きわたる。

 そして、巨大な魔法陣が足下に広がり、天から光が射し込む。

 なお、呪文はすべてフェイクであり。

 勿論の事、魔法陣等は演出である。



『我は誓う、この存在総てを持って彼の者を救わん事を――――』



『我は誓う、愛する者に総てを捧げる事を――――』



 カミラの心臓部から、魔力で編まれた鎖が延び、ユリシーヌの心臓部に繋がる。

 そこで初めてユリシーヌは、カミラがこの場を演出する“以外”の魔法使っている事に気付いた。



「またお前は新しい魔法を生み出して…………、でも、いいさ。お前がする事なら何でも俺は受け入れよう」



 仕方がないという言葉とは裏腹に、暖かな顔で笑うユリシーヌに、カミラも優しく笑い、最後の呪文を完成させる。




『森羅万象に我は誓う、この者と生涯を共にせん事を――――』




 瞬間、魔法陣が一際眩く発光して、全生徒の視線を遮る。

 その効果は一瞬。

 だがその一瞬でユリシーヌはユリウスの姿に変貌し。

 そして、心臓と心臓で繋がる鎖が実体化したあと、虚空に溶けた。

 光が止み、群衆が見たものは、トーナメントの時にみせたユリウスとしての姿。



 ――――“男”に戻った、本当のユリシーヌの姿であった。



 生徒達は、魔族の呪いに打ち破った勝利に。

 一人の人生が正された正義に。

 そして、カミラの“純愛”に、惜しみない拍手と賞賛を送った。



 祝福ムードに入った周囲に、ユリウスは空気を読んでカミラを抱きしめる。



「ありがとう、と言うべきなのかな俺は」



「ええ、そうするべきね。なんたって貴男は、男としての立場を取り戻せただけでなく、私の体の“支配権”まで手に入れたのだから」



「成る程、そうだ………………支配、権?」



 うん、あれ? ううん? とユリウスは必死に聞き間違いを目で問いかけるが、カミラは歓喜の笑みを浮かべるばかり。

 なので、率直に聞き返す。



「…………すまない。少々聞き取れなかった。俺は男としての立場の他に、何を手に入れたんだ?」



「ですので、私のこの体への“支配権”ですわ。“絶対命令権”と言った方がいいかしら?」



 ――――支配権

 ――――絶対命令権



 真逆、と考えるまでもなかった。

 カミラの“本当”の目的は“これ”だったのか、とユリウスは叫びだしたいのを必死に耐えて、笑顔を維持する。



「ちなみに聞くが、効果は?」



「ですので、私の肉体をユリウス様の思い通りに出来る“魂”の従属魔法です」



 本当の効果は厳密に言えば違うのだが、概ねこんなモノである。



「馬鹿だろうお前は…………後でいいから絶対解除しろ」



「いいですが、その場合――――死にますわ。私もユリウス様も」



 にこにこと恐ろしい事を言いながら、カミラはユリウスに追い打ちをかける。



「なお、何らかの原因でどちらかが死にますと、もう片方も死にますし。ついでに言えば、来世まで一緒となる様にしておきました」



「お、おま――――ッ!?」




「――――未来永劫、幸せにしてくださいね? 私も、ユリウス様を幸せにしますから」




「~~~~~~~~~~~~~~~~ッ!?」




 突きつけられた事実に、ユリウスは天を仰いだ。



(こ、この女は…………ッ! 自分の逃亡防止の為にここまでするのかッ――――――!?)



 驚きと呆れと、それから嬉しさと。

 ない交ぜになって、何を言えばいいか解らないユリウスは、抱きしめているカミラが不安そうに震えているのに気付いた。



(…………この馬鹿は、ここまでやっておいて、まだ何か不安なのか)



 ユリウスは軽くため息をつくと、カミラを強く抱きしめてゼロス王子達に、生徒達に顔を向ける。

 カミラがここまでしたのだ、自分もそれに“男”として答えるべきなのだ。




「皆の者よッ! 見ての通り、私――いや、俺は今ここに本来の性別を取り戻した。――――カミラの愛の力で、だッ!」



 ユリウスの声に、観衆が更に沸き上がる。

 カミラを安心させるように、しっかり抱きしめると、ユリウスは宣言する。




「カミラが皆に宣言した通り、俺も皆に誓おう! この命果てるその時も、その先もッ!」






「俺は今と変わらず、いいや、それ以上にカミラを愛し、護り、一生涯側にいる事を誓う!」




 


 その瞬間、生徒達の歓声は学院の外を越え、王都中に響きわたったという。

 耳が割れんばかりの祝福に、ユリウスはカミラを見つめる。



「ユリウス様…………私、私…………」



 はっきりと言い切ったユリウスの姿に、カミラはの涙腺はあふれ出した。



「お前はまた、泣くんだな。…………でも今日は嬉しそうだから許してやる」



「私、嬉しそうに泣いているんですね……」



「ああ、そうさ」



 はらはらと、幸せな顔で紛れもなく嬉し涙を流すカミラに、ユリウスは今までで一番、幸福だと感じ、故にその瞳を見つめる。



「今からキスするぞ――――“逃げるな”」



「はい。ユリウス様の望むがままに…………」



 近づくユリウスの顔に、今度こそカミラは顔を背けなかった、抵抗しなかった。



(これはきっと“命令”されたからではないわ……)



 ゆっくりとカミラとユリウスの顔が近づき、群衆が見守る中、やがてその距離が零となる。

 名残惜しそうに顔を放した二人に、アメリ達が駆け寄ってきた。



「愛しているわ、ユリウス」




「愛している、カミラ」



 二人は生徒達にもみくちゃにされながら、幸せを享受したのだった。





 ~第一級歴史資料、アカシア家令嬢アメリの手記から抜粋~



 思い返せば、この日こそカミラ様が“純愛令嬢”と呼ばれた由縁かもしれない。

 だが、きっとユリウス様の本当の苦難は、ここから始まったのだろう――――――。



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ユリウス編、とうとう完結致しました!

カミラ様の恋路、どうだったでしょうか?

楽しんで頂けたなら幸いです。


キリがいいので、皆さま周りに勧めていいんですよ?|д゜)


ユリウスとカミラが恋人になった所で、まだまだ問題は山積み? です。

まだまだ、お付き合いくださいな!


それでですね。

物語はこれより後編、世界の秘密とカミラ様の過去に迫る、カミラ編に入りますが。

プロットを整える為に、少し時間を頂きます。


総合日刊で一位取ったとか、珍事が起きない限り。

最短で来週半ば、遅くとも七月三日(月曜)までに再開します。


ではでは。

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