表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

62/141

62話 カっ、カミラ様ああああああああああああああああああああああああああああ!?

昨日、シリアスだと言ったな……あれは嘘だ!



(――――――――――オマエヲ、ダク?)



 喜びと悲しみの海に沈んでいたカミラの思考が、ピタッと止まった。

 いったい、愛おしい男は何を言っているのだろうか?



(オ、マエヲダク? オマ、エヲダク? オマエヲダ、ク? うん? あれ? 何で私運ばれてるの?)



 ユリウスに言葉の意味も意図も解らず、目を白黒させる。

 ――オマエヲダーク、何かの必殺技だろうか?



(…………って違う違う違うっ! え、何何何何いいいいいいいい? いったい今の会話でどどどどどどどどどっ! どういう結論を出したらそういう事になるのよっーーーーーーーーーーーー!)



 あっと言う間にベッドまで運ばれ、乱暴におろされたカミラは、慌てて制止をかける。



「ちょっとっ! ちょっと待ってユリウスっ! いったい何でいきなりヤル気をだしているんですわっ!?」



「あ、いつもの感じに戻った――――じゃない。……俺はな、カミラ。お前を悲しませたくないんだ……」



「何キメ顔で言ってるのっ! 明らかにそーゆー雰囲気じゃなかったじゃないっ!? ――――ひゃん」



 押せば倒れるもの、混乱しているカミラは安易に押し倒され、濡れたままで余計に扇情的な白い裸体を晒す。



「何を言う、そういう流れだったぞ…………たぶん」



「あ、多分って言った! 多分て言ったぁっ!」



「気にするな。――――初めてだけど、頑張るから」



「私も初めて――――じゃっ、なあああああああああああいっ! ちょっ! こらっ! やめっ! へんなとこ触らないでっ!?」



 最早、照れだとか遠慮だとか無しに乳房などに手を伸ばすユリウスに、カミラは必死になって抵抗する。



「触んないと楽しめないだろう? さあ、俺の色に染め上げてやる……ッ!」



「童貞が何を生意気言ってるのよっ! っていうか待って、ホント待ってっ! いったん整理させて!?」



「お前だって処女だろう…………はぁ、まぁいいぞ、言って見ろ」



 譲歩したと見せかけて、ちゃっかりカミラの両手首を掴み、頭の上で押さえるユリウスに。

 ――――あれ? これ駄目じゃね?



 と、手遅れの現実から目を必死に反らしつつ、カミラは記憶を手繰り寄せる。



「先ず…………、私はサロンでアメリとお茶をしていたわ」



「どこまで遡るんだバカミラッ!」



「――――とうとう呼び名まで遠慮が無くなったっ!?」



「いいから、進めろ」



「うう、何か思ってたのと違う…………」



 ユリウスと以前にも増して親密? になったのは嬉しいが、どんどん扱いが雑になっている気がする。

 ――――人はそれを、自業自得と言う。



「状況は整理できたか? なら…………」



「わ! わっ! 続けます続けますからまだ待ってっ! え、ええっと…………その、まず、私は貴男が好き、愛してるわ」



「俺もお前が好きだ。――なら、何の問題もないな」



「あ、たしかに――――じゃないっ!?」



「……ちッ」



「ひーん、そんなギラついた目で舌打ちしないでくださいカッコイイっ!」



「ふぅん? 俺の視線で感じた?」



「は、はいぃ…………でもなくてですねっ! あっ! ちょっ! まだ駄目ですって、手ぇっ! 手っ! そんなに強く揉まないで痛いです童貞っ! 話だってまだです童貞っ!」



「童貞童貞連呼するなッ! お前だって処女の癖にッ!」



「えー、えー、そうですともっ! 処女ですものっ! 確かに誘ったのはこっちですけでど、もうちょっと雰囲気整ってからにしてくれません――――かっ!」



 カミラはキスをしようとしたユリウスの顔に、ゴンっと頭突きする。

 間髪入れず、自由な足でユリウスの体を退けようと頑張る。



「あだッ!? ――――うわッ! こらッやめッ! ええいッ! おとなしく抱かれろバカッ!」



「私の処女は安くありませんわっ! ユリウス様にだけに――――」



「――――俺がそのユリウス様だが?」



「……………………あれ?」



 じゃあ、いいのか?

 とカミラの心のストンと、謎の納得が入る。



「あ、ええと。…………ユリウス様はさっき私が好きって言った………………あれ? 好きって言った! 言ったッ!? え、あれぇっ!?」



「いまさら驚くなバカミラッ! 風呂でも言ったし、側にいて護るって言っただろう! お前を知りたいともッ! ――――だからお前の肉体を隅々まで知るついでに、お前に俺に抱かれる“幸せ”を刻み込んでやるッ!」



「きゃっ! 素敵ユリウス様っ! ………………んん?」



 抵抗していたカミラが、思わず止まる。



(という事は真逆、真逆真逆真逆真逆真逆真逆真逆っ!? 両思いになったのっ!? え、嘘っ!?)



 そんな馬鹿な、とカミラは恐る恐る口を開く。



「…………も、もう一度確認していい?」



「ああ、手短にな」



「私は貴男が好き」



「今では凄く嬉しいぞカミラ」



「そして貴男は私が好き……」



「全身全霊で幸せにするから、覚悟しろよ」



 情熱的に言われた言葉に、カミラの顔が、それどころか全身が赤く茹で上がった。



「――――――ぁぅ」



(こ、こ、こ、これは…………私、もうゴールしていいいの?)



 別に、ちょっと。ほんのちょっと混乱しただけで、先ほどの浴室での会話を忘れた訳でも、理解していなかった訳でも無い。

 だだ少し、脳に染み渡るのに時間がかかっただけだ。



(という事はつまり……そういう事なのね)



 放課後のティータイムからさほど時間が過ぎ去ってはおらず、まだ日は高い。

 だがこれは所謂――――。



( 初 夜 ! )



 好きになって貰う事だけ、籠絡する事だけ、ユリウスを日の当たる場所に引き吊り出す事だけ考えていたカミラだったが。

 だから、そうなのだと判断して、驚喜して受け入れた。



(うう…………、何だか凄く恥ずかしいけど……女は度胸っ! 嗚呼、嗚呼っ! 胸が高まりすぎて苦しくなってきたわっ! これが“幸せ”なのっ!?)



 深呼吸を一度、瞳も一度閉じて、ゆっくり開く。

 目の前には、水が滴り中性的な怪しい色気を増した、愛する男が一人。



「…………ごめんなさい。少し、取り乱したわ」



「少しでは無かったが……まぁいい。落ち着いたか?」



「ええ、私に刻んで? 貴男の言う“幸せ”を――――」



 ユリウスの頬に手を添え、真っ直ぐ瞳を合わせるカミラに。

 そっと、ユリウスは顔近づける。



「カミラ……」



「ユリウス……」



 彼我の距離が零になり唇と唇が――――。



「…………あ、あれ?」



「カーーミーーラーーッ!」



 唇と唇が、重ならなかった。



「何故避けるッ!」



「も、もう一回ッ!? い、今のはちょっと恥ずかしかっただけだからッ!?」



 二人の間に微妙な空気が流れ、でも再度顔を近づけて…………。



「カミラ」



「ユリウス」



 ――――そして、重ならなかった。



「だから避けんじゃないッ!」



「あ、あれっ!? あれれっ!?」



 ドキドキバクバク、カミラの心音は際限なく高まっていく。



(すっっっっっっっごく恥ずかしいいいいいいいいいいいいいいいいいっ! な、何でぇっ!?)



 ユリウスの熱い吐息、発情している高い体温。

 情欲まる出しの視線、切れ長の睫。

 ともすればカミラより形のいい唇。

 何故だか、見慣れた、慣れた、その全てが恥ずかしい。



「ああ、ううぅ……ご、ごめんなさいぃ……何だか正面から貴男の事、見れない…………」



「お前……散々あんな事しといてそれか……」



 呆れた様に出された言葉すら、今のカミラには羞恥を煽る興奮剤でしかない。

 恋人握りをしている手錠を填めた手が、この上なく熱い。

 


(不味い…………うぅ、これはとてつもなく不味いいぃ…………)



 心臓がばくばくばくばくばくばく、ユリウスに伝わるくらい早鐘を打ち。

 脳髄をきゅーっときて、かーっときて、くらくら目の前が回り出す。



(絶対っ! 絶対駄目になるぅ! 心の底よりもっと深い、何かを曝け出してしまうような気がするぅっ!)



 愛しい人に抱かれて、人生幸せゴールインどころか。

 その愛に未来永劫、従属し、支配され続けてもいいという躯の叫びが、嫌じゃない感じが特に不味すぎる。

 何が不味すぎるか解らないが、とてつもなく不味い。



「…………じゃ、なくなる……」



「何だ、もっとはっきり――――」



 ため息混じりに聞き返すユリウスに、カミラは衝動のまま叫んだ。




「わ、私が私じゃなくなる気がしてっ! あのっ! そのっ! ――――――――ご、ごめんなさいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!」




 直後、カミラは魔王の力の最大出力で、無理矢理、破壊不能な手錠をぶち壊すと、ユリウスの下から抜け出す。



「えッ!? おまッ!? ――――はあああああああああああああああああああああああッ!?」



「て、撤退いいいいいいいいいいいいいっ!」



 ユリウスが驚き叫ぶ間の刹那に、魔法で制服を修復、そして瞬間的に着装。

 部屋の窓ガラスを打ち破り、外に出た。



 そして部屋に残されたのは、両思いになったのに、両者裸でベッドにいたのに、童貞を捨てられなかった哀れな女装美少年独り。



「あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あのヘタレオンナああああああああああああああああああああああッ!?」



 こうなったらもう、男の意地だ。

 追い回してとっ捕まえて、何が何でもやり直す。

 男の純情を前にヘタレた罪を、その躯で味あわせてやる。

 そう決意したユリウスは、即座にアメリとセーラに“念話”で連絡と取る。


(おい、応答しろアメリ嬢ッ! セーラ嬢ッ! 緊急事態だッ!)

 

(はいはーい、どしたの?)


(今、部屋の窓ガラスが割れた様ですが? 何かあったのですか?)


(何があったってッ! ありまくりだ馬鹿野郎ッ! あのオンナ、最後の最後にヘタレて逃げだしやがったッ! 捕まえるから協力しろッ!)


(――――ぷっ! ぶははははははははっ! やーいやーい! 童貞留年ご愁傷様でーーーーす!)


(五月蠅いッ! こんちくしょうッ!)


(ええ…………、カミラ様ぁ…………ああ、うんはい。カミラ様が何処に行ったか解りますか?)


(解らないから聞いているッ! それから服借りるぞッ! あのオンナ、自分のだけ修復して逃げたからな……)


(アンタ達……ぷっ、くすくすくすっ……どんなプレイしてたのよ…………)


(詳細を聞くのは後にしましょう……カミラ様……貴女とは長い付き合いでしたが、真逆ヘタレだったとは…………っと。カミラ様の居場所ですね、お二人の手錠の輪には、念のために発信器を仕込んでおります。それを辿れば…………あれ?)


(用意が良いわねアンタ…………で、場所はどこよ?)


(えっと、それが……何故かカミラ様の魔力が反応しずらくて……故障しましたかね?)


(アイツ、ミスリルの手錠引きちぎってったからな……、故障もありえるか……、わかった合流しよう。すぐここに来てくれッ!)


(どうせ今裸なんでしょ? こっちも急ぐけど、アンタもとっとと着替えなさいよ)


(言われなくてもッ!)


 “念話”の魔法を切り、ユリウスは着替えるべくカミラのクローゼットを漁り始めた。



ブックマークは一番上左

感想レビューは一番上、最新話一番下

評価欄は最新話下


今明かされる衝撃の真実ぅ!

ま、まさかカミラさまがヘタレだったなんてーー(棒)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ