60話 ユリウスは覚醒する……これが第二段階ユリウス様だっ!
先日、今後の更新予定っぽいのを割烹に上げときました。
ざっくり言うと、土日はお休みにしますん!
「一緒に風呂に入るが、勘違いするなよ俺たちの魔女。取りあえずそこには疚しい事など、無い」
脱衣所にカミラを運んだユリウスは、自らが先に裸になった後、カミラの拘束を外した。
――無論、手錠は別だ。
「……ぷはっ。いやんユリウス様の――――っ!?」
――――ちゅっ。
「――――取りあえず黙れ」
「ゆ、ゆりうす、さ、ま…………」
何かを言い掛けるカミラを、額にキスして黙らす。
カミラとしては、勢いに任せ抱きつこうとした矢先であった為、出鼻を挫かれた所か。
重いパンチを貰うのと同じ衝撃で、くらっとふらついた。
(れ、冷静になれば、お、俺だってこれくらい出来るんだからなッ!)
開き直ったユリウスの中には、今までの経験が渦を巻き発揮する。
――押し進める遣り方は、カミラが身を持って体言していた。
――困ったら、キスをして黙らせろ。~~とある王子の言葉~~
(殿下、ありがとうございますッ! ――お前の言う事は本当だった…………!)
つまりカミラは、ユリウスを追い詰め過ぎたのだ。
カミラが翻弄出来たのも、ユリウスが好意に戸惑い、自身の気持ちも把握出来ていなかったから。
そういう意味でも、ユリウスは今、カミラと同じステージに上がったのだった。
「何時までも裸だと冷える、中に入るぞ」
「きゃうぅ!? は、はぃ…………」
浴室の中に入ると中の湯船には既に、お湯がわき始めていた。
中世ファンタジーにあるまじき、全自動機能がカミラの趣味で付いているのだ。
望外の幸せで、されるがままのカミラを椅子にすわらせ、ボディソープをスポンジに付けて泡立てて。
ユリウスは鋭い視線で、カミラの背後に陣取った。
「片手が使えないのは、思ったよりやりにくいが――――じゃあ、洗うぞカミラ」
「お、お願いします…………?」
頬を染めて、きょどきょどするカミラに。
これが愉悦というものかと、ユリウスは新たな扉に覚醒しながら、食い入る様に真っ白い背中に注目する。
「ああ、これが俺の為に育てたとか言う体か…………すんすん…………ぺろっ」
ユリウスはスポンジで洗う前に、左右の肩胛骨を人差し指で撫で、さすり、軽く押し。
そして顔を毛穴が見えそうなくらいに近づけ、ぺろりと舐めた。
――――驚くべき事に、今のユリウスには邪念がほぼ零である。
「――――ひゃあああうううんっ! ゆゆゆゆゆゆりっ、ゆりっ ゆりうすさまっあああああああ!?」
「ちゅう~~っ…………はぁ、五月蠅いぞ黙れ。――にしても、不思議だなお前の肉体は……、こんなに柔らかいのに太っている訳ではないし、汗をかいているのにいい匂いだ。その汗だって、何故だか美味しい」
「――――はひゃふぇほえおっぽにゃるごぅわにゃっ!?」
背中を弄ばれ吸いつかれるだけでも、刺激が強いのに。
熱の籠もった声で耳元で囁かれ、けれど視線は劣情ではなく、しかして貪る様な冷静な目。
その瞳に射抜かれて、カミラの自覚のない被虐心が呼び覚まされ、羞恥心と共に確実に言語機能を破壊する。
「さあ、次は右腕だな…………どれ、今度は噛み応えでも見てみるか…………」
思いのままに背中を弄んだ後、キチンと背中を流したユリウスは次の標的へと向かう。
「~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!?」
ぼそっと、だがしかし、確かに出された声にカミラは戦慄する。
(し、死ぬっ! こんなの死んでしまうっ! な、何でいきなりゲームで両思い状態のインモラルS男ユリウスになってるの!? こんなの私知らない――――――っ!?)
知らないも何も、答えに至っている事に気が付かないカミラは、左の二の腕に甘く歯が当たる感触に身を震わせ。
恐らくこれが、全身続くという事実に“天獄”を見て気を遠くしかけた。
□
「はぁ……はぁ……はぁ……はぅぅ…………」
「ふむ、こんなモノか……」
カミラの荒い息と、ユリウスの冷静な声が浴室に響きわたった。
正味三十分程だったか。
カミラにとっては永遠の被虐羞恥“天獄”に等しい時間は終わりと告げた。
大人の階段を上る前に、もっと高度な事をした気がするのは気のせいだろう。
最後に髪を洗ってらった時は、心地よすぎてうとうとしたのは、バレていないだろうか?
――いいえ、ばっちりバレています。
ともあれ。
選手交代だと、今度はユリウスが椅子に座り、カミラに背を向ける。
「ほら、とっとと始めてくれ。俺はそろそろ湯船につかりたい」
「あ、はいぃ…………わ、わかりましたわ…………はふぅ…………」
ユリウスの自分勝手な言葉に反感を覚えるどころか、胸をきゅんきゅんさせたカミラは、ユリウスの背中に手を伸ばし――――そして、その手を止めた。
見覚えのある、大きな大きな深い傷跡が“無い”。
(嗚呼、嗚呼……そうでしたわね……)
被虐も羞恥も、幸せすらカミラの中から急速に消え去っていく。
これは、カミラの無力である証。
――――そして、罪の、証。
ユリウスの背中には、大小様々な傷跡が残っていた。
一際大きなのはきっと、ユリウスが里子に出された原因。
赤子の頃の魔族の襲撃で付いたものだろう。
小さなモノは、王国の影となる訓練で付いたものだろう。
「ユリウス様…………」
その一つ一つを、カミラはそっと指先でなぞる。
慈しむ様に、後悔する様に、そっと、そっと、優しく、優しく…………。
“無い”筈の傷跡まで、優しく。
(ごめんなさい“ユリウス”様……、私は、私は……。嗚呼、嗚呼、嗚呼、ごめんなさいユリウス様…………、私は全部を見ていた…………見る事しか、出来なかった。ごめんなさい、ごめんなさい…………)
鏡越しに、カミラの瞳が曇ったのをユリウスは見逃さなかった。
でもその理由を理解する事が出来ずに、だからこそ、気づかないフリをして言う。
「どうしたカミラ? お前なら知っていただろう、俺の背中に傷がある事くらい」
「え、ええ…………、知っていたわ」
見ていたから、と言う勇気は今のカミラには存在していなかった。
言ってしまえば、楽になるだろうか。
鼻で笑い飛ばす? それとも責める? カミラは想像すらしたくなかった。
(嗚呼、嗚呼……。私は、私は…………)
手を止めてしまったカミラに、ユリウスは静かな目で伝える。
「そこにある傷も、無いところも。全て俺が選んだ決断の果てにあるものだ。――――お前が気に病むものじゃない。俺の人生を勝手に背負い込むな馬鹿女、それは俺のモノだ」
溜息混じりの言葉が、カミラの心を引き上げる。
それは地面に雨が染み渡るが如く、ゆっくりとした速度だったが、確かに、癒しとなったのだ。
「さ、続けてくれ」
「――はい、ユリウス様」
カミラは静かに、背中を洗い始めた。
いつもなら興奮し、アプローチをかける所であったが。
不思議とそんな気になれず、ただ一心、ユリウスの事だけを想い、手を動かした。
背中から腕、腕から前、そして下半身を洗い上げ、先ほど自分がされたように、優しくユリウスの髪を洗う。
「――――ああ、こうしていると。何だか夫婦みたいだな俺たち」
泡が入らないように目を瞑っているため、ユリウスは見えなかったが。
その何の意図も無く言った言葉は、カミラの涙腺を揺るがした。
「ええ、本当に…………。仲のいい夫婦みたい」
「ああ、出来ればお前とは。そうありたいと思っている」
すんなりと口に出た言葉に、ユリウス自身は少し驚き。
そうなのだな、と納得し、同時にカミラの泣きそうな言葉の響きを感じ取って、手錠に繋がれた手を、そっと握る。
「俺は、お前が何に悲しんでいるのか解らない。――――だから、お前を理解したい」
「――――はい、はいっ!」
震えた声で嬉しそうに返事をするカミラに、ユリウスは続けた。
「だからさ、話をしよう。――――俺たち二人の話を」
「はいっ! ユリウス様っ!」
髪の泡を流していないユリウスの状態を気にせず、カミラは抱きついた。
その時、肩に落ちたのは水滴だったのか、涙の滴だったのか。
ユリウスには判断できなかったが、取りあえず――――。
「カミラ、俺は逃げないから。――――そろそろ頭を流してくれ」
「へ? あっ!? ごめんなさいっ! 今すぐに――――」
カミラは慌てて、ユリウスの泡を流し始める。
なお、ユリウスに抱きついた事により付着したカミラの泡は、キチンとユリウスが洗い流した。
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知ってますか?
54話からなる今回の日常回は、スタートから数時間しか経っていません!
濃密ですなぁ……。




