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06話 第一回悪役会議



 時刻は夕方、結局はカミラの事前の根回しによって、ユリシーヌからの追求を切り抜けた後。

 サロンに戻ったカミラは、ヴァネッサからの『お見舞い』を受けていた。

 来訪の目的は先の手紙の内容、彼女との同盟、についてである。


「それで? 貴女随分とお楽しみの様だったじゃない」


「まったく持って、愉しい余興でしたわ」


 うふふ、おほほ、という笑い声が響くカミラのサロンにて、アメリとヴァネッサの取り巻き達は、悪役達の会合だこれー! ガビーン! となっていた。


 ヴァネッサ・ヴィロランド。

 ロングのブルネット巻き毛で、主人公のライバル。

 ――何故か現実では、カミラをライバル視しているが。

 彼女はつり目の悪役令嬢顔ともあって、現実的にも誤解されやすい人物であった。


 そんな人物が、学院でも噂の怪しげ美少女(笑)カミラと向かい合っているのだ。

 二人の部下達は、何があっても他の者の入室を阻止しなければならない、と意気込んでいた。

 誤解は必須の惨事である。


 無論、密会であるからして、訪ねてくる者はいないのだが、そこはそれ。

 無用な誤解は避けたいのが人の心である。


「それにしても驚きましたわ、カミラ様がわたくしと手を組みたいだなんて」


「敵の敵は味方、と言いますでしょう?」


「おほほ、あんな小物を敵だなんて、カミラ様もおかしな人ですこと」


「ふふっ、確かにあの者は小物ですわ。――しかし、そう切り捨ててはいけない理由がございます」


 さらりとカミラが述べると、ヴァネッサの前にアメリと他の者が慌て始める。


「カ、カミラ様? わたし達、ちょっと退出していいですかー。用事を思いついたもので」

「ヴァネッサ様、私達も。少々席を外して……」


「おほほ、聡いわね貴女達、でもダーメ。わたくしの勘だと、遅かれ早かれ知ることですもの、一緒に聞きなさい。よろしくて? カミラ様」


「貴女はもう遅いわアメリ。……流石ヴァネッサ様、勘なんてご謙遜を。大凡、調べはついていたのではなくて? ふふっ、早ければ今学期末にも知る事になるのだから、ご友人の方々も一緒にお聞きなさい」


「ですってよ貴女達」


「ぐぅ、カミラ様の外道ぅ……」

「……では、お言葉に甘えて」


 とんでも無いことに巻き込まれている……! と部下達が戦々恐々としている中、カミラは語り始める。


「セーラ様がこの学院にご入学なされたのは、他でもない、彼女が『聖女』様だからよ」


「正確には今代の『聖女』候補ですわよね」


「でも、他に現れていないのだから、彼女でほぼ決まりでしょう」


「僭越ながら質問を……、何故セーラ、様が『聖女』だとして、何故お二方が手を組む必要が?」


「ええ、尤もな質問だわ」


「ああ、それならわたくしも聞きたかったの。貴女には色々と『貸し』があるから、協力関係になるのは構わないけれど。何故彼女を敵視するの?」


「ふふっ、貴女達は疑問に思った事はない? 何故ゼロス殿下のご友人の方々、将来の王のお側に立つ者達が、熱心に彼女に入れあげているのを」


 カミラの言葉に皆、思い当たりがあるのか躊躇いがちに頷く。


「……その物言い、彼女が『聖女』である事に関係しているのかしら?」


「ご明察ですわヴァネッサ様。『封印されし魔王』に対抗すべく現れる『聖女』、その大いなる役割を円滑に果たすべく、強い『魅了』の力を授けられているのよ」


 『聖女』が『魅了』の力を持つ。

 それは設定資料集で明かされた、正規の設定である。

 なお、ファンはこの事に対して評価がきっちり二分しており、カミラの中の人は肯定派だったが、今となっては否定派、そのトップとも言えるだろう。


「確かに……。彼女の入学以来、不自然なまでに彼女へと、殿下の友人方が熱を上げていると存じておりますが。――それら全て『聖女』の『魅了』の力――」


「――で、ではカミラ様! リーベイきゅんがっ! 私の婚約者が急に冷たくなってあの子にベッタリなのも!?」

「あの束縛癖しかないエミール様が、婚約破棄を申し出てきた事も!?」

「ウィルソン様が、筋トレよりもわたしよりも、セーラさんにゾッコンなのも?」


「え、ええ、そうね……」

「……貴女達ったら、もう」


 食い気味に答えたヴァネッサの取り巻き、攻略対象の婚約者達に、カミラは気圧されながら肯定した。

 彼女たちの様子とは逆に、ヴァネッサは冷静になったらしく、困り顔で何かを思案している。


「あの秀才天才脳筋と名高いイケメン三人衆の正体が、そんなだったとは……このアメリの目を持ってしても見抜けなかった……!」


「一人はそんなに変わっていないのでは……?」


 とぼけた事を抜かす主従に、ヴァネッサは質問する。


「それが本当である証拠は? 国一番と認められた貴女の言うことです、恐らく本当なのでしょう……。しかし、貴族の娘として、将来の王妃として、言葉だけで信じる事はできませんわ」


 きっかりと言い切ったヴァネッサに、カミラは頷いた。


「でしょうね。では明日、王子の制服の裏に縫いつけた私特性の護符を剥がしてごらんなさい。きっと直ぐにでも彼女の虜になるでしょうから」


「――なっ!? 王子までも。……いえ、歴代の『聖女』の周りには、後に時の権力者となった者達がいたと伝わっているわ。王子とて例外ではない、でも何故王子はわたくしと――、否、それは愚問というやつね」


 ヴァネッサはそう言うと、悔しそうに礼を述べた。


「貴女がわたくしを担ごうとしている疑いはありますが――、ありがとう、殿下を守って下さって。貴女にはまた借りが出来てしまったわね」


「ヴァネッサ様、カミラ様に“借り”とは?」


 寝取られ組の一人が挙手する。


「ああ、貴女達は気づかなかったのね。昔、わたくしとゼロス殿下の仲は大層悪かったのよ。殿下にしてみれば、ご自分の器不足で押しつけられた婚約者だと思っていらしたし、わたくしも、殿下の婚約者だと言うことで我が儘放題でしたもの」


「それは……でも昔の事ではありませんか」


「ええ昔の事よ、でも高慢だったわたくしの鼻を折ったのは、――もっと我が儘だったカミラ様」


「言われてますよカミラ様」


「褒め言葉よ……たぶん」


「折れて自棄になりかけたわたくしを支えてくれたのは、ゼロス殿下だったわ。でもそれは、カミラ様の差し金だって教えてもらいましたもの」


「…………あの脳筋二号め」


(一号はウィルソン様ですか? って聞く空気じゃないみたいですね……)


 さすがカミラ様と茶々入れるアメリに肘鉄して、カミラは居心地悪そうに座っていた。

 二人の関係の改善は、あくまで己の欲望の為にした事なのだ。

 感謝されるとなると、時の流れに置いてきた筈の罪悪感が、なんというか痛む。


「カミラ様をライバルとして、幾度と無く勝負を挑んできましたが、カミラ様はその度に、殿下との仲を取り持つアドバイスを、それとなく残していってくれました……」


「カミラ様……そうだったんですね」

「今まで、強大な魔力を盾に好き放題する変人だと思っていてごめんなさい!」

「カミラ様の作った化粧品、愛用してます! ヴァネッサ様のお肌もカミラ様のお陰で艶々なんですよ~!」


「貴女達……私はどう受け取っていいのよ……?」


「いつもの様に、ポジティブに受け止めればいいのでは?」


「ま、まぁ、わたくし達が貴女に感謝している事と、同盟を受け入れる事を判ってもらえれば、それでいいわ」


「ありがとう、嬉しいわ。ああでもセーラへのちょっかいは、焚きつけるぐらいにしておいて頂戴」


「成る程、それで……。こちらから手を出せば、後々付け入られる隙を与える、という事ね」


「話が早くて助かるわ」


「――でも、もう一つ明かしておかないといけない事があるでしょう? カミラ様」


 ?を浮かべるカミラとアメリを前に、ため息を付きながらヴァネッサは問いかけた。


「セーラ様がこの学院、ひいては王国にとって驚異なのは解りました。けれど、何の為にカミラ様は彼女と戦うのでしょう? わたくしは存じ上げておりますわ、貴女が純粋に王国の為に動く人物ではないと、その行動の裏には、何らかの目的があった筈です。――そして今回も」


「何考えてんだ邪悪腹黒って言われてますよ、カミラ様」


「……認めるけど、意訳しすぎ。後でお仕置きよアメリ」


「おほほ、口は災いの元ですわね。それで、どうですのカミラ様?」


 カミラはアメリの用意していた紅茶で、喉を潤してから答えた。

 なお、アメリの縋る様な視線は無視である。



「――私は、ユリシーヌ様を愛しておりますわ」



「そう、ユリシーヌ様を愛して……愛して……? え、えっ? それは……?」


 戸惑うヴィネッサ以下を見て、アメリがやけっぱちでフォローを入れる。


「そう! 性別を越えた愛! カミラ様は性別を越えた愛をユリシーヌ様に感じているのですッ!」


「ま、まぁカミラ様には浮いた話もなかったですし? そういう事だったのかしら……? 確かに学院の女生徒の中には、ユリシーヌ様をそういう目で……、つまり、そういう事なのかしら? かしら?」


 カミラの真剣過ぎる目に、本気を悟ったヴァネッサは、本能的に身の危険を感じて、椅子事一歩下がる。

 それを見たアメリは畳みかけるように言った。


「カミラ様とて! ただユリシーヌ様が愛おしいだけでこのような事はなさりません! 何故ならば――!」


「……ごくり。何故ならば!?」


「先ほどの『魅了』の話、ユリシーヌ様にも有効なのです……。幸か不幸か、ユリシーヌ様には強い耐性がおありの様ですが。……なによりセーラは、お三方の婚約者達では飽きたらず、王子やユリシーヌ様まで狙っていると、わたしは聞き出しました……。そんな女に狙われていると知って、何故じっとしていられる事ができましょうっ!!」


「そうですわね! 真逆、王子まで狙っているとは、カミラ様、アメリ様、よくこのお話を持ってきてくださいました。わたくし、全身全霊を以て協力いたしますわ!」


「私達も!」

「お力になりまぁす!」

「だから後で例の護符、ください!」


「えい、えい、おー!」


「えい、えい、おー?」


「えい、えい、ショタ!」

「えい、えい、ヤンデレ!」

「えい、えい、筋肉!」


「……いったい、どうしてこうなったの?」


 一致団結? の姿を見せた悪役令嬢同盟に、カミラは頭を抱え、もとい大層喜んだ。


悪は滅びぬよ……、何度でも蘇るのだ、カミラ様の如く。

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