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59話 皆さま知っていましたか? カミラ様はマイペースである事を……

今更ですが、カミラ様はヒロインです。

え、知ってた?



(こちらユリウス・エインズワース! アメリ嬢、セーラ嬢、応答してくれッ!)


 トイレに戦略的待避したユリウスは、扉にもたれ掛かりながら、すぐさま共犯者二人に連絡した。

 さっきの脳内会議で出てきた偽物より、余程いい助言を望める筈だ。


 カミラがその気になればこんな木の扉など、先ほどの制服の二の舞だろう。

 違和感を覚えて突入してくる前に、何らかのアイディアを得たい。


 祈るように返答を待つ、それは僅か数秒だったがユリウスには永遠にも等しく感じた。


(どうしましたヘタレーヌさま、不測の事態でも起きましたか?)


(何白々しく言ってんのよアメリ、あの糞オンナ相手に不測の事態が起きないわけないじゃない)


(…………解ってたなら、もう少し助け船を出してくれ)


 脳天気な声に、苛立ちを覚えながらユリウスは主題に入る。


(今俺は、トイレの中にいる。カミラは扉の外で一応縛って転がしてある)


(いやそれ、新手のプレイとか思われてません?)


(よくやった、と言いたい所だけど。何してるのアンタ。とっととハメちゃいなさいよ)


(ぐぬぅ…………、そうもいかないから隙をついて連絡しているんだろうがッ! 長すぎると怪しまれるから、早く何かこれからの案を言ってくれッ!)


(案っていっても…………)


(ハメる以外に何があるのよ?)


 ユリウスは、二人が呆れた顔をしていると直感した。

 事実、声にそれが現れている。


(今この瞬間にカミラと肉体関係を持てば、その先はきっと駄目な方向へ向かう、向かうんだきっと)


(俺の体、本能は半分以上駄目だ、悔しいが疾うの昔に籠絡されている――――このままだとアイツに堕ちるのも時間の問題だ……)


(別に良いんじゃない? アンタが手に入れば大人しくなるでしょ)


(…………そう、ですか)


 セーラの適当な返事に対し、アメリは少し思案した。

 ユリウスの言葉に、カミラへの真摯さを感じたからだ。


(…………ユリシーヌいえ、ユリウス様。わたしは今回の事に、ささやかな意趣返しとカミラ様の幸せを思って参加しました。――――では、ユリウス様は? 何を今思っているのですか?)


(あ、アタシは百パー善意だから)


(セーラの戯言は無視していいので、どうかお答え頂けませんかユリウス様……)


 どこか懇願するような響きに、ユリウスは思うがままを伝え始める。


(…………最初は、最初は俺もそうだった。そしてセーラの言うとおり、こっちから迫って、支配してしまえばアイツが悲しむことはないと、思ったんだ)


(悲しむ? カミラ様がっ!?)


(ああ、アイツはいつも俺の事を楽しそうに追いかけて迫ってきて。――でも、距離が縮まる為にアイツは“泣く”んだッ! 嬉しいと言って泣くんだよアイツはッ!)


(最初はただ戸惑ってた、気味悪いとすら思ったかもしれない。でもアイツは俺の事が好きだと、愛してると言って、諦めていた“男”としての、日の当たる居場所に強引に連れ出した)


(――嫌だったのですか?)


 静かな言葉に、ユリウスは全身全霊で否定した。


(違うッ! 違うんだッ! ――――“嬉し”かったんだよ俺はッ! なのに返せるモノは何もなくて、っただ側にいただけだッ!)


(ふぅん、でもカミラが勝手にやった事じゃない。返さなくてもよくない?)


(…………そうですね。全て、全てがカミラ様が勝手になさった事です。ユリウス様がそれに答える必要はありません。――――でしたら何故、返したいと思ったのですか?)


 その問いに、ユリウスは唇を噛んだ。


(――――――思ってしまったんだ)


(何をです?)


(カミラが照れる顔が可愛いと、笑う顔ももっとみていたいと、そして)


(カミラの泣き顔を見たくないと。そして、護りたいと思ったんだ。――――――でも、護る所か、俺を庇ってアイツは死にかけた…………俺には、俺には何が出来る?)


 苦しみに満ちた声に、セーラは率直に聞く。


(カミラの事、重たいの?)


(ああ、重たい、重たいさ……重たすぎて、今すぐ逃げたいくらいだ……)


 アメリは、優しく逃げ道を示す。


(別にいいのですユリウス様。カミラ様は悲しまれるでしょうが、きっと貴男が思い悩む事のほうが――ずっと悲しまれる。だから…………)


(逃げてもいい、か。まぁアタシもそれには同意見ね。ここでアンタらがくっつけばいいと思うけど、無理してくっつけてもねーー)


 “答えなくていい”“逃げてもいい”

 その言葉に安堵を覚えると同時に、ユリウスは強く、強く奮い立った。



(――――ありがとう。でも、俺は……、それでも“答えたい”と“返したい”と思ったんだ)



(…………アンタ馬鹿ね)


(ユリウス様……)


(認めよう。俺はカミラの事が好きなんだ。籠絡されてしまった…………でも、だからこそ)



(だからこそ、――――俺はムカつくんだ)



 思いがけない言葉に、アメリとセーラの両方がきょとんとする。


(ムカ)


(つく……ですかユリウス様!?)


(だってそうだろうッ!? 不公平じゃないかッ! 俺の事は全て知られているのに、アイツの事で知っているのは俺の事が好きな事と、俺の好みに体を成長させた事、両親が強い事、アメリ嬢やセーラ嬢、殿下達を大事に思ってる事。それ位しかないんだぞッ!?)


(わりと十分でしょ)


(それはつまり――――カミラ様の事がもっと知りたいと?)


(――ああ…………ああッ! そうしたいんだな俺はッ!?)


(自覚無しだったのアンタッ!?)


(で、ですがこれは大きな一歩ですよっ!? ……あれ? ならそうすればいいじゃないですか?)


(…………だから最初に言っただろう。アイツの裸を前に、冷静で居る事は難しいんだ)


(裸…………あー、うん。ドンマイ!)


(攻めすぎですよカミラ様…………)


(どうすればいいか、知恵を貸してくれッ!)


 その切実な言葉に、二人は一瞬黙った。

 そして数秒後、答えを出す。


(…………意見が纏まりましたユリウス様)


(言ってくれ)


(こうなったら荒治療で耐性を付けるしかないわ)


(耐性?)


(裸で一緒に風呂に入りなさい。背中でも洗って直に触れて、少しでも耐性つけて。そんで、心と体が温まればカミラも少しは冷静になるでしょ)


(大事な事は、ユリウス様がカミラ様の事を知りたいと、キチンと示す事ですよっ! ユリウス様の真摯な言葉ならば、カミラ様はきっと聞き届けてくれる筈ですッ! 頑張ってくださいっ!)


 そのアドバイスを、ユリウスはしかと受け止めた。



(わかった…………恩に着る。ありがとう二人とも)



 ユリウスは“念話”を切り、静かに立ち上がって扉を開いた。



 一方扉の前に放置されたカミラは妄想に浸っていた。

 ユリウスが確かな一歩を踏み出す中、想い人を変態認定するかどうか迷っていた。


(ふひひひひひひひぅっ! どうしましょう、どうしましょうっ!? いきなりシモのプレイなんて早すぎないかしらっ!? ああでもユリウス様が望むなら……嗚呼、嗚呼、隅々まで、人間の、女としての尊厳まで、晒してしまうのかしらっ!?)


 鼻息荒く、ユリウスのトイレが長いのも気にせず、思考のループに陥り、体をくねらせている。


(お、女は度胸っ! 愛する男の為ならこのカミラ・セレンディア! 新しい扉すら開いてみせるっ!)


 決して、家名を出してまで宣言する事じゃない。

 そうしている間に、ガチャっとドアノブが回る音がして、トイレの扉が開かれた。



「待たせてすまないなカミラ。――――じゃあ取りあえず風呂にでも入ろうじゃないか。…………背中洗ってやるから感謝しろよ」



「…………も、もが?」

(あれ? トイレプレイじゃない…………? え、あ? お風呂? 背中流してくれる? は? え? はぁ? うえっ? えええええええええええええええええええええええええええええええええええっ!? や、やったああああああああああああああああああああああああああああああああっ!)


 またも想定外すぎるユリウスの言葉に、カミラは羞恥と歓喜で卒倒しかけた。



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昨日言った通り、可能であれば明日明後日もも投稿しますん!

月曜からはいつも通り、毎日更新……できるかは来週の作者次第です(^^♪

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