51話 暴かれた真実
所で、タイトルって真面目な方がよかですか?(今更な質問)
ユリウスの問う様な視線を余所に。
カミラは静かに舞台に立った。
観客の大きな歓声の中、笑みもなくただ静かに相手を見つめるカミラ。
仮面を被った正体不明の二人も、カミラの敵意を感じ取って、油断なく武器を構えている。
「それではタッグトーナメント! 決勝戦開始いいいいいいいいいいいいいいっ!」
アメリのシャウトと花火がドンと上がり、開戦が告げられる。
「その正体――見せて貰うわ」
直後、カミラは魔銃剣を二丁ともクイックドロウ。
魔弾、否、もはやSFに出てくるビーム砲の様にとなったそれを放ち。
光の大奔流で、仮面のペアを否応無く焼き殺す。
「開幕早々ぶちかましたあああああああああああ! これはカミラ様の勝利が決まってしまったかあああああああああああああ!?」
「……いきなりかカミラ嬢」
「ちょッ! カミラ!? いきなりやりすぎ――――ッ!?」
沸き上がる観客と実況。
それらの事など眼中に無いカミラは、驚くユリウスに冷たく告げる。
「――――まだよ」
「何? あれだけの魔力で放たれて攻撃に、耐えられる者なんて……」
光が消え、変わりに立ちこめる煙の向こうに、ユリウスは人影を探す。
そこには、仮面の二人が倒れていると誰もが予想していた――――しかし。
「あ~~あ、真逆。いっきなりそーくるなんてね、中々やる、と言ってでも欲しい?」
「おうおうおう、吃驚したぜぇ。嬢ちゃんの守りが無かったら消し飛んでいたとこだぜ!」
「――――バカなッ!? お前達はッ!?」
「これが答えよ、ユリウス」
カミラは魔銃剣のシリンダーを倒し、弾薬を装填する。
――そっちがその気なら、徹底的に潰してやるわ。
「おおおおおっっとおおおおおおおっ!? 流石決勝戦まで上り詰めた猛者あああああああああ! 今のを耐えて…………、耐えて…………って、セーラ!? セーラじゃないっすか!? 何でそんな所にっ! っていうか逃げて逃げてッ! 隣に魔族っ! 魔族があああああああああああああ!?」
「いかんっ!? 魔法使い達! 結界の密度を上げて閉じこめよっ! 衛兵は観客の避難誘導を始めろっ! 我が民達よ、落ち着いてこの会場から逃げるのだっ!」
阿鼻叫喚とは、この事だろうか。
カミラは銃口をちらつかせながら、観客の避難が終わるのを待つ。
幸いかどうかは解らないが、目の前の二人にカミラ達以外に敵意を向ける様子はなく、こちらは悠然と構えていた。
(――嗚呼、嗚呼。これはシナリオの修正力だと言うの? それとも、貴方が態と仕組んだ事なのセーラ)
「カミラ、お前はこれを予見していたのか!? あの魔族は俺達がこないだ倒した奴じゃないかッ!?」
「残念だけれど、私が想像していたのはセーラの事だけよ。魔族については、可能性を少しだけ」
「……お前、少なくともセーラの存在は確信して、あの攻撃したのかよ」
声だけ呆れながら、顔は険しく魔族とセーラに。
ユリウスは聖剣を構え、いつでも駆け出せる状態だ。
「大丈夫よセーラなら。私の攻撃はセーラの命を取らない。そういう世界の仕組みなのだから」
「お前の言う事は、偶に訳が分からないが。確証があるなら言ってくれ、心臓に悪い……」
今の時刻は夕暮れ前、日が沈むのにはまだ早いが。
目に見えて太陽が急速に沈んでいく。
魔族がその力を万全に発揮している為、この辺り一体に“夜”が来ているのだ。
そして周囲の変化はそれだけではない。
大気中に含まれる微細な魔力が全て、セーラの下へ集まっている。
カミラが何も対応しないので、ユリウスも放置しているのだが、セーラは長い呪文を唱えている最中だ。
(――さっきから体が動かない、味な真似してくれるわね)
カミラは“何もしていない”のではない、何も“出来ない”のだ。
この呪文は、魔王を封じる為に世界の理が許した特殊な魔法。
そしてそれは、まるで世界を塗り替えるような――――。
「――――――――、世界に遍く光りあれ。正しき愛の力にて、世界の歪みを。今ここに閉じこめん事を――――!」
その刹那、舞台が淡い光のドームに包まれた。
体の自由が戻ったカミラは、唇を強く噛む。
「完全閉鎖結界――――“聖愛の祈りの間”」
「知っているのかカミラッ!?」
「ええ、よーーく知っているはずよそこの女は」
カミラは内心で大きなため息を吐きながら説明した。
出来るならば、もっと後に話そうと考えていたが……。
「“聖愛の祈りの間”――それは、対“魔王”用に、始祖の衣装を身につけた聖女だけが使える“最終結界奥義”」
「対魔王用の結界ッ!? 何故セーラがそんなものを俺達に使う!?」
「あら、誤解しないでねユリウス。アナタは巻き込まれただーけ、アタシ達が用があるのはそこの糞モブ女!」
「訳が分からないッ!? どういう事なんだカミラ!?」
「可哀想にユリウス……、こんな邪悪な女に纏わりつかれた上、何も教えて貰ってないな・ん・て! クスクスクス」
セーラがニヤついた顔をユリウスに向けた。
カミラは舌打ちして、問いかける。
「セーラ、貴女の目的は何? 何故魔族と組んでここにいるのかしら?」
本当は問わなくても解っている、けれどカミラは言わずにはいられなかった。
そして――――ユリウスに真実が開かされる。
「愚問だわ――――“魔王”カミラ。聖女は魔王を倒すために居るものよ」
「…………魔王……カミラ? 何を馬鹿な事を……なあカミ……ラ……?」
一瞬、ぽかんと呆気にとられたユリウスは、カミラに笑みを向けるが、直ぐに表情が強ばる。
カミラが何も反論せずに、見たことがないほど冷たい顔をしていたからだ。
「ああ、聖剣使いの坊主。コイツの言っている事は正しいぜ。魔族であるオレが保証すらぁ……この方、いや、この女こそが“新しい”魔王陛下さ」
「う、嘘だろうカミラ……?」
ユリウスは構えていた聖剣をだらりと力なく下ろし、カミラに疑いの目を送る。
カミラは、その視線に泣き出したい気持ちを押さえ付け、高慢に言い放った。
「――――嗚呼、とうとうバレてしまったわね。……ふふっ。そう、この私。カミラこそが先の勇者が封印し魔王を殺し、その存在を奪った者」
「――――新しき“魔王” 聖女も魔族も、皆ひれ伏しなさい! お呼びじゃないのよ!」
言い切ったカミラに、セーラが唾を地面に吐き捨てる。
「気にくわないわねっ! モブの癖に出しゃばってんじゃないわよっ! 行きなさい下僕二号!」
「下僕じゃねぇよこのアマっ!」
反論しながらも、魔族フライ・ディアは突進。
狙いはカミラ――ではない、呆然としているユリウスだ。
「――避けなさいユリウスっ!」
「遅い! しばらく転がってな兄ちゃん!」
慌てて聖剣を構えるも、一手遅し。
ユリウスは聖剣を弾き飛ばされた上、腹部に強烈な拳をくらい、転倒。
更に魔法で束縛までされてしまった。
「あははっ! 見ててユリウス! アタシが今からコイツを殺して、世界を平和にしてみせるわ!」
「――――ぐはッ! や……、やめ……」
制止しようとしたユリウスだったが、先の一撃の影響で声がでない。
慌ててカミラが向かおうとするも、フライ・ディアが立ちふさがった。
「命が惜しければ、退きなさい――――!」
「はっ! 知ってんだぜ! アンタはこの中じゃあ“魔王”の魔力も、魔族への絶対服従権も使えないってなああああああああ!」
「――ちぃっ! 落ちなさいっ!」
フライ・ディアの突進を回避し、カミラは魔銃剣による射撃。
出し惜しみせず全弾六発、二丁で十二発。
「ふんっ! そんなものかよ魔王サマっ! ならさあああああああ! 泣いて謝って死ぬまで嬲ってやるからよおおおおおおおお!」
魔王の魔力が封じられたカミラは、ただの凡人の魔力しかない。
そも、魔銃剣は対人を想定して作り出したものだ。
魔族相手では力不足という事を実感して、カミラは焦った。
(この儘では不味い――――、セーラ自体は“素”の私でも勝てる! けど魔族と二人がかりとあっては――――!)
次の弾薬を込める暇も、呪文を詠唱する隙すら見つけられず、カミラは接近戦に突入する。
利き手ではない左の魔銃剣を捨て、右のを両手持ち。
その上で残った魔力を総動員しても、フライ・ディアの鉤爪を受け流すのが精一杯だ。
「俺達魔族はアンタを恨んでいる。そしてこの頭のオカシイ“聖女”サマもだァ!」
「――くぅっ! ――はぁっ! ――ちぃっ!」
「答えろよォ! 何故魔王サマを殺した! 魔族は! 魔王サマは! 人類の敵だ! でもさァ!」
「くううううううううううううううっ!」
「魔王はお前に手ェ出してねェだろうがよおおおおおおおおおおおお!」
激昂したフライ・ディアは、怒りの儘に腕を振るう。
カミラのあちこちに傷が増え、少しずつ“死”へと近づいた。
「何ァ故ェ! 魔王を殺したあああああああ! 何ァ故ェえええええええ、魔王に成った! そもそもォ! 何故お前が魔王を奪う事が出来たんだァ! 答えろよおおおおおおおおおおおおお!」
フライ・ディアは泣いていた。
泣きながら戦っていた。
(カミラ……カミラ……カミラ……!)
激痛が収まらぬ中、ユリウスは拘束魔法を解く為に解析を始めている。
だが、激しく揺れ動くユリウスの精神状態では、遅々として進まなかった。
(前から解ってた、何かを隠していると。――気付けた筈だッ! アイツの魔力は不自然だって、俺は、俺は――――)
ここから立ち上がって、それから、どうすればいい。
魔族の味方をする? それは否だ。
何故ならユリウスの父カイスは、魔王との戦いの傷が元で死んだのだ。
恨む理由はあってこそ、味方をする理由はない。
ではカミラの味方をするのか?
魔王を殺し、セーラと魔族に恨まれ、人類の敵だったカミラに?
(だけど、だけど、だけど――――)
ユリウスは焦燥した。
初めて素の自分を愛していると言ってくれた女が。
その全身全霊で、愛していると伝えてくれた女が。
(俺の手が届かない所で死ぬなんて――――ッ!)
その刹那、ミシリと拘束魔法が悲鳴を上げた。
ユリウスが苦悩していた一方。
カミラはフライ・ディアの慟哭を一身に浴びながら、何も答えられずにいた。
「なァあああああああああっ! 答えろよォおおおおおおおおおおおおお!」
「言うべき事など……、何も、無いわっ!」
答えられず筈が無い。
カミラが先の魔王を殺したのは、ユリウスの全て。
体も心も手に入れる為だ。
だが、今ここでユリウスの名を口にし、責任の所在とするほど、愚かしい想いではない――――!
(誰かを犠牲にしてでも今の場所を願ったのは、ほかでもない私なのだからっ!)
「答えるものですかあああああああ――――あぐぁっっ!?」
カミラが動きを一瞬止め、吠えた瞬間に“それ”は起こった。
パン、と乾いた音が一回。
腹部にカッと熱いモノを感じた直後、ドサっとカミラが倒れる。
「うぐァ! ――ああっ~~~~~!」
続いて三回の音。
(あれは――――銃!)
カミラの持っている魔銃剣ではない。
カミラが復活させた本物の、旧時代の物理兵器。
(そんな! あれは家の金庫に厳重にしまってある筈――)
肩、足、右腕に、着弾の衝撃でのたうち回るカミラに、カツカツと足音を立ててセーラが近づく。
「あははっ、やっぱり現代兵器は便利なモノね。でも駄目じゃない。人間に憑依した魔族なら、あんな金庫簡単に破れたって言ってたわ」
「…………こ、の……泥棒……が……」
「盗人猛々しいのはどっちよ、アタシのシナリオをぶち壊しにしやがって。――そうそう、聞きたい事があったの? 冥土の土産に教えてくれない?」
「……………………っ!」
勝ち誇ったセーラの顔に、カミラは最早軽口を叩く余裕もない。
「何をどうしたか解んないけどさ、何でアンタは聖女を、奪わなかったの?」
「…………か、はっ…………!」
「ああ、そんな状態じゃもう何も言えないか? ご愁傷さま。地獄でユリウスがアタシのモノを指を加えて眺めてな、世界の全部をアタシが救う姿をね――――フライ」
「……こいつにゃ、まだ聞きたい事があったが。まぁいいや。あの世で魔王サマに詫びてきな」
フライ・ディアが大きく鋭い鉤爪を振りかぶり――――。
「――――やらせるかよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
カミラに当たる直前、ギリギリで拘束から抜け出したユリウスが、その身を投げ出してかばった。
(ユリウス――――!?)
――――死を目前に、カミラの世界はモノクロに染まっていた。
振り下ろされる鉤爪も。
飛び込んでくるユリウスも。
ニヤニヤ笑うセーラも、全てが色褪せ。
そして、――時が止まったかの様に。
ゆっくりと、ゆっくりと見えた。
(嗚呼、嗚呼、嗚呼、嗚呼、嗚呼。あああああああああああああああああああああああああああああああああああ!)
許して成るものか、断じて許して成るものか!
(死なせない! 絶対にユリウスだけはしなせない!)
何の為に今まで繰り返して、死の運命の先を掴み取ったのだ!
断じて、断じて、ユリウスの死を見る為ではない!
許せるものか、許して成るものか!
白黒の世界の中で、カミラの指がぴくりと動く。
それが過去に“何”を意味していたかも考えずに、ただひたすらに体に力を入れる。
「動いてえええええええええええええええええええええええええええええええええええ」
その深過ぎる激情に答える様に、体に力が溢れる。
「ユリ……ウス……!」
カミラは少しずつ、少しずつ動き。
自分に被さるユリウスを、更にに庇うように抱きしめた。
「――――ごめんなさいユリウス」
そして時間は白黒から、鮮やかな色彩へと戻る。
「――――馬鹿な、嬢ちゃん!?」
「何が起こってるの!?」
(何だ……、痛みがこない……?)
痛みがこない事を不審におもったユリウスが目を開けると。
目の前には誰もおらず、しかし、後ろで誰かが倒れる音。
「…………カミラ? え、は? ……カミラ?」
そこには、肩から斜めに大きく切り裂かれ、血溜まりの中に倒れたカミラの姿があった。
「カミラあああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
ユリウスの悲鳴が、結界内に響き渡った。
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感想レビューは一番上、最新話一番下
評価欄は最新話下
だぜ皆!
なだブクマや評価していない皆! ぽちっと押してカミラ様を応援するんだ!
そろそろ。ptがどかっと入る姿がみたい今日この頃です。
皆様の押した結果によって、カミラ様の行方が決まる………なんて事は絶対にありませんがw
ではでは




