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05話 私は既にモブではない、悪役令嬢だ…!

「どちらかと言うと邪悪令嬢では、カミラ様?」



 今日カミラは、普段立ち寄らない食堂へと向かっていた。

 目的は、主人公セーラに会うためである。

 

「いやー、大変でしたよカミラ様。あの取り巻きのお坊ちゃん達を、セーラから引き離すの」

「よくやったわアメリ、貴女が優秀で本当に助かってる」


 主人公セーラは、聖女として特定の血筋(攻略対象とアメリ)に対する魅了の力を持っている。

 王子にはカミラ薫製の対抗術式を織り込んだ魔法をこっそりかけて無効化しているが、恐らく王子本人には気づかれているだろう。

 アメリは気づいていないだろうが。


「ところで何でまた、あんな奴の所に?」


「ふふっ、あんな奴の所とは貴女も酷いわね。あれでもこの学院に入学した優秀な生徒よ。何の後ろ盾もない平民なのに、よ」


「……定期試験の成績が、実践魔法学以外全て平均点以下の人が?」


「まぁ、色々とあるのよ、色々と」


 聖女として覚醒した、と見なされるまではその辺の諸事情は公表されない。

 アメリが疑問に思うのも無理はないだろう。


「っと。そうそう、アイツの事じゃないんです。何でカミラ様がまた?」


「それはね『逃げ道』を潰す為よ」


 カミラはお得意の『愉しそうな』笑みを浮かべた。

 いやな予感を覚えながら、アメリは続きを待つ。


「あの方は頼れる人、行く所が三つに限られているわ」


「と言いますと?」


「一つは王子の所、これは昨日直ぐ先手を打ったわ」


「もう一つはヴァネッサ様の所ですか? 昨日の手紙も……」


「ええ、流石アメリね、よく覚えていたわ」


「……子供扱いしないでください」


 彼女の頭をよしよしと撫でると、少し不機嫌そうに口を尖らせた。

 しかし、拒否しないという事はそういう事なのだろう。


「そして最後の一つはセーラ、あの子の所よ」


「話の流れで、何となく推測は着いていましたが。なんでまた? ……確かに言われてみれば、あの女の周囲でユリシーヌ様を見かける事が多かった様な?」


「私としては、甚だ気にくわない事だけどね。ユリシーヌ様は彼女の陰からの護衛を任されているの」


「…………誰に、とは、何でとか、聞かない方がいいんでしょうね、今までわたしにカミラ様が言わなかったって事は、そういう事なのでしょうから」


「ふふふっ、やはり貴女はいい部下ね」


「怖いから、その胡散臭い笑いを止めて下さいカミラ様、ユリシーヌ様に嫌われても知りませんよ」


「あら、嫌われいる、という事は意識されている、という事でしょう。ならば問題ないわ」


「何でそんなにポジティブに考えているんですか……」


 アメリが盛大にため息を吐き出して嘆いている間に、カミラはセーラの事を思い返していた。


 セーラ、平民である為に家名は無い。

 長い赤毛が特徴的な、天真爛漫で努力家なヒロイン。

 主人公である彼女は物語終盤、今代の聖女候補として入学を許されていた事が判明した。

 そしてそれは、現実となった今でも代わりはない。


 ――セーラが転生者だという事実を除いては。


 これまでのカミラの観察により、彼女は重度の『聖女の為に鐘は鳴る』のオタだという事が判明している。

 認めたくはないが、カミラの同類である。

 しかし、それが故に二人の仲を一気に縮められる手段が存在した。


「――ほら、いましたよカミラ様。セーラはあそこです。……おーい! セーラ!」


「アメリちゃーーん! こっちこっちー! ……あれ?」


 カミラが思考に耽る間に食堂に到着した、といっても長い間ではなく、ほんの数分の事だったが。


 アメリは食堂の中央で、一人寂しく食事を取っていたセーラの下へ、カミラを案内する。


 親友(だと思っている)アメリの姿を見て喜んだセーラは、隣にいるカミラの姿を見て怪訝な顔をした。


「よっ、セーラ。朝ぶりだね、貴女に会いたい人がいるから連れてきたんだ」


「もーっ、それならアタシを連れてってくれればよかったのに。一人で寂しくご飯食べちゃったじゃない」


「ごめんごめん、それでこの方何だけど……」


 アメリの口元が微かにひきつっているのを、長い付き合いで判断したカミラは、ため息を押し殺しながら挨拶した。


「『初めまして』よね、セーラ様。アメリの主筋のカミラ・セレンディアと申します。いつも家のアメリがお世話しているようで……」


「いやいや、こちらこそアメリにはお世話に……あれ?」


「ふふっ、噂に違わぬ明るい方ね、セーラ様」


「ありがとっ! カミラ様みたいな綺麗な方にほめられちゃうと、照れちゃうな~~! あははっ!」


 大げさにくねくねと照れるセーラに、カミラは笑みを崩さないまま冷たい視線を送る。


(――はん、その態とらしい演技を止めなさい。貴女が外面だけの女って、こっちは判ってるのよ)


(ふーん、コイツが噂の学園二位の女で下僕アメリのご主人様かー。ゲームじゃ存在しなかったけど、アタシより綺麗なんて気にくわないわ)


「うふふっ」


「あははっ」


(何で二人共、笑いながら睨んでるんですかねぇええええええええええええ!?)


 突如として食堂で睨み合う二人の存在に、段々と周囲に野次馬が増え始める。


「それでっ! カミラ様はアタシに何の様ですか?」


「一つ、宣言しに来たのよ」


「へぇ~、何です? 楽しみだなぁ……」


「私達、きっと解かり合えると思うのよ」


 周囲が好奇心で見守る中、カミラはセーラにそっと近づき、耳元で囁く。


「性金はコイヌショタヤンデレマッソォ」


「コンナカワイイコガレディノハズガナイ――――はっ!」


 反射的に、サタデーナイトフィーバーをしたセーラは、信じられないモノを見る目でカミラを凝視した。


「ま、まさかアンタは…………!?」


「ええ、貴女の思った通りよ」


 カミラは殊更に、にっこりと微笑んだ。

 さっき囁いた言葉は、某掲示板の専用スレに入り浸る程傾向した者しか知らない、改変コラネタだ。


 これを知るのは、前世から堅い絆で結ばれた喪女しかいない――――!


「会いたかったけど、会いたくなかったわ、性金生徒よ」


「ええ、私もですセーラ性金生徒」


 ちなみに、性金生徒とはスレ内での米欄のデフォ名である。


 険悪な雰囲気から一転、過酷な戦いを潜り抜けた戦友の様に肩を組み始めた二人に、アメリを含め困惑の視線が突き刺さる。


「成る程、ゲームと違って妙なところが近代化してたのは、アンタが現代知識SUGEEEEした所為かっ! ……ありがとう馬鹿野郎! 何しに来たこのアマ!」


 額をゴリゴリと押しつけ会い、頭突きまで後一瞬、という空気の中、カミラは一言、小声で本題に入った。


「……ユリウスきゅんは俺の嫁」


「だが断るッ!」


「ふふふっ、ふふふふふふ……」


「あはっ、あはははははは……」


 ここに、交渉は決裂した。

 双方とも、頭突きをガツンとして引き離れる。

 やはり痛かったのか、二人ともおでこをさすっていた。

 見ている者はアメリも含め、さっぱり内容は判らなかったが、その雰囲気だけが伝わり息を飲む。


「……生憎と、トゥルー目指してんのよこっちは。引っ込んでなさい、ゲームでも登場しなかったモブが」


 セーラは親の仇に会ったの如く、カミラを睨みつけていた。

 カミラとはベクトルは違うが、彼女もまた『邪悪』の範疇だ。

 極上のご馳走を前に、横取りされる訳にはいかないと激高する。

 無論の事、誰も気づかないがカミラの精神操作(軽度)の魔法の補助もあっての事だが。


 ――そしてそれは、カミラの狙い通りであった。


「残念だけど、もう手が打ってあるの。この為に色々して来たんだから。――子犬(王子)と、踏みヴァネッサには、もう根回し済みよ」


「――――アンタっ! 無茶苦茶にする気!」


「さてね。……でもあの人のくっ殺とか、強制ジョソニーとか、とても愉しそうだとは思わない?」


(カミラ様……『じょそにー』とか『くっころ』が何なのか判りませんが、それってきっと、とても邪悪な事なんですよね、しくしく)


 アメリが胃を押さえ、そろそろ止めに入ろうかと思案し始めた時、群衆の誰かが、あっ、と声を上げた。

 セーラが、片手を振り上げたのだ。


「このっ――」


 瞬間、パァンと乾いた音と共に、カミラの頬が高らかに鳴った。

 そしてカミラは、ぐらりと体をよろめかせて派手に転び起きあがらない。


「――――っ!? カミラ様っ! 大丈夫ですか!」


(だから貴女は愚かなのよセーラ)


 倒れ伏したまま、カミラは心の中でほくそ笑んだ。

 公衆の面前で、カミラに手を出した。それこそが必要だったのだ。


 彼女が真面目に魔法の授業に励んでいたら、カミラの魔法に気づき、抵抗出来た可能性があっただろうが。

 今まで唯一の転生者で聖女という言葉に、ゲームとは違い努力をせず、胡座をかいて座っていた結果がこれだ。


 魅了の力は強い。彼女の虜である取り巻きや、魔力の低い一般生徒を使って、この事を有耶無耶にするだろう。

 だが、彼女が手を挙げた事実こそが、この先、彼女を追い落とす口実の一つとなるだ。

 そして――――。


「――――待ってくださいアメリ様。頭を打った可能性があります。カミラ様の頭を迂闊に動かさないでください」


「は、はい。解りましたユリシーヌ様!」


 そう、ユリシーヌにこの事を見せつけれる為でもあった。


「――こっ、これは違っ! この女が勝手に――っ! ユリシーヌ様っ! アタシは――!」


「私がカミラ様を医務室まで連れて行きます。アメリ様も一緒に着いてきて下さい」


 そして、ユリシーヌは険しい顔でセーラを睨むと、冷たく言い放つ。


「――セーラ様、何があったか解りませんが、貴女は手を上げるべきではなかった。後で生徒会役員に事情を聞きに参らせます。弁明はその時にお願いしますわ」


「……っ!」


 可愛い顔を顔を歪めるセーラを残して、ユリシーヌはカミラをお姫様だっこして進み始める。

 その光景に、同情や羨望の姿と、セーラへの避難の視線が集まっているのに気づき、アメリは戦慄した。


 一方カミラは、愛おしい人の腕に抱かれ、幸福を噛みしめながら気絶したふりを続けていた。


(今回は、先手を打たして貰ったわセーラ。今度こそ貴女なんかに負けないから。)


(そして我が最愛のユリシーヌ。また一つ貴男の外堀を埋める布石を打たして貰ったわ。 貴男がこの事を知ったらどういう表情をしてくれるのかしら? とっても愉しみだわ)


 カミラの邪悪が思考をしている、と感じ取っていたアメリは、この後どうやって誤魔化そうかと考えながら、獲物であるユリシーヌに同情していた。


「……強く生きて下さいユリシーヌ様」


「何か仰いまして? アメリ様」


「何でもありませんユリシーヌ様。さ、早くカミラ様を医務室へとお運び致しましょう」


「ふふっ、主人と違って優しいのねアメリ様」


「そ、そんな事は……」


(本性バレているじゃないですかカミラ様ああああああああああああ!)


 その後、カミラは無茶苦茶気絶したふりした。

セーラは良い奴です、カミラと同じく己の欲望に素直で、カミラと違って邪悪ではないのです。(悪でないとは言ってない)

カミラ? あいつは魔王だよ新たな魔王だよ

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